ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 仙台不動産市場レポート(2023年11月時点)

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目次

要旨

  • 仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動している。こうした施策を背景に、仙台中心部では大規模な再開発が複数計画されている。
  • オフィスビルの成約賃料は、新規供給の増加等に伴う需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移する見通しである。2022年の賃料を「100」とした場合、2024年の賃料は「98」、2027年は「96」に下落すると予想する。ただし、ピーク(2019年)対比で▲7%下落するものの、2018 年の賃料水準「93」を上回る水準であり、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
  • 仙台市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2020年を底に増加しているが、人口の転入超過は継続していることから、需給環境が大きく悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き横這いで推移することが予想される。
  • J-REITによる2023年1-9月累計の物件取得額(東北)は165億円となり、前年同期比+34%増加した。アセットタイプ別では、大型オフィスビルの取得が複数確認された。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、仙台においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、仙台市に所在する大規模オフィスビルの還元利回りを推計すると、2022年は3.9%となり前年比▲0.1%低下した。同様に、住宅のキャップレートは4.4%(前年比▲0.1%)、商業は4.5%(同▲0.1%)、ホテルは4.6%(同±0.0%)、物流施設は4.9%(同▲0.2%)となり、ホテルを除くすべてのタイプで利回りが低下した。
  • 一方、日本銀行は、今年10月に長短金利操作(YCC)の再修正を決定し、長期金利の事実上の上限としていた1%を上回る水準を容認した。結果、10年国債利回りは一時0.9%台まで上昇した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後はベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

仙台市中心部の再開発計画

「せんだい都心再構築プロジェクト」

仙台市は、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」を2019年7月より始動した。具体的な施策として、「仙台市都心部建替え促進助成金制度の創設」や「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」、「仙台市市街地再開発事業補助金制度の拡充」等、が講じられている。
さらに、仙台市は、2020年10月に「せんだい都心再構築プロジェクト」に関する第2弾の施策を公表した。環境に最大限配慮した建築物(グリーンビルディング)の整備を誘導するほか、老朽建築物の建替えを推進する目的で、テナントの移転に支援制度を創設した。
また、仙台市は、建設業界の人手不足や建設費高騰で工期に遅れが発生すると見込み、2023年11月に同プロジェクトの指定期限を当初計画の2023年度末から2030年度まで延長した[1]

仙台市中心部の再開発計画

「せんだい都心再構築プロジェクト」の施策拡充に伴い、仙台中心部では複数の再開発計画が進展している。

同プロジェクトの助成制度を活用した第一号案件として、NTT都市開発は「アーバンネット仙台中央ビル」(延床面積約4.2万㎡・地上19階建て)を開発し、2023年11月に竣工予定である[2](図表-1 ①)。続いて、ウッドライズキャピタル[3]は国分町1丁目に「ウッドライズ仙台」(延床面積1.0 万㎡・地上10階建て)を開発し、2023年11月に竣工予定である(図表-1 ②)。

また、東京建物は仙台駅前の南町通に「T-PLUS仙台」(延床面積1.4 万㎡・地上12階建て)を開発し、2024年1月に竣工予定[4]である(図表-1 ③)。鹿島建設は中央三丁目でオフィスと店舗からなる複合ビル(延床面積1.3万㎡・地上11階建て)を開発し、2025年3月の完成を目指している[5](図表-1 ④)。

また、東日本興業(東北電力系の不動産管理会社)、戸田建設、明治安田生命保険、三菱地所等は、「電力ビル」中心とした一体開発を計画しており[6]、2023年5月に「せんだい都心再構築プロジェクト」の「グリーンビルディング」第1号案件に認定された[7]。同計画では、オフィスや音楽ホールが入居する高層複合ビル2棟(南棟:約180m・北棟約135m)等を開発し、2035年頃の完成を目指すとしている[8](図表-1 ⑤)。

図表-1 「せんだい都心再構築
プロジェクト」関連 オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

仙台市では、上記の「せんだい都心再構築プロジェクト」以外の再開発プロジェクトも複数計画されている。ヨドバシホールディングスは、JR仙台駅東口で、複合ビル「ヨドバシ仙台第1ビル」(延床面積約7.7万㎡・地上12階建て)を2023年6月に開業した[9](図表-2 ①)。この開発は、国土交通省に優良な民間都市再生事業計画として認定され、金融支援や税制上の特例措置等の支援を受けている[10]

さらに、仙台市はJR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「GSビル跡地」や「旧さくら野百貨店仙台店」の再開発と連動して行う計画である[11]

「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体的な再開発が検討されている(図表-2 ②)。「EDEN」を運営するオリックスの関連会社は、2023年11月に入居テナントとの契約を2024年1月末以降は延長しない方針を示した。跡地の利用については非公表としているが、再開発を見据えての動きとみられる[12]。また、「旧さくら野百貨店仙台店」跡地では、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが再開発を検討している(図表-2 ③)。オフィスビルとホテルの計2棟(総延床面積約11万㎡)を建築し、それぞれの低層階を商業施設でつなげる計画[13]だが、現時点で着工時期は未定となっている。

また、青葉区一番町の百貨店「藤崎本館」を含めた20棟程度の商業ビル(面積:約1.7ヘクタール)を一体開発し、百貨店やオフィスビルなどを建設する計画が検討されており、2023年8月に再開発協議会が発足した[14](図表-2 ④)。

図表-2 仙台市の再開発プロジェクト

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[1] 日本経済新聞「仙台市、再開発プロジェクト指定期限を延長 2030年度に」(2023年11月17日)
[2] NTT都市開発株式会社 「仙台市青葉区中央における新築工事着工および計画建物名称「アーバンネット仙台中央ビル」決定について。」(2022年3月18日)
[3]  環境配慮型オフィスビルの開発を目的として、株式会社長谷工コーポレーション、株式会社日本政策投資銀行、七十七キャピタル株式会社、株式会社竹中工務店、みずほ不動産投資顧問株式会社が共同で組成した不動産私募ファンド。
[4] 東京建物株式会社 「「T-PLUS(ティープラス)仙台」着工~中規模オフィス「T-PLUS」シリーズ、全国展開本格化~」(2022年8月30日)
[6] 建設通信新聞「仙台中央三丁目開発/鹿島が11月着工」(2023年5月8日)
[6] 日本経済新聞「「電力ビル」軸に一体開発へ 東北電力系など、仙台中心部で過去最大 音楽ホール・オフィス入居 高層複合ビルに」(2023年4月1日)
[7] 日本経済新聞「仙台市、電力ビル再開発を環境配慮ビル認定」(2023年5月23日)
[8] 日本経済新聞「仙台・電力ビル、本館は30年解体 高さ東北一に並ぶ」(2023年4月28日)
[9] 日本経済新聞「ヨドバシ、仙台に複合ビル開業 家電量販店は東北最大級」(2023年5月29日)
[10] 国土交通省 「仙台駅東口地区に魅力や賑わいを創出する都市空間を形成~(仮称)ヨドバシ仙台第1ビル計画 整備事業を国土交通大臣が認定~」(2021年11月26日)
[11] 河北新報「「青葉通広場化」検討着手/仙台・あす協議会発足」(2021年5月31日)
[12] 日本経済新聞「仙台「エデン」、来年閉店 1月末にも、西口再開発見据え」(2023年11月21日)
[13] 日本経済新聞 「東北経済特集―東北、力強く前へ、仙台駅前、再開発進む。」(2021年12月24日)
[14] 日本経済新聞「仙台の百貨店・藤崎周辺の再開発協議会が発足」(2023年8月4日)

仙台の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

三幸エステートによると、仙台市の空室率(2023年11月時点)は4.9%となり、前年比▲0.1%低下した(図表-3)。
仙台のオフィス市場では、コロナ禍からの経済正常化に伴うオフィスの新規開設や拡張移転等の動きが広がり、需給環境は堅調さを維持している。
空室率をビルの規模[15]別にみると、「大規模3.6%(前年比+0.3%)」、「中型7.4%(同+0.1%)」、「小型9.9%(同+0.4%)」は前年から上昇した一方、「大型4.2%(同▲0.9%)」は大幅に低下した(図表-4)。

図表-3 主要都市のオフィス空室率

(出所)三幸エステート

図表-4 仙台オフィスの規模別空室率

(出所)三幸エステート

全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の仙台市の成約賃料は、前期比▲4.7%、前年同期比+0.5%となった(図表-5)。

図表-5 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」を基にニッセイ基礎研究所作成

2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、東京都心5区、大阪、名古屋が上昇、仙台、札幌、福岡が低下と分かれる結果となった。成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいとなった。仙台市は主要都市で一番大きく空室率が低下したが、成約賃料は横ばいであった(図表-6)。
賃料と空室率の関係を表した市の仙台市の賃料サイクル[16] は、2010年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いた。その後、2020 年下期から「空室率上昇・賃料下落」局面に移行したが、2022年に入り、再び空室率が低下している(図表-7)。

図表-6 2022年の主要都市の
オフィス市況変化

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-7 仙台オフィス市場の賃料サイクル

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

仙台オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカー数の見通し

2022年の宮城県の就業者数は120.6万人(前年比▲0.9万人)となり、3年連続で減少した(図表-8)。
また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、仙台市の生産年齢人口は、2015 年以降、減少が続いている(図表-9)。

図表-8 宮城県の就業者数

(出所)総務省「労働力調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-9 仙台市の生産年齢人口

(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

以下では、仙台市のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI [17]」(東北財務支局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2023年第3四半期は「+4.6」となった。(図表-10)。全国と比較した場合、コロナ禍による景況感の悪化幅は小さかったものの、その後の回復スピードはやや遅い傾向にある。
「従業員数判断BSI [18]」(東北財務支局)は、人手不足を表わす「+22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇と低下を繰り返しながら推移し、2023年第3四半期には「+24.0」となった(図表-11)。

図表-10 企業の景況判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-11 従業員数判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

仙台市では、人口の流入超過が継続しているものの、宮城県全体の就業者数は3年連続で減少し、仙台市の生産年齢人口も減少基調で推移している。また、東北地方の「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから回復に向かっているものの、全国平均と比較して回復ペースが遅い傾向にある。以上のことを鑑みると、仙台市のオフィスワーカー数の拡大は今後も力強さに欠くことが予想される。

テレワークの普及がオフィス需要に及ぼす影響

宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」によれば、「テレワークの導入状況」について、「導入済み」との回答は2020年の22%から2022年の31%に増加した(図表-12)。本社所在地が宮城県外(東京等)の企業に限定すると、「導入済み」との回答は50%に達している。
産業別にテレワークの導入状況 を確認すると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」(100%)や「金融業、保険業」(59%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(57%)では半数を超える水準となっている(図表-13)。
仙台においても、コロナ禍を経て、本社所在地が東京の企業や、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、テレワークを導入する企業が増えているようだ。今後も、テレワークを採り入れた新たな働き方が定着し、仙台市でもワークプレイスを見直す動きが一定程度は広がる可能性があり 、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

図表-12 宮城県 テレワーク導入率

(出所)宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-13 宮城県 産業別テレワーク導入率
(2022年)

(出所)宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」をもとにニッセイ基礎研究所作成

仙台オフィス市場の供給見通し

2022年は、仙台市内において、大規模ビルの新規供給がなかった(図表-14)。一方、2023年は、「ヨドバシ仙台第1ビル」や「アーバンネット仙台中央ビル」等、複数の大規模ビルが竣工し、新規供給は13年ぶりに1万坪を超えて、約1.5万坪に達する見通しである。ただし、その後の新規供給は一段落し、2024年は約4千坪、2025年は約2千坪にとどまる見込みである。

図表-14 仙台オフィスビル
新規供給見通し

(出所)三幸エステート

仙台のオフィス賃料見通し

前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2027年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表-15)。
新規供給に関して、2023年は複数の大規模ビルが竣工し約1.5万坪に達するが、2024年から2025年は一段落する見通しである。一方、仙台市の生産年齢人口は減少基調で推移しており、コロナ禍で悪化した東北地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」についても本格回復に至っておらず、オフィスワーカーの大幅な増加は見込み難い状況にある。さらに、テレワークを採り入れた新たな働き方が情報通信業等を中心に定着するなか、ワークプレイスの見直しを検討する動きが仙台市でも広がる可能性がある。以上を鑑みると、仙台市のオフィス需要は力強さに欠けることが予想され、空室率は2023年の大量供給に伴い上昇した後、高止まりで推移すると予測する。
仙台のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い、緩やかに下落基調で推移する見通しである。2022年を100 とした場合、2024年の賃料は「98」、2027年の賃料は「96」への下落を予想する。ただし、ピーク(2019年)対比で▲7%下落するものの、2018 年の賃料水準「93」を上回る水準であり、大幅な賃料下落には至らない見通しである。

図表-15 仙台のオフィス賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所作成

[15] 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
[16]賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[17]企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
[18]従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

仙台の賃貸マンション市場

仙台市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、仙台市の転入超過数(日本人)は、安定してプラスで推移しており、2022年は+3,499人(前年比+13%)となり、2010年以降の平均(約3.2千人)と同水準であった(図表-16)。
2022年の転入超過数を区別にみると、「宮城野区」と「泉区」は、「転出超過」であった一方、「青葉区」、「若林区」、「太白区」は「転入超過」となった。特に、「青葉区」は、2010年以降の平均を上回る水準となった(図表-17)。

図表-16 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-17 仙台市 区別転入超過数
(2010年~2022年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

仙台市の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、仙台市の住宅着工戸数は、2020年を底に増加している。2022年は前年比+33%の約4千戸となり、2011年以降の平均(約3千戸)を上回った(図表-18)。
規模別に住宅着工戸数をみると、仙台市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が、復興公営住宅の着工が多かった2014年を除き、一貫して最も多く供給されており、全体の6割程度を占めている。2022年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比+78%、コンパクトタイプが同+21%、ファミリータイプ(61㎡~)が同+24%増加した(図表-19)。
また、区別では、「青葉区」が長期的に高水準の供給量となっており、2022年は2011年以降の最高値を更新した。2022年は、「青葉区」(約1.6 千戸)に次いで「宮城野区」(約0.9千戸)。「太白区」(約0.7千戸)が多かった(図表-20)。

図表-18 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-19 仙台市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-20 仙台市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2011年~2022年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

仙台市の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

仙台市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2012年をピークに低下傾向で推移し2020年には95.4%まで落ち込んだ。しかし、その後は回復に向かっており、2022年は98.0%となった(図表-21)。
仙台市のマンション賃料は、概ね横這いで推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第2四半期は前年比でシングルタイプが▲0.1%、コンパクトタイプが▲0.3%、ファミリータイプが▲1.4%となった。(図表-22)。

図表-21 J-REIT物件の平均稼働率
(仙台市・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値

図表-22
仙台市のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

このように、仙台市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2020年を底に増加しているが、人口の転入超過は継続していることから、需給環境が大きく悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き横這いで推移することが予想される。

仙台の不動産投資市場

仙台の地価動向

仙台の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第3四半期)」によると、中央一丁目(商業地)、錦町(住宅地)ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-23)。同レポートでは、「商業地では、都市機能の更新に伴う発展期待等により、投資家等の投資需要は安定しており、地価が上昇している。住宅地でも、優良なマンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、地価が上昇している」としている。

図表-23 仙台の地価動向
(地価LOOKレポートより)

青葉区中央1丁目(商業)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区及びその周辺のオフィス賃貸市場では、前期に続き当期も募集面積を残して竣工した新築ビルがあり、新築ビルで空室率の上昇が見られた。他方、既存ビルは引き続き館内増床や拡張移転、拠点の集約等に伴う成約の動きが見られており、当地区全体の平均空室率は総じて横ばいで推移している。今後は大規模オフィスビルの供給が予定されているが、新規供給物件の中でも物件によって成約率がばらついており、一時的に空室率が上昇する場合もあると見られているため、空室率の上昇に伴う賃料の変化には注視が必要である。しかし、増床、移転、集約等の需要は安定しているため徐々に空室は解消するとの見方もあり、当期も募集賃料を見直す動きは限定的で、オフィス賃料に大きな変化は見られない。ホテル市況については、市内の各種イベントの再開により、国内外を問わず観光客による宿泊者数が増加しており、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準へと戻りつつある。店舗需要について、中心商店街の空室は依然として確認されるが徐々に減少しており、昼夜の人の流れの増加によって百貨店の売上が増加する等の影響から、概ね安定的に推移している。仙台駅周辺では大型複合施設の開発が進捗しているほか、「せんだい都心再構築プロジェクト」の建替え促進助成制度等の影響もあり、都市機能の更新に伴う発展期待等から当地区に対する開発機運は高まっており、引き続き投資家等の投資需要は安定している。一方で、立地条件の優れた土地等の供給は限定的な状況が継続していることから取引価格は上昇傾向が続いており、当期の地価動向は引き続きやや上昇で推移した。

今後は、一時的な空室率の上昇が危惧されているほかに、金利政策の変化に注視する必要があるものの、上記のとおり都市機能の更新に伴う発展期待等を背景とした開発気運が高まっており、当地区では安定した投資需要が見込まれることから、将来の地価動向は引き続きやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR仙台駅西口周辺。駅前に百貨店や高層店舗ビルが集積する高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省 「地価 LOOKレポート2023年3Q」

青葉区錦町(住宅)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区は良好な生活利便性を有する文教地区として高いブランド力を有するエリアであり、ファミリー層を中心に、郊外から転居するシニア層や都心部で働く単身者層等の幅広い住宅需要に支えられている。交通利便性等に優れた当地区を含む仙台都心部の住宅需要は堅調であり、建築費の上昇等を背景として当地区のマンション分譲価格は引き続き上昇傾向で推移し、成約率も安定しているものの、高額物件の成約率は低下傾向が見られる。都心回帰指向の高まりや世帯規模の縮小傾向を受けて、一時は単身者や2人世帯向けのコンパクトタイプ住戸の供給が増加していたが、当期はこれらの供給に落ち着きが見られ始めた。一方で、都心部のマンション分譲価格上昇の影響を受け、都心部へのアクセスに優れる外縁部の供給が増えているほか、ファミリータイプでも面積を小さくすることで、総額を抑えた物件も増加している。また、都心部ではJR仙台駅徒歩数分の立地に大型分譲マンションが着工される等によって、供給戸数が増加しており、成約率の推移が注視されるようになっている。当地区では優良なマンション開発素地に対するデベロッパー等の取得意欲は依然として強い一方、供給は限定的であり、立地条件等が優れたマンション開発素地が市場に供給された場合には需要が競合する結果、高値で取引される市況が続いている。賃貸マンション市況については、交通利便性の良好な仙台駅周辺や地下鉄沿線を中心に、法人及び個人の住み替え需要、学生による需要が旺盛であり、特にファミリー向け住戸に関しては賃料が上昇傾向で推移している。当地区は県庁・市役所周辺のビジネスエリアに近接しているため賃貸マンションの需要は強く、引き続き高い投資適格性が認められる。以上の市況から、取引価格の上昇傾向は続いており、当期の地価動向は引き続きやや上昇で推移した。

今後は都心部の分譲マンションの更なる大量供給や、金利政策の変化、建築費の動向等に注視する必要があるものの、優良なマンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、当面は取得需要の競合が続くと見込まれることから、将来の地価動向は引き続きやや上昇傾向で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR仙台駅からの徒歩圏。中高層マンションのほか規模の大きい一般住宅等が建ち並ぶ高級住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省 「地価 LOOKレポート2023年3Q」

J-REITによる物件取得額(東北)

J-REITによる2023年1-9月累計の物件取得額(東北)は165億円(前年同期比+34%)となり、昨年の取得額(143億円)を既に上回った(図表-24)。アセットタイプ別では、オフィス(64%)・ホテル(24%)・底地(12%)となり、大型オフィスビルの取得が複数確認された。

図表-24 J-REITによる物件取得額(東北)

(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成
(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定

仙台のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、仙台においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、仙台市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は3.9%となり前年比▲0.1%低下した(図表-25)。
同様に、住宅のキャップレートは4.4%(前年比▲0.1%)、商業は4.5%(同▲0.1%)、ホテルは4.6%(同±0.0%)、物流施設は4.9%(同▲0.2%)となり、ホテルを除くすべてのタイプで利回りが低下した。
2007年~2008年の「不動産ファンドバブル」時の水準と比較した場合、オフィスの低下幅(▲1.2%:5.1%⇒3.9%)が最も大きい。仙台はコロナ禍を経ても、オフィスへの高い投資意欲を確認することができる。

一方、日本銀行は、今年10月に長短金利操作(YCC)の再修正を決定し、長期金利の事実上の上限としていた1%を上回る水準を容認した。結果、10年国債利回りは一時0.9%台まで上昇した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後はベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

図表-25 仙台のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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