2023年オフィス・働き方はどう変わるか

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目次

新型コロナウイルスが猛威を振るい、日本では2020年3月に特別対策法が制定され、その措置として4月には緊急事態宣言が発令された。
当時は東京都内のテレワークの実施率が60%を超え、これまでオフィスに出勤するというスタイルしか選択肢のなかった働き方が大きく変化した。
2023年を迎えた今、3年前の働き方に戻るのではなく、新しい働き方へと一歩を踏み出そうとしている。
働く時間や場所を選ぶことができる新しい働き方を実現するために、リモートワークでの課題を検証しつつ、組織の制度からオフィスのあり方までを予測する。

2022年 総括

オフィスには人が戻っている

日本生産性本部が実施する「働く人の意識調査」によると、テレワークの実施率は2020年5月の31.5%から2023年1月は16.8%と約半減。このことからオフィスへの回帰が起こっていると言える。その一方で、リモートワークによって効率よく仕事ができるようになり、満足度も上がっているため、継続したいと考えている人々も多い。

コロナ禍後の働き方の変化(2020年5月と2023年1月の比較)

移転の検討企業数の増加

三菱地所リアルエステートサービスが調査・作成したアンケート結果によると、「現在物件探索中もしくは過去1年以内に移転した」または「移転を検討中である」と回答した割合は、回答者全279名に対して約30%であり、業種では「情報通信業」がもっとも多く、「製造業」が続く結果であった。また、「運輸業、郵便業」においては過去1年以内に移転を実施していないものの「移転を検討中である」という回答が多く、今後移転検討が増加していく可能性がある。

移転済・検討中企業の業種について

脱首都圏急増

テレワークやWeb会議が浸透しつつあるなかで、東京+αといった本社機能の複数拠点化や、社員の居住地制限の撤廃といった働き方の変化・定着により、企業の脱首都圏の動きは今後も続く可能性がある。2022年は2年連続の「転出超過」見込みであり、移転先トップは茨城県。次いで大阪府、愛知県と続いており、移転先はより遠方・広範囲へ拡大していることが分かる。

首都圏から地方への本社移転動向

育休制度の改正

持続可能で安心できる社会をつくること、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革の実現をめざし、厚生労働省が男性の育児休業制度に焦点を当てた育児・介護休業法改正が2022年4月より段階的に施行。政府は2025年までに男性の育休取得率30%を目標に掲げている。2022年度の結果は法改正施行後初のため注目が集まる。

男性の育休取得率の推移

特別インタビュー
2023年 働く場をもう一度見つめ直そう

緊急事態宣言の発令などに端を発し、これまで在宅勤務等への関心が薄かった企業でもリモートワークへのシフトが通常となり、私たちの働き方は一変した。
一方、必ず出勤するスタイルからリモートワークへの急激なシフトは様々な課題を生み出した。
オフィスへの回帰が増加している今、「職場における集まる意味」を調査・研究しているリクルートワークス研究所主任研究員の辰巳哲子氏に、コロナ禍の働き方の変化が個人や組織にもたらしたもの、さらにはこれからの働き方について話を伺った。

リクルートワークス研究所
主任研究員

辰巳 哲子

「オフィスは何をするための場所か?」を言語化する

2020年3月頃から各企業がリモートワークにシフトしました。ところがその直後の7月から「テレワーク疲れ」「コミュニケーション疲れ」といった言葉が聞こえ始めました。テレワークに慣れていなかった企業が一気に舵を切ったり、非対面で仕事をする際の生産性の確認や、コミュニケーション不足への不安解消のため頻繁なWebミーティングの開催や、オンラインでのコミュニケーション依存など、生産性や労務を管理しなければいけないマネージャー層に疲弊が蔓延しました。なかでも若手育成への難しさを感じるマネージャー層は多く、苦労された経験がある方も多いと思います。
一方、これから社会人となる大学生は講義の大半をリモートで受講しているため、生活リズムや、学ぶ場所を自身で選ぶことに慣れてしまっています。このサイクルを崩したくないという思いから、行動制限がなくなると出社しなければならない企業を敬遠する傾向も出始めています。このような状況下で企業はいま、「オフィスは何をするための場所か?」の問いに言語化した明確な回答を用意し、生産性向上や業務効率化に積極的に取り組んでいく必要があります。

コロナ禍の働き方の変化が気づかせてくれたもの

時間や場所を選べる働き方は、ワークライフバランスが向上し、個人のパフォーマンスは上がるものの、孤立感や孤独感の増幅やキャリアの停滞を不安視する声も上がっています。
さらに孤立感についての研究が進められています。家と職場のそれぞれにおいて感じた孤立感はもう一方で解消することができない、というものです。まさにコロナ禍のリモートワークを経たからこそ得られた知見と言えます。密を避けることから人との関わりが少なくなるなかで、企業にとっては組織の一体感や従業員の帰属意識の醸成、チームビルディングの方法についてオンラインかリアルかを問わず、再検討することになったのではないでしょうか。一方、個人にとっては働き方や働く時間、働く場所など、自身がパフォーマンスを発揮できるように仕事をマネジメントするスキルがより求められるようになりました。

テレワークの有無による個人成果と組織成果の違い

戦略的に自宅とオフィス、
さらにはサードオフィスを活用する

リモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークが主流になったことで、個人にとっては、ワークとライフのバランスをこれまで以上に考えるようになりました。どのようなワークスタイルが自分にとって働きやすいのか、仕事に集中しやすい時間や場所はどこかなど、これまで企業にゆだねられていた、働くことについての主導権の一部を個人が担うようになりました。自宅ではなく、サードオフィスの活用が進んだこともあり、自宅・オフィス・サードオフィスの3か所を選択肢として持ちながら、個人が自分の働き方をデザインしているケースも増えてきました。
こうした働き方の多様化に応えるためには、企業側としてもより柔軟な制度の変更などが求められます。各社で職場の意味やオフィスの意味、コミュニケーションの在り方は異なるので、従業員に対するヒアリングを行い、それぞれの会社のトップは自社に合った制度改革を決断していかなければなりません。
実際にNTTグループではリモートワークを前提として社員自ら居住地を選べる「リモートスタンダード制度」を導入し大きな改革を実現しました。これには書類の電子化や業務プロセスの効率化など業務を「データ」として把握できるようになり、リモート移行のメリットが経営陣と社員の双方で感じられたことも大きく影響しています。リモートワークのメリットを細かく把握し、新たな働き方を進める企業の実例と言えます。一番大きなハードルである制度の改革を「企業と社員の関係性の変化」ととらえ、選ばれる会社になるための一歩を踏み出している例ではないでしょうか。

勤務場所の自由度×仕事の満足度 「仕事を通じた成長実感を持っていた」と回答した人の割合

「組織のありたい姿」をマネージャーとともに描き、
働き方を考えたオフィスへ

ハイブリッドワークを前提にした時に、組織の一体感や従業員の帰属意識の醸成をどのようにすればよいのでしょうか。個人が自分の働き方をデザインするのと同様に、組織としての集まり方のデザインが必要です。例えば、新たなメンバーを迎え入れる時や新しいプロジェクトを開始する時などは、オフィスに出社して新たなメンバーと関わる機会を作る、既に関係性のあるメンバーに情報共有や伝達目的の場を持つ時にはオンラインで集まるなど、場の目的に応じた集まり方を見直す必要があるでしょう。意味のない集まりをどのように意味ある集まりにしていくか、管理職とメンバーとでは集まる意味も異なるため、組織の課題について話し合いながら、自組織における「意味ある集まり方」を検討する機会を持つのも有効です。
その際に重要となるのが、マネージャーだけに業務を集中させないことです。従業員一人一人が風土や文化を変える「当事者」として、現場やチーム単位で集まり方を決めることが企業や組織の変革につながっていきます。マネージャーも組織の一員として、リモートワークで自宅やサードオフィスをうまく活用しつつ、中長期的な課題を共有し、個別最適ではなく全体最適での働き方を考えられるようになることが大切です。そのためには、マネージャーに集中してしまいがちな多くの役割を再配分することが課題になります。
いままでの働き方に戻るのではなく、コロナ禍を経て得られた知見を活かし、マネージャー層が社員一人一人のワークライフバランスとワークエンゲージメントを理解できる環境にすること。これこそが「オフィスは何をするための場所か?」の回答への近道なのです。

職場のコミュニケーションの変化による中長期的な課題
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