ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 広島不動産市場レポート(2024年8月時点)

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目次

要旨

  • 広島市では、「紙屋町・八丁堀地区」や「広島駅周辺地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2025年のオフィス新規供給面積は、約4千坪に達する見通しである。
  • オフィスビルの成約賃料は、大量供給に伴う需給バランスの緩和に伴い、弱含みで推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年は「101」、2025年は「99」、2028年は「96」に下落すると予想する。
  • 広島市では、2019年以降、人口の転出超過が続いている。一方、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は増加傾向で推移してきたが、建築コストの高騰が下押し要因となり、今後、大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。需給環境が大幅に悪化する懸念は小さく、住宅賃料は引き続き横ばい圏で推移することが予想される。
  • J-REITによる2024年上期(1-6月)の物件取得額(中国地方)は前年同期比▲17%の58億円となった。
  • 広島市においても、大規模金融緩和等を背景に不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、広島市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は前年比▲0.1ppt低下の4.3%となった。
  • 日本銀行は、2024年7月の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げ(0~0.1%⇒0.25%)と、国債買入れ減額を決定した。10年国債利回りは、5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台に乗せるなど上昇基調で推移している。これまでキャップレートは大きく低下してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

広島のオフィス開発計画

以下では、広島市を代表するオフィスエリアである「紙屋町・八丁堀地区」と「広島駅周辺地区」のオフィス開発計画を概観したい。

「紙屋町・八丁堀地区」

「紙屋町・八丁堀地区」では、明治安田生命保険が、中区袋町4丁目の「明治安田生命広島ビル」の建て替えを行い、地上14階のオフィスビル(延床面積約1.7万㎡)を開発し、2025年1月に竣工予定である[1](図表-1 ①)。

また、大同生命保険は、中区紙屋町1丁目の「広島日興ビル」の建て替えを行い、地上14階のオフィスビル「大同生命広島ビル」(延床面積約1.0万㎡)を開発し、2025年4月に竣工予定である[2](図表-1 ②)。

そして、2025年以降も、複数の大規模開発が計画されている。都市再生機構、朝日新聞社、朝日ビルディング、中国電力ネットワークが「基町相生通地区」(敷地面積約7.5千㎡)で、オフィスやホテル等が入る「高層棟」、「変電所棟」、「市営駐輪場」を整備する。オフィスやホテル等が入る高層棟は31階建ての複合ビル(延床面積7.8万㎡)となり、2027年度に完成予定である[3](図表-1③)。

また、広島YMCAの建物等がある「広島八丁堀3・7地区」(敷地面積1.2ha)では、市街地再開発が予定されており、NTT都市開発が事業協力者に認定された。地上15階、16階、28階建ての3棟の高層ビルを建てる計画で、2030年度以降の完成を目指すとしている[4](図表-1 ④)。

また、「中区本通3丁目地区」で、市街地再開発が予定されており、野村不動産が事業協力者に認定された[5]。同事業は、「本通商店街」を含む約1.2万㎡の敷地に、41階建ての北棟、53階建ての南棟のツインタワー(ともに高さ約185m)と、ツインタワーをつなぐ8階建ての低層棟を含む、総延床面積約17万㎡の複合ビルを建設し、2033年度の開業を目指すとしている[6](図表-1 ⑤)。

図表-1 「紙屋町・八丁堀地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料をもとにニッセイ基礎研究所作成

「広島駅周辺地区」

「広島駅周辺地区」では、日本郵便が南区松原町2丁目の「旧広島東郵便局跡地」に「広島JPビルディング」(地上19階建て・延床面積約4.4万㎡)を開発し、2022年8月に竣工した(図表-2 ①)。

その後も、広島駅周辺ではオフィス開発が計画されている。大和ハウス工業がJR広島駅北口の「二葉の里地区」で10階建てのオフィスビル(延床面積約0.6万㎡)を開発中で、2025年11月に完成予定である。また、同施設の東側で、住友不動産が、オフィスやホテル、マンション、温浴施設等が入る34階建ての複合ビルを開発中で、2027年に完成予定である[7](図表-2 ②)。

また、JR西日本グループが「JR広島駅ビル」の建て替えを行い、商業施設「minamoa(ミナモア)[8]」とホテルが入居する新しい広島駅ビルを開発中で、2025年に開業予定である。同ビルの2階には、広島電鉄の路面電車が直接乗り入れする予定である[9]。(図表-2 ③)。

図表-2 「広島駅周辺地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料をもとにニッセイ基礎研究所作成

[1] 明治安田生命保険相互会社「明治安田生命広島ビル(仮称)新築工事着工のお知らせ~持続可能な社会づくりと地元の活性化に貢献~」(2022年12月21日)
[2] 大同生命保険株式会社「「大同生命広島ビル」新築工事に着工 ~紙屋町・相生通りに、高い環境性能を備えた最新オフィスビルを 2025 年竣工予定~」(2023年3月10日)
[3] 日刊建設工業新聞 「基町相生通地区再開発/きょう既存解体着手、施工は竹中工務店・竹中土木JV」(2023年12月14日)
[4] 中国新聞 「[都心はいま] NTT都市開発が加入 広島・八丁堀再開発 23年度計画決定へ」(2023年2月17日)
[5] 本通3丁目地区市街地再開発準備組合・野村不動産株式会社「広島市のランドマークとなる大規模複合再開発事業 『本通3丁目地区市街地再開発準備組合』設立 ~ 事業協力者を野村不動産(株)に決定 ~」(2021年4月15日)
[6] 建設通信新聞 「環境アセス準備書を縦覧/本通3丁目市街地再開発/広島市」(2024年6月24日)
[7] 中国新聞 「イケアの出店計画があった広島駅北口、10階建てオフィスビル着工 2025年11月末の完成予定」(2024年1月27日)
[8] 西日本旅客鉄道株式会社・中国SC開発株式会社「2025年春開業 広島新駅ビル商業施設名称が決定『 minamoa ( ミナモア ) 』~皆様へ向けて広島新駅ビルに関する情報や各コンテンツの公開もスタート!~」(2024年5月23日)
[9] JR西日本HP「広島駅ビル開発プロジェクト」

広島の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

広島市のオフィス空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、上昇基調で推移していたが、2024年に入り改善に向かっている。三鬼商事によると、2024年7月時点の空室率は5.1%(前年比▲1.3ppt)に低下した(図表-3)。
また、需給バランスの改善に伴い、成約賃料も回復している。ニッセイ基礎研究所の推計によれば、広島市の成約賃料は、2021年上期をピークに下落基調で推移していたが、2023年下期は前年比+4.1%となった(図表-4)。
賃料と空室率の関係を表した広島市の賃料サイクル[10]は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面から「空室率上昇・賃料上昇」の局面を経て、2022年下期からは「空室率上昇・賃料下落」の局面へ移行し、足もとでは再び空室率が低下している(図表-5)。

図表-3 主要都市のオフィス空室率

(出所)三鬼商事のデータをもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-4 広島市のオフィス成約賃料

(出所)ニッセイ基礎研究所

図表-5 広島オフィス市場の賃料サイクル

(出所)空室率:三鬼商事、賃料:ニッセイ基礎研究所

広島オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカーの見通し

総務省「労働力調査」によれば、2023年の広島県の就業者数は144.9万人(前年比+0.2万人)となり、3年ぶりに増加した(図表-6)。
また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、広島市の生産年齢人口は減少傾向で推移しており、2023年は72.2万人(前年比▲0.3%)となった(図表-7)。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によれば、広島市の生産年齢人口の減少は今後も継続し、2025年は71.8 万人(2020年対比▲2.0%)、2030年は70.2万人(同▲4.2%)となる見通しである(図表-8)。

図表-6 広島県の就業者数

(出所)総務省「労働力調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-7 広島市の生産年齢人口

(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成 

図表-8 広島市の年齢帯別人口(予測)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口
(令和5(2023)年推計)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

続いて、広島のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「中国財務局」の管轄下5県(広島県・岡山県・山口県・鳥取県・島根県)における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI[11]」(中国財務局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移しており、2024年第2四半期は「▲4.7」と弱含みの動きとなっている(図表-9)。
また、「従業員数判断BSI[12]」(中国財務局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+13.1」(2020年第1四半期)から「▲3.9」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+20.0」となり、人手不足感が強まっている(図表-10)。

図表-9 企業の景況判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成 

図表-10 従業員数判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

広島県「県内企業への経営に関するアンケート調査」(2024 年5月実施)によれば、広島県内に事業所を置く企業に「1年前と比較した令和6年3月の売上高について」を尋ねたところ、「減少(40%)」との回答が「増加(38%)」との回答をやや上回った。
また、帝国データバンク「広島県2024 年度の業績見通しに関する企業の意識調査」によれば、業績見通し(前年度との比較)について、「増収増益」との回答が26%を占めて最多であったものの、次いで、「減収減益」との回答が24%を占めた。
広島県の就業者数は3年ぶりに増加したものの、生産年齢人口の減少は今後も続く見通しである。また、人手不足感が強い一方、コロナ禍からの企業活動の回復は鈍い傾向にある。以上のことを勘案すると、広島市の「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。

在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し

パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、広島県のテレワーク実施率は、コロナ禍以降、1割から2割の範囲で推移し、2023年7月調査では11%となった(図表-11)。広島県のテレワーク実施率は、一貫して全国平均を下回っている。
一方、ひろぎんホールディングス「コロナ禍を通じた働く人の意識と行動変容に関する調査」によれば、産業別にみたテレワーク実施率は、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業(42%)」や「学術研究、専門・技術サービス業(33%)」では高い水準となっている(図表-12)。また、テレワーク経験者に「テレワークの今後の意向」を尋ねたところ、「行いたい」との回答が約6割を占めた(図表-13)。

こうした就業者の意向を受けて、企業も多様な働き方を許容しつつある。広島県「令和5年度広島県職場環境実態調査」によれば、広島県内の事業所に「働き方改革に取り組んでいる内容」を尋ねたところ、「時間や場所についての多様な働き方(テレワーク、時差出勤、副業・兼業、短時間勤務など)」との回答が31%を占めた。
広島においても、コロナ禍を経て、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた働き方が普及しつつあるようだ。今後、フレキシブルな働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

図表-11 広島県 テレワーク実施率

(出所)パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-12 アフターコロナ期
(2023年5月以降)
のテレワーク実施率(産業別)

(出所)ひろぎんホールディングス「コロナ禍を通じた働く人の意識と行動変容に関する調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-13  テレワークの今後の意向

(出所)ひろぎんホールディングス「コロナ禍を通じた働く人の意識と行動変容に関する調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

国有地を活用したレジャー・集客施設の開発。経済波及効果は1,000億円を超える

広島市中心部では、国有地を活用したサッカースタジアム等のレジャー・集客施設の開発が進んでいる。具体的には、国が広島市に昭和29年12月より無償貸付している「中央公園」(約42ha)の敷地内において、「HIROSHIMA GATE PARK」(イベント会場等)や「ひろしまスタジアムパーク」(サッカースタジアム等)が整備されている(図表-14)。
「HIROSHIMA GATE PARK」は、旧広島市民球場跡地(約4.7ha)の敷地に、屋根付きイベント広場等の公園施設と、飲食・物販施設(SHIMINT HIROSHIMA)を整備し、2023年3月に開業した。開業1年間で、目標の100万人を大幅に上回る約630万人が来場した[13]
「ひろしまスタジアムパーク」は、サッカースタジアム「エディオンピークウイング広島」(2024年2月開業)や商業施設「HiroPa(ヒロパ)」等を整備し、2024年8月に開業した。
サンフレッチェ広島は、ホームスタジアムを広島市安佐南区の「ホットスタッフフィールド広島」(旧エディオンスタジアム広島)から広島中心部の「エディオンピークウイング広島」に移転した効果等で、1試合あたりの平均来場客数が約1.6万人から約2.5万人へと大幅に増加した[14]

財務局の推計によれば、前述の「HIROSHIMA GATE PARK」と「ひろしまスタジアムパーク」、「広島城三の丸」の整備(2026年度開業予定)による経済波及効果は、合計で約1,160億円に達するとのことである(図表-15)。
広島市中心部の賑わいが高まることで、経済活動やオフィス需要にプラスの効果をもたらし、商業施設を含む複合ビル開発等が促される可能性があり、今後の動向を注視したい。

図表-14 中央公園における
レジャー・集客施設開発

(注)赤枠が中央公園
(出所)財務局「国有地を有効活用した「にぎわいづくり」の経済波及効果について」から転載

図表-15 中央公園における
レジャー・集客施設開発の経済波及効果

施設名経済波及効果
HIROSHIMA
GATE PARK
229.8億円
ひろしま
スタジアムパーク
831.7億円
広島城三の丸100.3億円
合計1,161.8億円
(出所)財務局「国有地を有効活用した「にぎわいづくり」の経済波及効果について」をもとにニッセイ基礎研究所作成

広島オフィス市場の供給見通し

広島市では、数年おきに大規模ビルが新規供給されている。2022年は「広島JPビルディング」等が竣工し、新規供給面積は約7,300坪となった。
2024年は大規模ビルの竣工はなく、翌2025年は、「明治安田生命広島ビル」や「大同生命広島ビル」等が竣工し、新規供給面積は約4,300坪となる見込みである。(図表-16)。

図表-16 広島市のオフィスビル
新規供給見通し

(出所)三幸エステート「オフィスレントデータ」をもとにニッセイ基礎研究所作成

賃料見通し

前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測[15]、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの広島のオフィス賃料を予測した(図表-17)。

広島県の就業者数は3年ぶりに増加したものの、生産年齢人口の減少は今後も続く見通しである。また、人手不足感が強い一方、コロナ禍からの企業活動の回復は鈍い傾向にあることから、広島市の「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。
また、広島においても、コロナ禍を経て、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた働き方が普及しつつある。今後、フレキシブルな働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。
新規供給について、「紙屋町・八丁堀地区」や「広島駅周辺地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。以上のことを勘案すると、広島の空室率は上昇に向かうと予想される。
こうした需給バランスの緩和に伴い、広島のオフィス成約賃料は弱含みで推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年は「101」、2025年は「99」、2028年は「96」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲4%下落するものの、2022年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。

図表-17 広島のオフィス賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(出所)ニッセイ基礎研究所

[10] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[11] 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
[12] 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。[13] 中国新聞 「旧広島市民球場跡地「ゲートパーク」、1年で630万人来場 目標の6倍超」(2024年4月18日)
[14] 中国新聞 「広島の新サカスタ、チケット売り上げ好調」(2024年6月27日)
[15] 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2023~2033年度)」(2023年10月12日)、などをもとに設定。

広島の賃貸マンション市場

広島市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、広島市の転入超過数(日本人)は、2019年以降、マイナス(転出超過)で推移しており、2023年は▲2,885人となった(図表-18)。
転入超過数を区別にみると、「中区」のみ一貫してプラスを維持している。2023年は「南区(+177人)」と「中区(+67人)」のみ転入超過となった(図表-19)。

図表-18 主要都市の転入超過数
(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-19 広島市 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」をもとにニッセイ基礎研究所作成

広島市の建築コストの動向

次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、広島の「集合住宅(RC造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2015年の建築指数を100とした場合、2024年7月は前年比+7%上昇の「129.9」となった(図表-20)。
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(中国)は、コロナ禍後、概ね「人手不足」で推移している(図表-21)。

図表-20 主要都市の「集合住宅(RC造)」
建築コスト(2015年=100)

(出所)建設物価調査会「建築費指数」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-21 建設技能労働者過不足率(中国)

(出所)国土交通省「建設労働需給調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
※8職種計

広島市の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、2023年の広島市の住宅着工戸数は前年比+7%の3.8千戸となり、2012年以降で最も高水準であった(図表-22)。
規模別に住宅着工戸数をみると、広島市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が一貫して最も多く供給されている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比+9%、コンパクトタイプが同+3%、ファミリータイプ(61㎡~)が+30%となり、すべての規模で増加した(図表-23)。
また、区別では、「中区」の供給量が長期的に高水準となっている(2012年~2023年の平均:約8百戸)。2023年は、「西区」の供給量が最も多く、次いで「安佐南区」、「中区」の順に多かった(図表-24)。

図表-22 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-23 広島市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-24 広島市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2012年~2023年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

広島の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

広島市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、高水準で安定的に推移しており、2023年は96.6%となった(図表-25)。
広島県の平均賃料は、コロナ禍以降、概ね横這いで推移している。全国賃貸管理ビジネス協会によると、「1部屋」の賃料は4万円代後半、「2部屋」は6万円近辺、「3部屋」は6万円代後半で推移している。(図表-26)。

図表-25 J-REIT物件の平均稼働率
(広島市・住宅)

(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所作成 
※各年下期の値

図表-26 広島県の間取り別平均賃料

(出所)全国賃貸管理ビジネス協会公表データをもとにニッセイ基礎研究所作成
※12ヶ月移動平均

広島市では、2019年以降、人口の転出超過が続いている。一方、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は増加傾向で推移してきたが、建築コストの高騰が下押し要因となり、今後、大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。需給環境が大幅に悪化する懸念は小さく、住宅賃料は引き続き横ばい圏で推移することが予想される。

広島の不動産投資市場

広島の地価動向

広島の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2024年第1四半期)」によると、紙屋町(商業地)、白島(住宅地)は、ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-27)。同レポートでは、「商業地では、主要通り沿いのオフィスビルでは高い稼働率が維持されており、収益物件に対する取得需要は強く、地価はやや上昇で推移すると予想される。住宅地では、不動産事業者等の取得需要は強いなか、旧市内を中心にマンション開発素地等の不足が続いており、地価はやや上昇で推移すると予想される。」としている。

図表-27 広島の地価動向
(地価LOOKレポートより)

紙屋町(商業

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 相生通り及び鯉城通り等の主要通り沿いのオフィスビルではテナントの入居が進み、高い稼働率が維持されている。新規オフィスビルの供給も向こう1年程度予定がなく、既存ビルでは移転拡張や館内増床等の動きが続いているため、空室率は低下傾向にある。オフィス賃料は、空室率の低下傾向を受け僅かながらも上昇傾向で推移しており、増額改定等の動きも散見されるようになってきた。なお、本通り周辺の店舗賃料は、出店希望が緩やかではあるが増加傾向にあり、全体で見ると当期も概ね横ばいで推移している。当期は店舗ビルや開発目的の素地等の取引を数件確認できた。収益物件に対する取得需要が強い状況に変化がないことから、いずれも従来の取引価格水準を上回る取引であった。以上から、当地区の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区が位置する紙屋町・八丁堀地区は特定都市再生緊急整備地域に指定されており、中区基町の相生通り沿いの再開発事業は順調に進捗し、本通り及び八丁堀でも再開発計画が公表されている。このように、新たな賑わい創出を目的とした事業の進展による波及効果等が期待されるなかで、当期の市況が当面続き、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR広島駅の南西方約1.7km、広島電鉄紙屋町西駅及びアストラムライン県庁前駅周辺。中高層事務所、店舗ビルが建ち並ぶ高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2024年1Q」

白島(住宅

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 広島市の旧市内(中区、南区、東区、西区)を中心に新築賃貸マンションの供給が進んで新築賃貸マンションでみられた賃料上昇も一服感が続いており、全体としては当期もマンション賃料は概ね横ばいである。県内外の不動産業者に不動産業以外の中小事業者も加わって市場参加者が構成されているため、収益物件に対する取得需要は強い状態が続いており、良質な投資用賃貸マンションの供給が限られるため、取引利回りの低下傾向は当期も続いている。また、中心部及び郊外の戸建住宅並びに分譲マンションの分譲価格等の上昇傾向が続いているが、エンドユーザー側の選別が厳しくなってきおり、物件間の販売状況に優劣が見られ始めている。当期は当地区で、開発素地等の取引を数件確認できており、旧市内を中心にマンション開発素地等の不足が続いているため、いずれも従来の取引価格水準を上回る取引であった。以上から、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区はブランド力のある住宅地であることに加え、新白島駅による交通利便性が評価されているため、富裕層向けの戸建住宅や分譲マンションのほかに賃貸住宅等の幅広い住宅需要が見込める。実需ベースで取得意欲のある県内外の需要者が多数控えており、不動産事業者等の需要は強い状態が続いている。旧市内を中心に強気の価格を提示しなければマンション開発素地等の取得が難しい状況が当期も続いていることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR新白島駅の南方約350m、広島電鉄白島駅及びアストラムライン城北駅周辺。中高層のマンションが建築され、高度利用化が進む住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2024年1Q」

J-REITによる物件取得額(中国地方)

J-REITによる2024年上期(1-6月)の物件取得額(中国地方)は、前年同期比▲17%減少の58億円となった(図表-28)。アセットタイプ別では、商業施設底地(45%)・ホテル(44%)・物流施設(11%)となり、底地やホテルの大型施設の取得がみられた。

図表-28 J-REITによる物件取得額
(中国地方)

(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定
(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成

広島のキャップレートの動向

広島市においても、大規模金融緩和等を背景に不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、広島市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は前年比▲0.1ppt低下の4.3%となった(図表-29)。
同様に、住宅のキャップレートは4.2%(前年比▲0.1ppt)、ホテルは4.8%(同±0.0ppt)となった。
日本銀行は、2024年7月の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げ(0~0.1%⇒0.25%)と、国債買入れ減額を決定した。こうしたなか、10年国債利回りは5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台に乗せるなど上昇基調で推移している。これまでキャップレートは大きく低下してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。 

図表-29 広島のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとにニッセイ基礎研究所作成
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
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三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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