ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 仙台不動産市場レポート(2024年9月時点)
目次
要旨
- 仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動している。こうした施策を背景に、仙台中心部では大規模な再開発が複数計画されている。
- オフィスビルの成約賃料は、空室率が安定的に推移することに伴い、現行水準で概ね横ばいで推移し、2023年の賃料を100とした場合、2024年は「100」、2028年も「100」となる見通しである。
- 仙台市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)が2020年を底に増加する一方、人口の転入超過は継続していることから、需給環境が大きく悪化する懸念は小さく、マンション賃料は底堅く推移すると予想される。
- J-REITによる2024年上期(1-6月)の物件取得額(東北)は148億円となり、前年同期比+182%増加した。アセットタイプ別では、大型オフィスビルや物流施設の取得が確認された。
- 仙台市においても、大規模金融緩和等を背景に不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、仙台市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は3.8%となり前年比▲0.1%低下した。同様に、住宅のキャップレートは4.3%(前年比▲0.2%)、商業は4.5%(同±0.0%)、ホテルは4.5%(同▲0.1%)、物流施設は4.7%(同▲0.2%)となり、商業を除くすべてのタイプで利回りが低下した。
- 日本銀行は、2024年7月の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げ(0~0.1%⇒0.25%)と、国債買入れ減額を決定した。こうしたなか、10年国債利回りは5月下旬に11年ぶりの水準となるⅠ%台に乗せるなど上昇基調で推移している。これまでキャップレートは大きく低下してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。
仙台市中心部の再開発計画
「せんだい都心再構築プロジェクト」
仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動した(図表-1)。具体的な施策として、「仙台市都心部建替え促進助成金制度の創設」や「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」、「仙台市市街地再開発事業補助金制度の拡充」等が講じられている。当初計画では2023年度末までに市の認可を受ける必要があったが、建設業界の人手不足や建設費高騰による工期の遅れ等を鑑み、2030年度まで延長された。
図表-1 せんだい都心再構築プロジェクト対象区域
仙台市中心部の再開発計画
2023年以降、同プロジェクトを活用した大型オフィスが竣工している。同プロジェクトの第1号案件として、NTT都市開発は「アーバンネット仙台中央ビル」(延床面積約4.2万㎡・地上19階建て)を開発し、2023年12月に竣工した[1](図表-2 ①)。ウッドライズキャピタル[2]は国分町1丁目に木と鉄骨のハイブリッド構造による環境配慮型オフィスビルの「ウッドライズ仙台」(延床面積1.0 万㎡・地上10階建て)を開発し、2023年11月に竣工した[3](図表-2 ②)。また、東京建物は仙台駅前の南町通に「T-PLUS仙台」(延床面積1.4 万㎡・地上12階建て)を開発し、2024年1月に竣工した[4](図表-2 ③)。
その後も、複数の大規模開発が計画されている。鹿島建設は中央三丁目で「NANT仙台南町」(延床面積1.2万㎡・地上11階建て)を開発し、2025年3月に完成する予定である[5](図表-2 ④)。
また、第一生命保険は、青葉区定禅寺通の「仙台第一生命ビル」の建替えを発表した。仙台市と連携し、勾当台公園再整備や市役所新本庁舎建設と一体で計画を進捗し、2028年の竣工を目指すとしている[6](図表-2 ⑤)。
大和ハウス工業は、青葉区本町1丁目の「第一日本オフィスビル」を建替えて、地上19階建てのオフィスビル(延床面積約2万㎡)の開発を計画している。「せんだい都心再構築プロジェクト」の助成を活用し、2028年の竣工を目指すとしている[7](図表-2 ⑥)。
また、東日本興業(東北電力系の不動産管理会社)、戸田建設、明治安田生命保険、三菱地所等は、「電力ビル」中心とした一体開発を計画しており[8]、2023年5月に「せんだい都心再構築プロジェクト」の「グリーンビルディング」第1号案件に認定された。同計画では、オフィスや音楽ホールが入居する高層複合ビル2棟(南棟:約180m・北棟約135m)等を開発し、2035年頃の竣工を目指すとしている[9](図表-2 ⑦)
図表-2 「せんだい都心再構築プロジェクト」関連
オフィス開発計画
仙台市では、上記の「せんだい都心再構築プロジェクト」以外の再開発プロジェクトも複数計画されている。ヨドバシホールディングスは、JR仙台駅東口で、複合ビル「ヨドバシ仙台第1ビル」(延床面積約7.7万㎡・地上12階建て)を2023年6月に開業した[10](図表-3 ①)。
さらに、仙台市はJR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「GSビル跡地」や「旧さくら野百貨店仙台店」の再開発と連動して行う計画である 。[11]
「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体での再開発が検討されている(図表-3 ②)。「EDEN」は、2024年1月に閉店したが、その後の開発計画は未定とのことである 。[12]
「旧さくら野百貨店仙台店」跡地では、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが再開発を検討している(図表-3 ③)。当初の開発計画では、オフィスビルとホテルの計2棟(総延床面積約11万㎡)を建築し、それぞれの低層階を商業施設でつなげる計画で、着工は2024年度、竣工は2027年度を目指すとのことであったが[13]、現時点で工事の進捗は見られない模様である 。[14]
また、青葉区一番町の百貨店「藤崎本館」を含めた20棟程度の商業ビル(面積:約1.7ヘクタール)を建替えて、百貨店や商業施設のほか、オフィスビルやホテルなどを建設する計画[15]が検討されており、2023年8月に地権者でつくる推進協議会が発足した[16](図表-3 ④)
図表-3 仙台市の再開発プロジェクト
[1] NTT都市開発株式会社「せんだい都心再構築プロジェクト第1号物件「アーバンネット仙台中央ビル」竣工~2024年3月中旬グランドオープン予定~」(2023年12月8日)
[2] 環境配慮型オフィスビルの開発を目的として、株式会社長谷工コーポレーション、株式会社日本政策投資銀行、七十七キャピタル株式会社、株式会社竹中工務店、みずほ不動産投資顧問株式会社が共同で組成した不動産私募ファンド。
[3] みずほ不動産投資顧問株式会社「仙台市における木造ハイブリッドオフィスビルの開発計画について-建築物の脱炭素化・森林資源の有効活用を支援-」(2022年1月24日)
[4] 東京建物株式会社 「せんだい都心再構築プロジェクト活用物件「T-PLUS仙台」竣工 高水準の安全性能と環境性能を有した高機能オフィスビル」(2024年2月1日)
[5] 鹿島建設株式会社HP「NANT仙台南町」
[6] 河北新報「仙台・定禅寺通の「黒ビル」2028年度にも建て替え 第一生命が正式表明、完成予想図8枚も公開」(2023年12月4日)
[7] 日本経済新聞「大和ハウス、仙台駅西口で一体再開発を検討 28年完成へ」(2024年1月30日)
[8] 日本経済新聞「「電力ビル」軸に一体開発へ 東北電力系など、仙台中心部で過去最大 音楽ホール・オフィス入居 高層複合ビルに」(2023年4月1日)
[9] 日本経済新聞「仙台・電力ビル、本館は30年解体 高さ東北一に並ぶ」(2023年4月28日)
[10] 株式会社ヨドバシホールディングス「ヨドバシ仙台第1ビル開業「ヨドバシカメラ マルチメディア仙台」2023年6月2日(金)あさ9:30にOPEN」(2023年5月16日)
[11] 河北新報「「青葉通広場化」検討着手/仙台・あす協議会発足」(2021年5月31日)
[12] 河北新報「惜しまれ閉店 気になる跡地/アリオ仙台泉 感謝込め最終セール/仙台駅前・エデン 一等地 出店者「残念」 JR仙台駅西口(仙台市青葉区)の商業施設「EDEN(エデン)」と、市地下鉄泉中央駅(泉区)近くの」(2024年2月1日)
[13] 日本経済新聞 「東北経済特集―東北、力強く前へ、仙台駅前、再開発進む。」(2021年12月24日)
[14] 河北新報「落書き/周辺商店街、懸念/景観の悪化 治安の悪化/仙台・旧さくら野百貨店 JR仙台駅前の旧さくら野百貨店仙台店(仙台市青葉区)のシャッターや壁面に落書きが目立ち始めている。2017年2月の閉店から7年」(2024年7月3日)
[15] 日本経済新聞「百貨店の藤崎など建て替え、仙台市中心部で再開発」(2020年7月8日)
[16] 日本経済新聞「仙台の藤崎周辺再開発 地権者の推進協発足」(2023年8月4日)
仙台の賃貸オフィス市場
空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、仙台市の空室率(2024年8月時点)は6.3%となり、前年から+1.5%上昇した(図表-4)。昨年の新規供給面積が13年ぶりに1万坪を超えて約1.5万坪に達し、需給環境が緩和した。
空室率をビルの規模[17]別にみると、「中型7.5%(前年比+0.7ppt)」、「大規模6.7%(同+3.2ppt)」、「大型4.3%(同+0.1ppt)」が上昇する一方、「小型8.1%(同▲2.4ppt)」は低下した(図表-5)。
図表-4 主要都市のオフィス空室率
図表-5 仙台オフィスの規模別空室率
新規供給の増加を受けて空室率が上昇したものの、成約賃料は堅調に推移している。2023年下期の仙台市の成約賃料は、前年比+7.3%、前期比▲2.9%となった(図表-6)。
図表-6 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)
2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった(図表-7)。
賃料と空室率の関係を表した仙台市の賃料サイクル[18]は、2010年下期を起点とした「空室率低下・賃料上昇」局面が長らく続いていたが、足元では「空室率上昇・賃料上昇」局面に移行しつつある(図表-8)。
図表-7 2023年の主要都市のオフィス市況変化
図表-8 仙台オフィス市場の賃料サイクル
[17] 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
[18] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
仙台オフィス市場の需要見通し
オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2023 年の仙台市の転入超過数は+1,659人となり、転入超
過が続いている(図表-9)。総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、2023 年の仙台市の生産年齢人口は67.6万人(前年比+0.3%)となり、9年ぶりに増加した(図表-10)。
また、2023年の宮城県の就業者数は121.8万人(前年比+1.3万人)となり、4年ぶりに増加した(図表-11)。
図表-9 主要都市の転入超過数
図表-10 仙台市の生産年齢人口
図表-11 宮城県の就業者数
以下では、仙台市のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI[19]」(東北財務局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2024年第2四半期は「+5.5」となった。(図表-12)。
「従業員数判断BSI[20]」(東北財務局)は、人手不足を表わす「22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇傾向で推移し、2024年第2四半期は「+25.5」となり、コロナ禍前の水準を上回った(図表-13)。
図表-12 企業の景況判断BSI(全産業)
図表-13 従業員数判断BSI(全産業)
仙台市では、人口の流入超過が継続しており、生産年齢人口は9年ぶりに増加した。宮城県全体の就業者数は4年ぶりに増加した。また、東北地方の「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから回復に向かっており、「雇用環境」は人手不足感が強まっている。
以上のことを鑑みると、仙台市のビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。
[19] 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
[20]従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
テレワークの進展に伴うワークプレイスの見直し
宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」(2023年)によれば、「テレワークの導入状況」について、「導入済み」との回答は25%であったが、本社所在地が宮城県外(東京等)の企業に限定すると、「導入済み」との回答は約半数を占めている(図表-14)。また、産業別にテレワークの導入状況[21]を確認すると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」(100%)や「学術研究、専門・技術サービス業」(71%)、「金融業、保険業」(50%)では半数以上の水準となっている(図表-15)。
仙台におけるテレワーク実施率は、東京や大阪と比べると低いものの、本社所在地が東京の企業や、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等では導入する企業が増えているようだ。
また、総務省「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査」によれば、仙台市のサテライトオフィス開設数は45ヵ所であり、「新潟市(59ヵ所)」、「札幌市(56 ヵ所)」に次いで多かった。テレワークの普及により働く場所の自由度が増すなか、首都圏に比べてオフィス賃料が廉価であることや、サテライトオフィス設置等に対する補助[22]等を背景に、宮城県外の企業によるサテライトオフィスの開設が増えていると考えられる。
今のところ、テレワークが仙台のオフィス需要に及ぼす影響は限定的であるものの、宮城県外の企業によるサテライトオフィスの開設動向等、引き続きその影響を注視する必要があるだろう。
図表-14 宮城県 テレワーク導入率
図表-15 宮城県 産業別テレワーク導入率(2023年)
[21] 「導入済み」と回答した割合
[22] 宮城県「サテライトオフィス等による沿岸地域復興活動事業費補助金」
スタートアップ企業の動向からみるオフィス需要
仙台市は東日本大震災以降、起業家支援に力を入れている。2014年度から2019年度までの成長戦略「仙台経済成長デザイン-質的拡大による新たな成長」において、「2017年までに新規開業率日本一」という数値目標を掲げた。2023年までの経済成長戦略「仙台市経済戦略2023~豊かさを実感できる仙台・東北を目指して~」においても、重点プロジェクトとして起業支援を挙げている。また、仙台市は、2020 年7月に内閣府が推進する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」において、「推進拠点都市」に選定されている。
こうした起業支援策に後押しされ、スタートアップ企業は着実に増加している。フォースタートアップスの調査によれば、宮城県のスタートアップ企業は、5年間で5割増えて、2023年6月時点で126社となった 。[24]
大学発スタートアップ企業も増加している。経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」によれば、大学別大学発ベンチャー数において、東北大学は第6位(199社・前年度+20社)であった。また、東北大学は、2024年6月に、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで支援する「国際卓越研究大」の認定基準を満たしたと発表された。選定では、成長分野である半導体[25]や材料科学、バイオ分野などの研究力を伸ばし、大学発スタートアップ企業を1,500社に増やす計画等が評価された 。[26]
また、東北大学は、2024年4月に三井不動産と共同で、青葉山新キャンパスを中心に企業や研究者を集積し、イノベーション創出をめざす構想を発表した。同キャンパスに約4万㎡の「サイエンスパークゾーン」を整備し、2024年4月に2棟の研究施設の運用を開始し、2027年に3棟目の施設を整備する計画で、産学連携の拠点等にするとのことである 。[27]
仙台市は、2024年3月に「仙台経済COMPASS~2030 年の仙台を見据えた羅針盤」を策定し、重点取組の1つとして、「世界にインパクトを与えるスタートアップの育成」を挙げている。
こうした支援策に後押しされ、今後も仙台市でスタートアップ企業が増えると見込まれる。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の動向を注視したい。
[24] 日本経済新聞「スタートアップ、仙台市がけん引 東北全体を支援対象に」(2023年10月13日)
[25] 台湾の半導体大手PSMCは、2023年3月にSBIホールディングスと合弁で宮城県大衡村に半導体工場を設立すると発表した。2024年後半の着工を目指し、投資額は宮城県では過去最大の8,000億円に上る。
[26] 日本経済新聞「10兆円大学ファンド、東北大学はなぜ選ばれた?」(2024年6月14日)
[27] 日本経済新聞「東北大と三井不動産、企業・研究者集積で連携 半導体など」(2024年4月26日)
仙台オフィス市場の供給見通し
2023年は、仙台市内において、「ヨドバシ仙台第1ビル」や「アーバンネット仙台中央ビル」等、複数の大規模ビルが竣工し、新規供給は13年ぶりに1万坪を超えて、約1.5万坪に達した(図表-16)。今後、新規供給は一段落する見通しで、2024年は約4千坪、2025年は約3千坪にとどまる見込みである。
図表-16 仙台オフィスビル
新規供給見通し
仙台のオフィス賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2028年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表-17)。
仙台市では、人口の流入超過が継続しており、生産年齢人口は9年ぶりに増加した。また、東北地方の「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから回復に向かっており、「雇用環境」は人手不足感が強まっている。以上のことを鑑みると、仙台市のビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。
また、テレワークの普及が更に進んだ場合、テレワークを前提としたワークプレイスの見直しや、サテライトオフィスの開設等が増えることが想定される。行政の支援策に後押され、スタートアップ企業が増加し、オフィス需要の新たな担い手となることも期待される。
新規供給に関して、昨年は複数の大規模ビルが竣工し約1.5万坪に達したが、今後3年間は一段落する見通しである。以上を踏まえると、空室率が大きく上昇する懸念は小さいと予想する。
仙台のオフィス成約賃料は、空室率が安定的に推移することに伴い、現行水準で概ね横ばいで
推移し、2023年の賃料を100とした場合、2024年は「100」、2028年も「100」となる見通しである。
図表-17 仙台のオフィス賃料見通し
仙台の賃貸マンション市場
仙台市の転入超過数の動向
まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、2023年の仙台市の転入超過数(日本人)は前年比▲32%減少の+2,387人となり、2010年以降の平均(約3.2千人)を下回った(図表-18)。
2023年の転入超過数を区別にみると、「宮城野区」と「泉区」は、「転出超過」であった一方、「青葉区」、「若林区」、「太白区」は「転入超過」となった。(図表-19)。
図表-18 主要都市の転入超過数
(日本人)
図表-19 仙台市 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)
仙台市の建築コストの動向
次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、仙台の「集合住宅(RC 造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2015年の建築費指数を100とした場合、2024年7月は前年比+7%上昇の「124.9」となった(図表-20)。
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(東北)は、コロナ禍後、概ね「人手不足」で推移しており、2024年6月は「+1.7」となった(図表-21)。
図表-20 主要都市の「集合住宅(RC造)」
建築コスト(2015年=100)
図表-21 建設技能労働者過不足率(東北)
仙台市の住宅着工戸数の動向
次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、仙台市の住宅着工戸数は、2020年を底に増加している。2023年は前年比+1%の約4.1千戸となり、2011年以降の平均(約3千戸)を上回った(図表-22)。
規模別に住宅着工戸数をみると、仙台市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が、復興公営住宅の着工が多かった2014年を除き、一貫して最も多く供給されており、全体の6割程度を占めている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比▲23%減少した一方、コンパクトタイプが同+7%、ファミリータイプ(61㎡~)が同+22%増加した(図表-23)。
また、区別では、「青葉区」が長期的に高水準の供給量となっており、2023年は2011年以降の最高値を更新した。2023年は、「青葉区」(約1.7 千戸)に次いで「若林区」(約0.7千戸)、「宮城野区」(約0.6千戸)が多かった(図表-24)。
図表-22 主要地方都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)
図表-23 仙台市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)
図表-24 仙台市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2011年~2023年]
仙台市の賃貸マンション稼働率・賃料の動向
仙台市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2012年をピークに低下傾向で推移し2020年には95.4%まで落ち込んだ。しかし、その後は回復に向かっており、2023年は97.1%となった(図表-25)。
仙台市のマンション賃料は、緩やかに上昇している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年第2四半期は前年比でシングルタイプが+0.3%、コンパクトタイプが+1.4%、ファミリータイプが+2.0%となった。(図表-26)。
図表-25 J-REIT物件の平均稼働率
(仙台市・住宅)
図表-26 仙台市のマンション賃料
このように、仙台市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)が2020年を底に増加する一方、人口の転入超過は継続していることから、需給環境が大きく悪化する懸念は小さく、マンション賃料は底堅く推移すると予想される。
仙台の不動産投資市場
仙台の地価動向
仙台の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2024年第2四半期)」によると、中央一丁目(商業地)、錦町(住宅地)ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-27)。同レポートでは、「商業地では、都市機能の更新に伴う発展期待等により、投資家等の投資需要は安定しており、地価が上昇している。住宅地でも、マンション分譲価格が上昇傾向で推移していることから、優良なマンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、地価が上昇している」としている。
図表-27 仙台の地価動向
(地価LOOKレポートより)
青葉区中央1丁目(商業)
総合評価 | 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇) | ||||||
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鑑定評価員コメント | 当地区及びその周辺のオフィス賃貸市場では、令和6年にかけて供給されたオフィスビルの空室消化が順調に進んでおり、新築ビルの空室率は低下している。また、既存ビルは引き続き館内増床や拡張移転、拠点の集約等に伴う成約の動きが見られており、当地区全体の空室率は概ね横ばいからやや低下で推移している。仙台市都心部のオフィスが集積するエリアにおいて募集賃料を見直す動きは限定的であるが、当地区のような仙台駅西口に近いエリアでは新規供給されたオフィスが従来の水準より高い賃料水準で成約が進んでおり、このような新規供給物件が当地区の賃料水準を押し上げているため、当地区のオフィス賃料は上昇傾向で推移している。今後、令和7年までオフィスビルの新規供給がないことから、需給のバランスには注視が必要である。ホテル市況については、とりわけ国外観光客の宿泊者数の回復が著しく、仙台市内に関しては新型コロナウイルス感染症の感染拡大前を超える宿泊者数となっている。令和6年7月に仙台駅東口で新規ホテルの竣工が予定されるほか、令和8年5月には仙台駅西口にて新規ホテルの竣工が予定されており、観光客数の回復傾向が見込まれている。店舗市況について、仙台駅東口は大型複合施設の開店以降好調であるのに対し、既存の商店街については付近の大型商業ビルが長期休業したほか、老舗店舗の閉店も確認された。今後の先行きに不透明感が見られるものの、徐々に都市機能の更新に向けた動きも見られおり、当地区の店舗賃料は概ね横ばいで推移している。仙台駅周辺では大型複合施設の開発が進捗しているほか、「せんだい都心再構築プロジェクト」の建替え促進助成制度の期間延長により、都市機能の更新に伴う発展期待等から当地区に対する開発機運は高まっており、引き続き投資家等の投資需要は安定している。一方で、立地条件の優れた当地区の土地等の供給は限定的な状況が継続していることから取引価格は上昇傾向が続いており、当期の地価動向は引き続きやや上昇で推移した。
仙台市内の企業経営の状況や金利政策の変化に注視する必要があるものの、上記のとおり都市機能の更新に伴う発展期待等を背景とした開発気運が高まっており、当地区では安定した投資需要が見込まれることから、将来の地価動向は引き続きやや上昇で推移すると予想される。 |
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路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 | JR仙台駅西口周辺。駅前に百貨店や高層店舗ビルが集積する高度商業地区。 | ||||||
詳細項目の動向 △:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少 |
取引価格 | 取引利回り | オフィス 賃料 |
店舗賃料 | マンション 分譲価格 |
マンション 賃料 |
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△ | ▽ | △ | □ | ‐ | ‐ | ||
詳細項目の動向 △:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少 |
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取引価格 | 取引利回り | オフィス賃料 | |||||
△ | ▽ | △ | |||||
店舗賃料 | マンション分譲価格 | マンション賃料 | |||||
□ | ‐ | ‐ |
青葉区錦町(住宅)
総合評価 | 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇) | ||||||
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鑑定評価員コメント | 当地区は良好な生活利便性を有する文教地区として高いブランド力を有するエリアであり、ファミリー層を中心に、郊外から転居するシニア層や都心部で働く単
身者層等の幅広い住宅需要に支えられている。仙台市都心部で供給される分譲マンションの成約率は概ね安定しており、近時竣工したマンションも完売した物件が多い等、堅調なマンション需要が続いている。依然として建築費の上昇を背景としたマンション分譲価格の上昇傾向が続いているため、専有面積を縮小することにより総額を抑えた物件が供給されており、堅調なマンション需要の背後には分譲事業者の工夫も見られる。また、JR仙台駅徒歩数分の好立地の大型マンションでは2億円を超えるプレミア住戸が完売する等、都心部では高価格帯のマンション供給が続いており、成約率の推移が注目されている。一方、都心部等では優良なマンション開発素地に対するデベロッパー等の取得意欲は依然として強い状態が続いており、立地条件等が優れたマンション開発素地が市場に供給された場合には需要が競合する結果、高値で取引される傾向が続いて見られる。賃貸マンションについては、交通利便性の良好な仙台駅周辺や地
下鉄沿線への集中傾向が続いており、都心部等における法人及び個人の住み替え需要が旺盛である。当地区は都心部の県庁・市役所周辺のビジネスエリアに近接している等立地条件が優れブランド力も有するため、分譲、賃貸ともにマンション需要が強く、マンション分譲価格とマンション賃料は上昇傾向が続いており、マンション開発素地の強い需要も続いている。以上の市況から、当地区では取引価格の上昇傾向が続いており、当期の地価動向は引き続きやや上昇で推移した。
今後は都心部の分譲マンションの更なる供給とともに、金利政策や建築費の動向等に注視する必要があるものの、優良なマンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、今後も取得競合が続くと見込まれることから、将来の地価動向は引き続きやや上昇で推移すると予想される。 |
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路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 | JR仙台駅からの徒歩圏。中高層マンションのほか規模の大きい一般住宅等が建ち並ぶ高級住宅地区。 | ||||||
詳細項目の動向 △:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少 |
取引価格 | 取引利回り | オフィス 賃料 |
店舗賃料 | マンション 分譲価格 |
マンション 賃料 |
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△ | ▽ | ‐ | ‐ | △ | △ | ||
詳細項目の動向 △:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少 |
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取引価格 | 取引利回り | オフィス賃料 | |||||
△ | ▽ | ‐ | |||||
店舗賃料 | マンション分譲価格 | マンション賃料 | |||||
‐ | △ | △ |
J-REITによる物件取得額(東北)
J-REITによる2024年上期(1-6月)の物件取得額(東北)は148億円(前年同期比+182%)と大きく増加した(図表-28)。アセットタイプ別では、オフィス(43%)・物流施設(31%)・底地(16%)・商業施設(9%)となり、大型オフィスビルや物流施設の取得が確認された。
図表-28 J-REITによる物件取得額(東北)
仙台のキャップレートの動向
仙台においても、大規模金融緩和等を背景に不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、仙台市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は3.8%となり前年比▲0.1%低下した(図表-29)。
同様に、住宅のキャップレートは4.3%(前年比▲0.2%)、商業は4.5%(同±0.0%)、ホテルは4.5%(同▲0.1%)、物流施設は4.7%(同▲0.2%)となり、商業を除くすべてのタイプで利回りが低下した。
日本銀行は、2024年7月の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げ(0~0.1%⇒0.25%)と、国債買入れ減額を決定した。こうしたなか、10年国債利回りは5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台に乗せるなど上昇基調で推移している。これまでキャップレートは大きく低下してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。
図表-29 仙台のキャップレート推移
寄稿者
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員
吉田 資 よしだ たすく
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三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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