ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 東京不動産市場レポート(2025年3月時点)

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目次

要旨

  • 東京都心部では、多くの大規模開発計画が進行中である。Aクラスビルの新規供給は2025年が15万坪、2026年が13万坪となる予定である。2027年は一旦落ち着くが、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、2028年に約15万坪、2029年には約28万坪に達し、過去最高水準を更新する見通しである。
  • Aクラスビルの新規供給は続くものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要は堅調で、空室率は3%~6%のレンジで推移すると見込まれる。成約賃料は、安定的な需給環境のもと上昇基調で推移し、2024年の賃料を100とした場合、2025年に105、2028年に114、2029年に110と予想される。
  • 東京23区では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は前年から減少しており、建築コストの高騰が下押し要因となり、今後も大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。また、人口の転入超過数も回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。
  • J-REITによる2024年の物件取得額(東京)は4,878億円(前年比+17%)となり、昨年の取得額(4,158億円)を上回った。アセットタイプ別では、都心部に所在する大型オフィスビルや賃貸マンション、ホテルの取得が複数確認された。
  • 足元の不動産投資市場は、堅調に推移しており、先行きも楽観的な見方が強まっている。一方で、国内金利や建築コストの動向、米国政治・外交への警戒感は高まっている。これらの動向次第では、不動産投資市場の景況感が悪化に向かう可能性があり、引き続き注視する必要がありそうだ。

東京都心部のオフィス開発計画

三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2024年12月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.1%)」で、次いで「千代田区(28.9%)」、「中央区(17.8%)」となっている(図表-1)。現在、これらのエリアでは大規模開発計画が進行中である。以下では、「港区」・「千代田区」・「中央区」のオフィス開発計画を概観したい。

「港区」の開発計画

「港区」の「虎ノ門地区」では、虎ノ門2丁目の虎ノ門病院跡地で、都市再生機構と虎ノ門二丁目地区再開発協議会[1]が地上38階建ての「虎ノ門アルセアタワー」(延床面積約18万㎡)を開発し、2025年2月に竣工[2]した(図表-2 ①)。

また、赤坂二・六丁目地区の東街区では、三菱地所とTBSホールディングが地上40階建ての複合ビル(延床面積約17万㎡)を開発中で、2028年に竣工予定である[3]。隣の西街区では、ホテルや商業施設が入居する劇場ホール(地上18階建て・延床面積約4万㎡)が開発中である(図表-2 ②)。

「三田・高輪地区」では、芝浦1丁目の浜松町ビルディング跡地に、野村不動産と東日本旅客鉄道が「BLUE FRONT SHIBAURA」(S棟:地上43階建て・2025年2月竣工、N棟:地上45階建て・2030年度竣工予定)を開発中で、延床面積は合計約55万㎡に達する計画となっている[4](図表-2 ③)。

高輪2丁目では、東日本旅客鉄道が「TAKANAWA GATEWAY CITY」を開発中で、複数のオフィスビルが竣工予定である[5](図表-2 ④)。2025年3月[6]に「THE LINKPILLAR1」[South棟(地上30階建て)・North棟(地上29階建て)]が竣工予定で、延床面積は約46万㎡に達する見通しである。その後も、2025年度中に地上31階建て「THE LINKPILLAR2」(延床面積約21万㎡)が竣工予定である。

また、浜松町2丁目では、世界貿易センタービルディングと鹿島建設、東京モノレール、東日本旅客鉄道が「世界貿易センタービル本館」の建て替えを行っており、地上46階建ての複合ビル(延床面積約30万㎡)が2027年3月に竣工予定である[7](図表-2 ⑤)。

芝5丁目の森永プラザビル跡地では、森永乳業、三井不動産、東日本旅客鉄道が地上23階建ての複合ビル(延床面積約10万㎡)を開発中で、2028年度にオフィス棟と駅前デッキ広場の供用を開始し、全体の竣工は2033年度を見込むとのことである[8](図表-2 ⑥)。

[1] 保留床取得者である日鉄興和不動産株式会社、第一生命保険株式会社、関電不動産開発株式会社、東京ガス不動産株式会社、九州旅客鉄道株式会社及び大成建設株式会社ならびに株式会社共同通信会館など地権者で構成。
[2] 日鉄興和不動産株式会社「~国際的なビジネスエリア虎ノ門での約2.9haの大規模再開発~ 「虎ノ門アルセアタワー」竣工」(2025年2月13日)
[3] 三菱地所株式会社・株式会社 TBS ホールディングス 「赤坂エリアの新たなランドマークとなる2棟の建物が2028年に誕生 赤坂二・六丁目地区開発計画新築工事着手/民間都市再生事業計画に認定」(2024年3月13日)
[4] 「BLUE FRONT SHIBAURA」HP
[5] 「TAKANAWA GATEWAY CITY」HP
[6] 東日本旅客鉄道株式会社「TAKANAWA GATEWAY CITY―100年先の心豊かなくらしのための実験場―2025年3月27日 いよいよまちびらき」(2024年10月30日)
[7] 株式会社世界貿易センタービルディング・鹿島建設株式会社・東京モノレール株式会社東日本旅客鉄道株式会社「世界貿易センタービルディング建替えプロジェクト2027年より順次開業へ」(2024年7月22日)
[8] 建通新聞「森永など 田町駅西口駅前着工は25年度か」(2024年6月25日)

「千代田区」の開発計画

「千代田区」では、内幸町一丁目街区にて、都心最大となる総延床面積約110万㎡の開発プロジェクトが進行中である。同街区の南地区では、第一生命保険、中央日本土地建物、東京センチュリー、東京電力パワーグリッドが、地上43階建ての「サウスタワー」(延床面積約31万㎡)を開発中で、2028年度に竣工予定である(図表-3 ①)。
また、同街区の中地区では、NTT都市開発・公共建物・東京電力パワーグリッド・三井不動産が地上46階建ての「セントラルタワー」(延床面積約37万㎡)を開発中で、2029年度に竣工し、北地区では、帝国ホテルと三井不動産が地上46階建ての「ノースタワー」(延床面積約27万㎡)を開発中で、2030年度に竣工する予定である[9]

大手町2丁目では、三菱地所が地上62階建ての「Torch Tower(B棟)」(延床面積55万㎡)を開発中で、2028年3月に竣工予定である[10](図表-3 ②)。同ビルは、2023年竣工の「麻布台ヒルズ森JPタワー」を超えて日本一の高さ385mとなる計画である。

「中央区」の開発計画

「中央区」では、八重洲1丁目で東京建物が、地上51階建ての複合ビル(延床面積約23万㎡)を開発中で、2025年度に竣工予定である[11](図表-3 ③)。また、東京建物、東京ガス不動産、大成建設、明治安田生命保険は、「八重洲一丁目北地区」の南街区で地上44階建ての複合ビル(延床面積約19万㎡)を開発中で、2029年度に竣工予定である[12] (図表-3 ④)。

八重洲2丁目では、鹿島建設、住友不動産、都市再生機構、阪急阪神不動産、ヒューリック、三井不動産が地上43階建ての複合ビル(延床面積約39万㎡)を開発中で、2029年1月に竣工予定である[13](図表-3 ⑤)。

また、日本橋1丁目で、三井不動産と野村不動産が、MICE施設を含む地上52階建ての複合ビル(延床面積約37万㎡)を開発中で、2026年度に竣工予定である[14](図表-3 ⑥)。

[9] 「TOKYO CROSS PARK構想」HP
[10] 三菱地所株式会社「「Torch Tower」新築工事着工」(2023年9月27日)
[11] 東京建物HP「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業」
[12] 東京建物「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」新築着工東京駅直結、首都高地下化により生まれ変わる日本橋川沿岸に水辺空間が誕生」(2024年12月10日)
[13] 八重洲二丁目中地区市街地再開発組合・鹿島建設株式会社・住友不動産株式会社・独立行政法人都市再生機構・阪急阪神不動産株式会社・ヒューリック株式会社・三井不動産株式会社「「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工~都心最大級「東京駅前3地区再開発」の集大成、ミクストユース型プロジェクトが始動~」(2024年8月26日)
[14] 三井不動産株式会社・野村不動産株式会社「「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工」(2021年12月7日)

東京都心部Aクラスビル市場

空室率および賃料の動向

東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移していたが、2024年に入って低下に転じ、2024年第4四半期は5.7%(前期比▲0.7ppt、前年同期比▲1.2ppt)となった。また、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス[15])は、2023年第4四半期以降、上昇に転じ、2024年第4四半期は28,489円(前期比+6.3%、前年同期比+12.9%)となった(図表-4)。

BクラスビルおよびCクラスビルについては、空室率が改善し、成約賃料は上昇している。2024年第4四半期の空室率はBクラスビルで2.9%(前期比▲0.6ppt、前年同期比▲1.6ppt)、Cクラスビルで3.4%(前期比▲0.6ppt、前年同期比▲1.0ppt)となり(図表-5)、成約賃料はBクラスビルで20,704円(前期比+6.5%、前年同期比+9.4%)、Cクラスビルで18,103円(前期比+0.3%、前年同期比+5.2%)となった(図表-6、図表-7)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル[16]」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続していたが、現在は「空室率低下・賃料上昇」局面に移行している(図表-8)。

エリア別の空室率(2024年12月時点)は、「千代田区2.3%」(前年同月比▲0.9ppt)、「渋谷区3.2%」(同▲1.1ppt)、「新宿区4.1%」(同▲0.9ppt)、「港区5.1%」(同▲3.8ppt)、「中央区5.2%」(同▲2.9ppt)となり、全ての区で低下した(図表-9 左図)。

募集賃料は、全ての区が前年比でプラスに転じており、特に「渋谷区(前年同月比+6.7%)」の上昇率が大きくなっている(図表-9 右図)。

[15] 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
[16] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。

東京都心部Aクラスビル市場の需要見通し

オフィスワーカー数の動向 

総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、増加傾向で推移しており、2024年第3四半期は847.9万人(前年同期比+8.8万人)となった(図表-10・左図)。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が125、「学術研究,専門・技術サービス業」が117となり、全体(108)を上回るペースで増加している(図表-10・右図)。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業)は、2020年第2四半期に▲15.7ポイント低下した後、回復が続いている。2024年第4四半期は+25.5となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回った(図表-11)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2024年第4四半期は「製造業」が+17.8、「非製造業」が+29.0となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」では人手不足感がより強いと言える。

日本商工会議所・東京商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」によれば、人手が「不足している」との回答が6割超を占めた。また、人手不足への対策として、「採用活動の強化」との回答が約8割を占めた。

東京都の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、都心のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。

テレワークの普及がオフィス需要に及ぼす影響

新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京ではテレワークが急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2023年4月以降、40%台で推移しており、2025年1月は45%となった。テレワーク実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している(図表-12)。

公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」(2025年1月)によれば、「今後もテレワークを行いたいか」との質問に対し、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は78%に達し、今後もテレワークを取り入れた働き方を希望する就業者は多いと言える。

一方、企業側でも人材確保と離職防止等の観点から、テレワークの導入にメリットを感じているようだ[17]。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2024」によれば、首都圏のオフィスワーカーに勤務形態をたずねた所、「ハイブリッドワーク(50%)」との回答が最も多く、「完全出社(47%)」を上回っており、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)が定着している。

こうした状況のもと、企業によるオフィスの利用形態も、ハイブリッドワークに適した形に変更されつつある。森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「森ビル調査」)によると、「フリーアドレス[18]の導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、2022年以降、4割程度で推移している(図表-13)。テレワークの導入とともに、固定席の割合を減らしてフリーアドレスを導入する企業が多いようだ。

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024秋」によれば、「今後増設・新設したいスペース」について、「リモート会議用ブース・個室」(22.9%)との回答が最も多く、次いで「リフレッシュルーム」(14.5%)、「フリーアドレス席」(11.8%)、「集中するためのスペース」(11.7%)の順に多かった。リモート会議用ブースの設置など、テレワークへの対応とともに、フリーアドレス席やリフレッシュルーム等を充実させてほしいとの要望は多い模様だ。

また、テレワークが普及し「働き方の多様化」が進んだ結果、働く場所を柔軟に選択できることが求められている。イトーキ中央研究所「働く人の意識調査 働き方とオフィス2024」によれば、「サテライトオフィス[19]の新設・増設」の必要性を感じているとの回答が2割強を占めた。

こうした「サテライトオフィス」を開設する際には、「レンタルオフィス[20]」や「シェアオフィス[21]」、「コワーキングスペース[22]」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが多い。

ザイマックス不動産総合研究所「フレキシブルオフィス市場調査2024」によれば、都心5区では928拠点の「サードプレイスオフィス」が立地している。テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、引き続き都心5区のオフィス需要を下支えすると考えられる。

[17] 東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」(2023年11月実施)によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワーク導入目的をたずねたところ、「非常時(新型コロナウイルス、地震等)の事業継続対策(88%)」との回答が多く、次いで「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減(42%)」、「育児・介護中の従業員への対応(40%)」、「生産性の向上(31%)」との回答が多かった
[18] 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。

[19] 企業や団体の本社・本拠から離れた場所に設置されたオフィス
[20] 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
[21] フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
[22] オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。

企業のオフィス環境整備の方針

森ビル調査によれば、従業員300人以上の企業を対象にオフィスを「新規賃貸する理由」を質問したところ、「立地の良いビル(49%)」との回答が第1位となり、次いで「セキュリティーの優れたビル(47%)」、「設備グレードの高いビル(43%)」、「耐震性能の優れたビル(40%)」、「防災体制・バックアップ体制の優れたビル(38%)」「1フロア面積が大きいビル(38%)」「優秀な人材を確保するため(34%)」が上位を占めた(図表-14)。

前述の人手不足を背景に、人材確保や従業員満足度の向上などを目指して、立地改善や建物設備等のグレートアップが進んでいる。また、コロナ禍以降、オフィス規模を縮小・分散する動きが一部で見られたが、1フロア面積が大きなビルに対するニーズも回復している。

また、コロナ禍以降、施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、大企業を中心に、従業員の「Well-being」等に配慮したワークプレイスの構築が進んでいる。日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査」(2024年)によれば、「オフィスビル選択基準のうちウェルビーイング対応に関する重要度」について「重要[23]」との回答は46%、「環境配慮対応に関する重要度」について「重要」との回答は52%となった。オフィス選びにおいても「Well-being」や「環境性能」が重視されつつあるようだ。

また、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が高まっている。森ビル調査によれば、「オフィス環境づくりの課題」を質問したところ、「社内コミュニケーション・コラボレーションの強化(58%)」との回答が最も多く、次いで「従業員のエンゲージメント向上(47%)」が多かった(図表-15)。従業員間のコミュニケーション促進や従業員のエンゲージメント向上を目指して、オフィス環境を整備する動きは今後も継続すると考えられる。

[23] 「必須」または「重要度は高い」と回答。

Aクラスビルの新規供給見通し

三幸エステートの調査によれば、新規供給量は、2025年に約15万坪、2026年に約13万坪となり、過去10年(2015年から2024年)の年間平均供給量(13万坪)と同水準となる見通しである。2027年は一旦落ち着くが、2028年以降、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給は、2028年に約15万坪、2029年には約28万坪に達し、過去最高水準を更新する見通しである(図表-16)。

Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し

東京都の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境についてはオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」では人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、都心のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。

一方、「テレワーク」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続すると考えられる。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブースやリフレッシュルームを充実させる等、テレワークを取り入れた働き方に即した利用形態が増加するだろう。また、働き方の多様化が進むなか、引き続き「サードプレイスオフィス」市場の拡大が予想される。

また、人手不足等を背景に、従業員間のコミュニケーション促進や従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指し、ビルグレードアップを図るオフィス環境の整備は続くと見込まれる。

以上の状況を踏まえると、都心部のオフィス需要は底堅く推移すると見通しである。

こうしたなか、都心部では、多くの大規模開発が進行中である。2027年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2029年は28万坪の大量供給が予定されている。

以上を鑑みると、東京都心部Aクラスビルの空室率は、2027年まで改善基調で推移し、その後は上昇に転じることが予想される(図表-17)。Aクラスビルの新規供給は続くものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要は堅調で、空室率は3%~6%のレンジで推移すると見込まれる。成約賃料は、安定的な需給環境のもと上昇基調で推移し、2024年の賃料を100とした場合、2025年に105、2028年に114、2029年に110となる見通しである(図表-18)。

東京の賃貸マンション市場

東京23区の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。

総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京23区の転入超過数(日本人)は、2021年(▲7,983人)を底に回復している。2024年の転入超過数は+5.4万人となり、2010年以降の平均値(約4.7万人)を上回った(図表-19)。

東京23区の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、東京23区の住宅着工戸数は、2019年を底に増加傾向で推移してきたが、2024年は、前年比▲5%減少の約5.0万戸となった(図表-20)。

規模別に住宅着工戸数をみると、東京23区では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が2012年以降、一貫して最も多く供給されており、全体の6割程度を占めている。2024年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比+15%、コンパクトタイプが同▲9%、ファミリータイプ(61㎡~)が同▲13%減少した(図表-21)。

また、区別では、「足立区」と「大田区」と「世田谷区」の供給量が長期的に高水準となっている。2024年は、「足立区」(約4.8千戸)に次いで「大田区」(約3.9千戸)、「世田谷区」(約3.8千戸)が多かった。また、「豊島区」と「練馬区」は、2012年以降の最高値を更新した(図表-22)。

東京23区の建築コストの動向

本項では、住宅着工等に影響を与える建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、東京の「集合住宅(RC造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2024年12月は前年比+6%上昇の「134.8」となった(図表-23)。

国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(関東)は、コロナ禍後、概ね「人手不足」で推移しており、2025年1月は「+0.9」となった(図表-24)。

東京の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

東京23区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、コロナ禍以降、低下傾向で推移したが、2022年から回復に転じている。2024年下期は「都心5区」が96.3%、「東京住宅地5区」が96.8%、「その他都区部」が97.3%となった(図表-25)。

また、東京23区のマンション賃料は堅調に推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年第3四半期は前年比でシングルタイプが+5.4%、コンパクトタイプが+5.1%、ファミリータイプが+5.9%となった。(図表-26)。

このように、東京23区では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は前年から減少しており、建築コストの高騰が下押し要因となり、今後も大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。また、人口の転入超過数も回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。

東京の不動産投資市場

東京の地価動向

東京の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2024年第4四半期)」によると、銀座中央(商業地)は前年比「3~6%」、番町(住宅地)は前年比「0~3%」の上昇となった(図表-27)。同レポートでは、「商業地では、訪日外国人観光客による活発な消費等を背景に、路面店等の出店意欲は強いことから、収益不動産への需要は強く、地価が上昇している。住宅地でも、国内外の富裕層等からの底堅い住宅需要や周辺地域の開発期待を背景に、マンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は強く、地価が上昇している」としている。

J-REITによる物件取得額(東京都)

J-REITによる2024年の物件取得額(東京都)は4,878億円(前年同期比+17%)となり、昨年の取得額(4,158億円)を上回った(図表-28)。アセットタイプ別では、オフィス(38%)・住宅(30%)・ホテル(17%)・物流施設(8%)・商業施設(6%)となり、都心部に所在する大型オフィスビルや賃貸マンション、ホテルの取得が複数確認された。

不動産投資市場の景況感

今年1月にニッセイ基礎研究所が国内の不動産実務家等に実施した「不動産市況アンケート」(以下、同アンケート)において、「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約7割、「平常・普通」が2割強、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が1割弱となった(図表-29)。前回調査(2024年初)からプラスの回答が大きく増加し、5年ぶりに7割以上を占める結果となった。

また、「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が7割弱、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が約2割、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が1割半ばを占めた(図表-30)。前回調査から「変わらない」が増加し、「悪化」が減少し、楽観的な見方がやや強まった。

一方、同アンケートで「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内金利」(71%)との回答が最も多く、次いで、「建築コスト」(62%)、「米国・政治」(44%)との回答が多かった(図表-31)。

「国内金利」に関して、日本銀行は今年1月の金融政策決定会合で政策金利を0.50%に引き上げた。引き続き段階的な利上げが想定されるなか、これまで低下基調にあった不動産キャップレートが反転に向かう可能性もあり、金利上昇への警戒が高まっている。

「建築コスト」に関して、資材価格や労務費などの上昇が継続するなか、新規開発計画の見直しや竣工時期の延期が増加しており、建築コストの上昇リスクが強く意識されているようだ。

「米国政治・外交」に関して、2025年1月に始動したトランプ政権の政策が世界の経済・金融政策の不確実性を高める最大の要因[24]との見方もあり、不動産投資市場のリスク要因と考える回答が増えていると推察される。

足元の不動産投資市場は、堅調に推移しており、先行きも楽観的な見方が強まっている。一方で、国内金利や建築コストの動向、米国政治・外交への警戒感は高まっている。これらの動向次第では、不動産投資市場の景況感が悪化に向かう可能性があり、引き続き注視する必要がありそうだ。

[24] 伊藤 さゆり『トランプ2.0とEU-促されるのはEUの分裂か結束か?-』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2025年1月17日)

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
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三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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