ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 名古屋不動産市場レポート(2024年5月時点)

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目次

要旨

  • 名古屋市では、名駅エリアや栄エリアを中心に大規模開発計画が複数進行中である。一方、情報通信業等を中心にした就業者の増加等を背景にオフィス需要は底堅く、オフィス空室率が大きく上昇する懸念は小さいと予想する。
  • 名古屋のオフィス成約賃料は、空室率が安定的に推移することに伴い、現行水準で概ね横ばいで推移し、2023年の賃料を100とした場合、2024年は「100」、2025年は「101」、2028年は「99」となる見通しである。
  • 足元の名古屋市のマンション賃料はやや弱含んでいる。需給環境を確認すると、人口の転入超過数は着実に回復するなか、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。需給環境が悪化する懸念は小さく、今後のマンション賃料は緩やかながら回復に向かうと予想する。
  • J-REITによる2023年の物件取得額(中部)は848億円(前年比+91%)となり昨年の取得額を大幅に上回った。アセットタイプ別では、100億円を超える大型の物流施設やオフィスビルの取得が確認された。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入し、名古屋市においても、不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、名古屋市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は前年比▲0.2ppt低下の3.4%となった。同様に、住宅のキャップレートは3.9%(前年比▲0.2ppt)、商業は4.0%(同▲0.1ppt)、ホテルは4.3%(同▲0.1ppt)、物流施設は4.0%(同▲0.2ppt)となった。
  • 日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。これを受けて、10年国債利回りは5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台まで上昇した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

名古屋のオフィス開発計画

名古屋市は、高機能オフィス等の開発を誘導する目的で、2020年10月より「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」の運用を開始している。現在、上記の制度等を活用した大規模開発計画が複数進行中であり、オフィス市場における当該エリアの存在感がさらに高まる見通しである。以下ではエリア毎にオフィス開発計画を概観する。

「名駅地区」

「名駅地区」では、中村区名駅3丁目で、三重交通グループホールディングスが開発した地上14階建ての「第2名古屋三交ビル」(延床面積約2.1万㎡)が2024年2月に竣工した(図表-1①)。

また、中村区名駅4丁目で、明治安田生命保険相互会社が「明治安田生命名古屋駅前ビル」の建て替えを行い、20階建てのオフィスビル(延床面積約4万㎡)を開発中で、2026年8月に竣工予定である[1](図表-1②)。

名古屋鉄道は、名古屋駅機能の整備と駅周辺地区の再開発(「名鉄名古屋駅地区再開発事業」)を計画している(図表-1③)。中期経営計画(2024年度~2026年度)によれば、交通施設の再整備と一体的な再開発の実現に向けた取り組みを推進するとともに、関係者との協議・調整を加速させ、事業の方向性を判断し、公表する予定としている[2]

図表-1 「名駅地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

「栄地区」

「栄地区」では、中区栄4丁目で中部日本ビルディングと中日新聞社が開発した地上33階建てのオフィス、ホテル、多目的ホール等で構成する「中日ビル」(延床面積約11.7万㎡)が2023年8月に竣工、2024年4月に全面開業した[3](図表-2①)。9~22階のオフィスフロアは9割が成約済みとのことである[4]

また、市有地の「栄広場」と隣接エリアを合わせた地区(錦三丁目25番街区)で、三菱地所、パルコ、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社の5社は「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」を活用した複合ビル(延床面積約11万㎡)を開発中で、2026年3月に竣工予定である[5]。ホテルには、米ヒルトングループの「コンラッド」が入居する。地上41階・地下4階建てを予定する当ビルの高さは約211メートルと、名古屋テレビ塔(約180メートル)を超え、栄地区では最も高いビルとなる(図表-2②)。

また、中区新栄町2丁目で、第一生命保険、鹿島建設、ノリタケカンパニーリミテドが共同で地上19階建ての「栄トリッドスクエア」[6](延床面積約4万㎡)を開発中で、2026年3月に竣工予定である[7](図表-2③)。

図表-2 「栄地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

「伏見・丸の内地区」

「丸の内地区」では、中区丸の内1丁目で清水建設、富国生命保険、清水総合開発が開発した「名古屋シミズ富国生命ビル」(地上16階建て・延床面積約4.8万㎡)が2024年3月に竣工した[8](図表-3①)。

「伏見地区」では、中区錦2丁目の「りそな名古屋ビル」跡地で鹿島建設が地上13階建てのオフィスビル(延床面積約2.6万㎡)を開発中で、2025年10月に竣工予定である[9](図表-3②)。

図表-3 「伏見・丸の内地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[1] 明治安田生命保険相互会社「「明治安田生命名古屋駅前ビル建替計画」新築工事着工のお知らせ~環境に配慮した設備により、持続可能な社会の実現に貢献~」2023年5月24日
[2] 名古屋鉄道株式会社「新・名鉄グループ経営ビジョン、2040年のありたい姿、中長期経営戦略および中期経営計画(2024年度~2026年度)の策定について」2024年3月25日
[3] 中部日本ビルディング株式会社・株式会社中日新聞社「名古屋・栄の新たなランドマークへ「中日ビル」が 2024年4月23日(火)に全面開業。名古屋初を含む93のテナントが出店」2024年1月11日
[4] 日本経済新聞「栄に「ビジネス」呼び込め 中日ビルが全面開業 オフィス賃料、名駅より割安」2024/4/24
[5] 三菱地所株式会社、株式会社パルコ、日本郵政不動産株式会社、明治安田生命保険相互会社、株式会社中日新聞社「「(仮称)錦三丁目 25 番街区計画」着工~名古屋の新たなランドマークとなるシンボルタワーが栄に誕生~」2022年6月13日
[6] 鹿島建設株式会社HP「栄トリッドスクエア」
[7] 第一生命保険株式会社、鹿島建設株式会社、株式会社ノリタケカンパニーリミテド「名古屋市中区栄エリアにおけるオフィスビル共同開発プロジェクト始動」2022年11月11日
[8] 清水建設株式会社・富国生命保険相互会社・清水総合開発株式会社「「(仮称)名古屋丸の内一丁目計画」のビル名称を決定~多様な働き方に応える超環境配慮型オフィス「名古屋シミズ富国生命ビル」~」2023年6月30日
[9] 週刊ビル経営「鹿島建設 「(仮称)錦通桑名町ビル計画」着工」2023/12/11

名古屋の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2024年4月時点)は、4.9%(前年比+0.1ppt)となった(図表-4)。「中日ビル」などの大規模ビルが竣工し新規供給量が増加する一方、人材確保や従業員満足度の向上などを目的に、立地改善や建物設備のグレートアップを図る移転需要が増えており、空室率は前年と同水準に留まった。
空室率をビルの規模別[10]にみると、「大規模4.9%(前年比+0.1ppt)」と「中型5.6%(同+0.5ppt)」が上昇した一方で、「大型4.3%(同▲0.4ppt)」と「小型4.5%(同▲0.5ppt)」は低下した(図表-5)。

図表-4 主要都市のオフィス空室率

(資料)三幸エステート

図表-5 名古屋オフィスの規模別空室率

(資料)三幸エステート

空室率が概ね横這いで推移するなか、成約賃料は上昇している。2023年下期の名古屋市の成約賃料は、前期比+3.8%、前年比+4.7%となった(図表-6)。

図表-6 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)

(資料)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」

2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった(図表-7)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル[11]は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020年上期を起点に「空室率上昇・賃料上昇」局面へと移行している(図表-8)。

図表-7 2023年の主要都市の
オフィス市況変化

(資料)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-8 名古屋オフィス市場の賃料サイクル

(資料)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

名古屋オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカー数の見通し

愛知県の就業者数は、3年連続で増加し、2023年は421.7万人(前年比+3.5万人)となった(図表-9・左図)。オフィスワーカーが多い産業の就業者数(2023年)をみると、「金融業,保険業(同▲6.9%)」は前年から減少し、「情報通信業(前年比+1.9%)」と「学術研究,専門・技術サービス業(同+9.5%)」は増加した。(図表-9・右図)。

図表-9 愛知県の就業者数

就業者数(全体)

(資料)愛知県「あいちの就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成

産業別 就業者数(2012年=100)

(資料)愛知県「あいちの就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成

以下では、名古屋のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東海地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI[12]」(東海地方)は、2020年第2四半期に「▲52.2」と一気に悪化した。その後は回復と悪化を繰り返し一進一退の動きで推移し、2024年第1四半期は「▲3.4」となった(図表-10)。
また、「従業員数判断BSI[13]」(東海地方)は、人手不足を示す「21.1」(2020年第1四半期)からやや過剰の「▲1.3」(第2四半期)へ大幅に低下した後、回復が続いている。2024年第1四半期は「+26.9」となりコロナ禍前の水準を上回った(図表-11)。

図表-10 企業の景況判断BSI(全産業)

(資料)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-11 従業員数判断BSI(全産業)

(資料)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

愛知県の就業者数は情報通信業等を中心に増加している。東海地方の「企業の経営環境」は一進一退を繰り返しているが、「雇用環境」については、人手不足感が強まっている。
以上のことを鑑みると、名古屋市の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。

在宅勤務の進展に伴うオフィス利用形態の変更

愛知県「労働条件・労働福祉実態調査」によれば、2023年の愛知県におけるテレワーク導入率は18%となり、産業別では「情報通信業(88%)」のテレワーク導入率が特に高い。
また、「テレワークの導入により感じている効果」について尋ねた質問では、「多様で柔軟な働き方の確保(65%)」との質問が最も多く、次いで「仕事と育児・介護・治療の両立(59%)」、「通勤時間の削減(52%)」の順に多かった(図表-12)。企業は、従業員の働きやすさを担保し、ワークライフバランスの向上を図るため、働く場所に関して多様な選択肢の提供が求められている。また、労働力確保の観点から、介護離職の防止等にも積極的に取り組む必要があり、今後もテレワークを実施する企業は多いと考えらえる。
「今後のテレワークの実施について」に尋ねた質問では(図表-13)、「現在と同程度を維持する」との回答が大幅に増加し(2021年48%⇒2023年68%)、「新型コロナウィルス感染症が流行する以前の水準に戻す」との回答が減少した(2021年12%⇒2023年4%)。名古屋においても、テレワークを取り入れた働き方が定着すると考えられる。

こうしたなか、フリーアドレス[14]等を導入する動きが広がっている。ザイマックス不動産研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023①働き方の実態とニーズ編」によれば、名古屋市のオフィスワーカーに対し、オフィスの設備で実際に利用しているもの(「現状」)と、在籍するオフィスにあってほしいと思うもの(ニーズ)を尋ねた所、「フリーアドレス」は「現状」では16.1%、「ニーズ」では21.1%を占めた。また、「リモート会議用ブース・個室」は「現状」では11.3%、「ニーズ」では16.9%を占めた。名古屋でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態を採用する企業が増えている模様だ。

図表-12 テレワーク実施による効果
(2023年)

(資料)愛知県「労働条件・労働福祉実態調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-13 今後のテレワークの実施について

(資料)愛知県「労働条件・労働福祉実態調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

「リニア中央新幹線の開業」による経済波及効果への期待

リニア中央新幹線の名古屋駅開業に対する期待は大きい。品川~名古屋間のリニア開業に伴う経済効果(50年間)は約10.7兆円、このうち東海3県へは約2兆円と見込まれている[15]
リニア開業を見据えて、まちづくりも進んでいる。名古屋市は、高機能オフィス等の開発を誘導する目的で「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」の運用を2020年10月より開始した。基準に適合する建築物の容積率は、名古屋駅東口周辺と栄駅周辺部は1,300%に、伏見駅周辺は1,100%に引き上げられた。
続いて、2024年3月に、名古屋市は「名駅南まちづくり方針」を公表し、リニア開業後を見据えた名駅南地区(名駅1丁目~4丁目)のまちづくりの方針を示した(図表-14)。具体的には、①賑わいがあふれるウォーカブルなまちづくり、②公民の投資により再生するまちづくり、③新たな体験を誘発し様々な挑戦を支えるクリエイティブなまちづくり、④地域の力で地域を育てるまちづくり、の4つの方針を示した。③「新たな体験を誘発し様々な挑戦を支えるクリエイティブなまちづくり」に関して、「三蔵通」を「起業意欲と感性を刺激する創造軸」に位置づけて、スタートアップ・ベンチャー企業の集積等を目指すとしている。

また、名古屋市は2019年1月に、都心における回遊性の向上や賑わいの拡大を図る目的で、名古屋市中心部に新たな路面公共交通システム(SRT)を導入する構想[16]を示した。2023年5月に策定された「名古屋交通計画2030」によれば、まず、名古屋駅~栄間の「東西ルート」からSTRを導入し、リニア中央新幹線開業時には、来訪者等が名古屋駅からSTRを利用し都心部の各拠点へ快適に移動できるよう導入を図るとしている(図表-15)。

図表-14 名駅南まちづくりのイメージ

(資料)名古屋市「名駅南まちづくり方針」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-15  SRT運行ルートのイメージ

(資料)名古屋市「名古屋交通計画2030」を基にニッセイ基礎研究所作成

ただし、リニア中央新幹線を巡っては、静岡県が大井川の流量に影響を与えるとして静岡工区の工事に反対しており、JR東海は2027年度中の開業を断念すると発表した[17]。開業延期に伴い、リニア開業を見据えたまちづくりの遅れや、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。

名古屋オフィス市場の供給見通し

2023年は「エニシオ名駅」や「中日ビル」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は前年比+80%の約1.9万坪となった(図表-16)。
2024年も「名古屋シミズ富国生命ビル」や「第2名古屋三交ビル」等、大規模ビルの竣工が予定されており、新規供給量は約1.6万坪となる見通しである。翌2025年は一旦落ち着くものの、2026年は「(仮)錦三丁目25番地区計画」や「栄トリッドスクエア」等の大規模開発が竣工予定で、新規供給量は約2.4 万坪となり9年ぶりに2万坪を上回る見通しである。

図表-16 名古屋のオフィスビル
新規供給見通し

(資料)三幸エステート

名古屋のオフィス賃料見通し

前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの名古屋のオフィス賃料を予測した(図表-17)。
新規供給は、名駅エリアや栄エリアを中心に大規模開発計画が複数進行中である。
一方、オフィス需要に関して、愛知県の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、人手不足感も強いことから、名古屋市の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、名古屋でも、フリーアドレスを導入し、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態を採用する企業が増えている。リニア中央新幹線の名古屋駅開業を見据えて、新たな路面公共交通システム等の導入が進んでおり、都市機能の強化・向上が図られることで、オフィス需要にもプラスの効果が期待される。
以上を踏まえると、名古屋市のオフィス需要は底堅く、空室率が大きく上昇する懸念は小さいと予想する。
名古屋のオフィス成約賃料は、空室率が安定的に推移することに伴い、現行水準で概ね横ばいで推移し、2023年の賃料を100とした場合、2024年は「100」、2025年は「101」、2028年は「99」となる見通しである。

図表-17 名古屋のオフィス賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(資料)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所作成

[10] 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
[11] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[12] 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
[13] 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
[14] 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
[15] 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「リニア時代の国土創生」
[16] 名古屋市「新たな路面公共交通システムの実現を目指して(SRT構想)」
[17] 朝日新聞「リニア中央新幹線、2027年の開業断念へ 早くても34年以降か」2024/3/29

名古屋の賃貸マンション市場

名古屋市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、名古屋市の転入超過数(日本人)は、2011年以降プラスで推移している。2023年の転入超過数は前年比+64%増加の+6,708人となり、2010年以降の平均(約4.6千人)を上回った(図表-18)。
転入超過数を区別にみると、「東区」、「中村区」、「中区」、「守山区」は、一貫してプラスを維持している。2023年は、「中区」と「中村区」において2010年以降の最高値を更新した(図表-19)。

図表-18 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-19 名古屋市 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

名古屋市の建築コストの動向

次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、名古屋の「集合住宅(RC 造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2024年2月は前年比+5%上昇の「126.7」となった(図表-20)。
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(中部)は、コロナ禍以降、低下傾向(人手過剰)で推移していたが、2023年に入り上昇傾向(人手不足)に転じ、2024年3月は「±0.0」となった(図表-21)。

図表-20 主要都市の「集合住宅(RC造)」
建築コスト(2015年=100)

(出所)建設物価調査会「建築費指数」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-21 建設技能労働者過不足率(中部)

(出所)国土交通省「建設労働需給調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
※8職種計

名古屋市の住宅着工戸数の動向

続いて、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、名古屋市の住宅着工戸数は、2020年を底に回復傾向で推移していたが、2023年は、前年比▲9%減少の約0.9万戸となった(図表-22)。
規模別に住宅着工戸数をみると、名古屋市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が2012年以降、一貫して最も多く供給されており、全体の6割程度を占めている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比▲22%、コンパクトタイプが同▲5%、ファミリータイプ(61㎡~)が同▲15%減少した(図表-23)。
また、区別では、「中村区」と「中区」が長期的に高水準の供給量となっている。2023年は、「中村区」(約1.4千戸)に次いで「中川区」(約1.0千戸)、「中区」(約1.0千戸)の供給が多かった(図表-24)。

図表-22 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-23 名古屋市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-24 名古屋市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2012年~2023年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

名古屋の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

名古屋市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2012年をピークに低下傾向で推移し2020年に94.0%まで落ち込んだ。その後は回復傾向で推移していたが、2023年は前年比▲0.5ppt低下の94.9%となった(図表-25)。
名古屋市のマンション賃料は、やや弱含みで推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第4四半期は前年比でシングルタイプが▲0.3%、コンパクトタイプが+3.4%、ファミリータイプが▲11.5%となった。(図表-26)。

図表-25 J-REIT物件の平均稼働率
(名古屋市・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値

図表-26 名古屋市のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

足元の名古屋市のマンション賃料はやや弱含んでいる。需給環境を確認すると、人口の転入超過数は着実に回復しており、住宅着工戸数(借家・共同住宅)も建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。需給環境が悪化する懸念は小さく、今後のマンション賃料は緩やかながら回復に向かうと予想する。

名古屋の不動産投資市場

名古屋の地価動向

名古屋の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第4四半期)」によると、名駅駅前(商業地)、大曽根(住宅地)ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-27)。同レポートでは、「商業地では、名古屋駅周辺等の再整備に伴う発展期待により、法人投資家の収益不動産への需要は安定しており、地価が上昇している。住宅地でも、マンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として底堅く、地価が上昇している」としている。

図表-27 名古屋の地価動向
(地価LOOKレポートより)

名駅駅前(商業

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区のオフィス賃貸市場では、建替予定ビルからの移転や館内増床などの成約が認められた一方で、新築ビルへのテナント移転による二次空室や集約による解約等の影響により、空室率は前期と概ね同水準で推移した。また、オーナーとテナントの賃料水準に対する目線に変化は見られず、オフィス賃料については当期も概ね横ばいが続いた。冬期シーズンの到来によるコートなどの季節衣料雑貨や外国人観光客の増加による免税品の売り上げが好調で、店舗の売上高は増加したものの、店舗賃料は当期も概ね横ばいで推移した。中長期的には名古屋駅周辺の再整備のほか、リニア中央新幹線の開業が予定され、延期になったものの鉄道会社等による私鉄駅ビルの建替え等も検討されており、当地区の将来的な発展が見込まれることから、取引市場では収益物件に対する取得意欲の底堅さが当期も続いている。法人投資家による収益用不動産の需要は引き続き安定している一方で、収益物件の供給が限られるため、取引価格の緩やかな上昇傾向が当期も続いており、当地区の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区の空室率は相対的に高いものの、人流の回復とともに、底堅いオフィス需要及び消費行動の顕著な回復が継続している。また、高い将来性から収益物件に対する取得需要は底堅く、当面は当期の市況が継続すると見込まれることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 名古屋市営地下鉄東山線の名古屋駅周辺。JR名古屋駅東側に位置し、中高層事務所ビルが建ち並ぶ高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

大曽根(住宅

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区は名古屋市中心部へのアクセスが良好で、幹線道路の背後は良好な住宅が連担する閑静な住宅地となっており、幹線道路沿道のマンション等のエンドユーザーはファミリー層が中心である。名古屋市中心部のマンション分譲価格は一部の地域でやや弱含み傾向が見受けられるものの、住環境が良いエリアの分譲マンション需要は堅調に推移しており、当地区においては建築費の上昇等を背景に、当期のマンション分譲価格はやや上昇となった。また、当地区の優れた利便性やマンション分譲価格の動向を背景に、マンションデベロッパー等によるマンション開発素地取得意欲は当期も底堅い状態が続いている。マンション開発素地等のまとまった規模の土地の需給は依然として逼迫した状態が続いており、取引価格は緩やかな上昇傾向が続いていることから当期の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区は名古屋市中心部へのアクセス性や住環境が良好であるため、当期も分譲マンションの購買意欲の底堅さが続いている。立地の劣る分譲マンションは販売期間が長期化傾向にあるため、物件特性には注視を要するものの、当地区のマンション需要の堅調さから当期の市況が当面続くと見込まれるため、マンション開発素地の需給逼迫状況を背景に、当地区の将来の地価動向はやや上昇が続くと予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR中央線の大曽根駅(名古屋駅までJRで約11分)からの徒歩圏。中高層の共同住宅が建ち並ぶ住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

J-REITによる物件取得額(中部)

J-REITによる2023年の物件取得額(中部)は848億円(前年比+91%)となり、2022年の取得額(443億円)を大幅に上回った(図表-28)。アセットタイプ別では、オフィス(36%)・物流施設(25%)・ホテル(19%)・住宅(15%)・商業施設(4%)・底地(1%)となり、100億円を超える大型の物流施設やオフィスビルの取得が確認された。

図表-28 J-REITによる物件取得額(中部)

(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定
(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成

名古屋のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入し、名古屋市においても、不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、名古屋市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は前年比▲0.2ppt低下の3.4%となった(図表-30)。
同様に、住宅のキャップレートは3.9%(前年比▲0.2ppt)、商業は4.0%(同▲0.1ppt)、ホテルは4.3%(同▲0.1ppt)、物流施設は4.0%(同▲0.2ppt)となった。

図表-29 名古屋のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

こうしたなか、日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。これを受けて、10年国債利回りは、5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台まで上昇した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。  

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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