福岡不動産市場レポート(2023年9月時点)

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目次

要旨

  • 福岡市では、天神エリアや博多駅エリアを中心に大規模開発計画が複数進行中である。今後3 年間のオフィスビルの新規供給(総ストック量に対する割合)は、主要地方都市の中で最も高い水準となる。
  • オフィスビルの成約賃料は、大量供給に伴う需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移する見通しである。2022年の賃料を「100」とした場合、2023年の賃料は「98」、2027年は「86」に下落すると予想する。ただし、2017 年の賃料水準(76)を上回り、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
  • 福岡市では、人口の転入超過が継続する一方、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は一定水準で安定して推移している。良好な需給環境のもと、マンション賃料は引き続き上昇基調で推移することが予想される。
  • J-REITによる2023年上期(1-6月)の物件取得額(九州・沖縄)は511億円と大幅に増加し、2022年の年間取得額(336億円)を既に上回った。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、福岡においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、福岡市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は3.6%となり前年比▲0.2%低下した。同様に、住宅のキャップレートは4.1%(前年比▲0.1%)、商業は3.8%(同▲0.1%)、ホテルは4.4%(同±0.0%)、物流施設は4.3%(同▲0.3%)となり、ホテルを除く全てのアセットで利回りが低下した。
  • 今年7月に長短金利操作(YCC)の運用柔軟化を決定し、10年国債利回りは足もとで0.7%台に上昇している。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後はベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

福岡市中心部の再開発計画

日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2022年1月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が36%と、札幌市と並んで高い水準にある(図表-1)。そこで、これら築40年以上が経過したオフィスビルの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」、博多駅前では「博多コネクティッド」による再開発プロジェクトが進行中である。

図表-1 新耐震基準以前(1981年以前)に
竣工した
オフィスビルが占める割合
(面積ベース)

(出所)日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2022年1 月時点)」を
もとにニッセイ基礎研究所作成

「天神ビックバン」による
オフィス開発計画

天神地区[1]では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした。同プロジェクトでは、延床面積は44.4万㎡から75.7万㎡へ1.7倍に拡大、雇用数は4万人から9.7万人へ2.4倍に拡大、年間8,500億円の経済波及効果が発生すると試算されている。

天神地区では、「天神ビックバン」の第1弾となる「天神ビジネスセンター」が2021年9月に竣工したのを皮切りに、複数の再開発が進行中である。2022年12月に「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積約9.1万㎡)の複合ビル「福岡⼤名ガーデンシティ」が竣工した(図表-2 ①)。この開発プロジェクトでは、ワンフロアの貸床面積が2,500㎡以上のオフィスが配置され、2023年4月にテナントの入居が開始したほか[2]、九州初となる5つ星高級ホテルの「ザ・リッツ・カールトン福岡」が2023年6月に開業した[3]。なお、同ホテルは、開業直後にカナダの不動産投資会社ベントール・グリーンオーク・グループが購入している。

2024年以降も、再開発計画が複数予定されている。ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビル(延床面積約2.1万㎡・地上19階建て)に建て替えを行い、2024年12月に竣工予定である[4](図表-2 ②)。また、西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に複合ビル(延床面積約14.7万㎡・地上19階建て)を開発し、2024年に竣工予定である[5](図表-2 ③)。

2025年は、日本生命保険と積水ハウスが「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」を、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神1丁目北14番街区ビル」(延床面積約3.9万㎡・地上18階建て)に建て替えを行い、2025年3月に完成予定である[6](図表-2 ④)。また、住友生命保険と福岡地所は、天神2丁目で「住友生命福岡ビル」と「天神西通りビジネスセンター」を、オフィスを核とした大型複合ビル(延床面積約4.2万㎡・地上24階建て)に建て替えを行い、2025年5月に完成予定である[7](図表-2 ⑤)。

その後も、三菱地所が複合商業施設「イムズ跡地」で、オフィスとホテルを核にした複合ビル「(仮称)天神 1-7 計画」(延床面積約7.4万㎡・地上20階建て)を開発し、2026年3月に竣工予定である[8](図表-2 ⑥)。また、天神一丁目761プロジェクト合同会社[9]と福岡地所は、天神ビジネスセンターに隣接する「福岡市役所北別館跡地」および「メディアモール天神(MMT)跡地」で、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画」(延床面積約6.2万㎡・地上18階建て)を開発し、2026年6月を竣工予定である[10](図表-2 ⑦)。

図表-2 「天神地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[1] 天神交差点から半径約500mのエリア
[2] 大名プロジェクト特定目的会社・代表企業:積水ハウス株式会社「福岡の新たなランドマーク『福岡大名ガーデンシティ』 4月よりオフィス入居を開始」(2023年4月7日)
[3] 共同通信「リッツ福岡、投資会社に売却 積水ハウス、開業直後」(2023年6月30日)
[4] ヒューリック株式会社「(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画」の概要について」(2021年10月3日)
[5] 西日本鉄道株式会社「創造交差点 MEETS DIFFERENT IDEAS | 福ビル街区建替プロジェクト
[6] 日本生命保険相互会社・積水ハウス株式会社「日本生命福岡ビル・福岡三栄ビルの建替について」(2021年12月13日)
[7] 住友生命保険相互会社・福岡地所株式会社「「(仮称)住友生命福岡ビル・西通りビジネスセンター建替計画」の概要について」(2022年6月30日)
[8] 三菱地所株式会社「(仮称)天神 1-7 計画」始動」(2022年8月30日)
[9] 福岡地所、九州電力、九電工で構成される特定目的会社
[10] 天神一丁目761プロジェクト合同会社・福岡地所株式会社「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画の概要について」(2023年6月7日)

「博多コネクティッド」に
よるオフィス開発計画

福岡市は、2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネクティッドボーナス[11]」を公表し、博多駅周辺の再開発を後押ししている。本プロジェクトでは、延床面積は34.1万㎡から49.8万㎡へ1.5倍に拡大、雇用数は3.2万人から5.1万人へ1.6倍に拡大、年間約5,000億円の経済活動波及効果が発生すると試算されている。

博多駅周辺では、「博多コネクティッド」の第1弾となる「博多イーストテラス」が2022年6月に竣工したのを皮切りに、複数の再開発が進行中である。「博多イーストテラス」は、博多駅東一丁目「博多スターレーン跡地」においてNTT都市開発と大成建設が開発した複合施設(延床面積約2.9万㎡・地上10階建て)である(図表-3 ①)。

2024年以降も、再開発計画が複数予定されている。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、12階建てのオフィスビル(延床面積約2.2万㎡)を建設し、2024年3月に開業予定である[12](図表-3 ②)。また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)を連鎖的に建て替える[13]。その第一弾として、本店本館ビルを、オフィスを核とした複合ビル(延床面積約7.5万㎡・地上14階建て)に建て替えを行い、2026年1月に竣工予定である[14](図表-3 ③)。

図表-3 「博多駅周辺」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[11] つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
[12] 九州旅客鉄道株式会社・福岡地所株式会社・ 株式会社麻生 「~人流・ビジネス・エリア再開発の起点となる次世代オフィス~福岡東総合庁舎敷地に新たなランドマークが誕生します!」(2021年11月26日)
[13] 西日本シティ銀行「西日本シティ銀行保有ビルの連鎖的再開発のお知らせ」(2019年12月19日)
[14] 株式会社西日本シティ銀行・福岡地所株式会社「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日)

福岡の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

三幸エステートによると、福岡市の空室率(2023年9月時点)は、大規模オフィスビルが空室を残して竣工した影響により4.9%(前年比+0.9%)に上昇した(図表-4)。
福岡市の空室率を規模[15]別にみると、「大規模4.4%(前年比+1.6%)」、「大型3.7%(同+0.7%)」、「中型7.2%(同+0.7%)」が上昇する一方、「小型6.8%(同▲1.6%)」は低下した(図表-5)。
テレワークの普及等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要する事例が増えている。

図表-4 主要都市のオフィス空室率

(出所)三幸エステート

図表-5 福岡のオフィス空室率(規模別)

(出所)三幸エステート

全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の福岡市の成約賃料は、前期比▲3.3%、前年同期比▲2.1%となった(図表-6)。

図表-6 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」を基にニッセイ基礎研究所作成

2022年の空室率と成約賃料の動向(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、上昇と低下で分かれる結果となった。また、成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいで、福岡市は空室率と賃料がともに前年比ほぼ変わらずであった(図表-7)。
賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル[16]は、2012 年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年下期以降「空室率上昇・賃料上昇」の局面を経て、現在は「空室率上昇・賃料下落」の局面に向かいつつある(図表-8)。

図表-7
主要都市のオフィス市況(2022年、前年比)

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-8
福岡オフィス市場の賃料サイクル

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

福岡オフィス市場の
需要見通し

オフィスワーカー数の見通し

2022 年の福岡県の就業者数は261.3万人(前年比±0.0 万人)となり、2020年以降横ばいで推移している(図表-9)。
九州地方の産業別就業者数の増減推移をみると(2013年第1四半期=100)、オフィスワーカーの割合が高い「情報通信業(122)」と「学術研究,専門・技術サービス業(133)」が大幅に増加した一方、
「金融業,保険業(86)」の伸び率は全体平均(105)を下回っている(図表-10)。

図表-9 福岡県の就業者数

(出所)総務省「労働力調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-10 産業別就業者数(九州地方)

(出所)総務省「労働力調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI[17]」(福岡財務支局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら、2023 年第3四半期に「+5.0」まで回復している(図表-11)。
また、「従業員数判断BSI[18]」(福岡財務支局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+27.7」とコロナ禍前の水準上回り人手不足感が強まっている(図表-12)。
福岡県の就業者数が横ばいで推移するなか、産業別(九州地方)にみると、オフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」で大幅に増加している。また、「企業の経営環境」および「雇用環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り、順調な回復を示している。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。

図表-11 企業の景況判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-12 従業員数判断BSI(全産業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

在宅勤務の普及に伴う
ワークプレイスの見直し

福岡商工会議所「新型コロナウィルス感染症が企業に及ぼす影響に関する調査」(2021年6月実施)によれば、「今回の緊急事態宣言下におけるテレワーク・在宅勤務の実施状況」について、「実施した」との回答は35%、大企業に限ると46%となっている。
一方、日本政策投資銀行「2022年度企業行動に関する意識調査(九州版)」によれば、「with/afterコロナにおける理想的な出社割合」について、「10割(フル出社)」との回答は、九州に所在する「製造業」で56%、「非製造業」で54%を占め、全国平均(製造業42%、非製造業44%)をともに上回った(図表-13)。
また、ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査」によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は2021年の7%から2022年の10%へ増加したものの、東京(26%)との比較では半分以下の水準に留まっている(図表-14)。
福岡市では、コロナ禍においてテレワークが一定程度普及したが、コロナ収束後は、フル出社(完全オフィス勤務)に戻したい意向を持つ企業も多いようだ。今後、福岡市でも「在宅勤務」を採り入れた柔軟な働き方が定着し、ワークプレイスの見直しが進展するのかどうか、注視が必要である。

図表-13 with/afterコロナに
おける理想的な出社割合

<製造業>

(出所)日本政策投資銀行「2022年度企業行動に関する意識調査(九州版)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

<非製造業>

(出所)日本政策投資銀行「2022年度企業行動に関する意識調査(九州版)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-14 ワークプレイス戦略の
見直しの着手状況

(出所)ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査 2021 秋」をもとにニッセイ基礎研究所作成

半導体投資拡大がもたらす
オフィス需要への影響

九州地方は、人口や面積、域内総生産額など、経済の基礎となる主要指標が全国シェアで10 %程度であることから「1割経済」と言われている[19]。こうしたなか、半導体関連製造業では、九州地方は高いプレゼンスを誇り、「シリコンアイランド」と呼ばれる。特に、集積回路の生産額(2022年)は約9,300億円と全国シェアの45%を占める。
AI 技術の進展等に伴い半導体市場の拡大が期待されるなか、九州地方において設備投資や企業進出が増加している。日本銀行福岡支店「九州における半導体関連産業の動向」によれば、半導体関連の設備投資額は、2022年から2024 年の3年間で約1.5兆円に達する見込みである。半導体関連企業の集積に加えて、豊富な水資源や安価で安定的な電力供給などが投資拡大の要因とのことである。
こうしたなか、九州地方の中核都市である福岡において、オフィスを開設する動きがみられる。世界最大の半導体受託製造会社であるTSMC(台湾積体電路製造)とデンソーと合弁で熊本県に半導体工場を建設中のソニーセミコンダクタソリューションズは、「博多イーストテラス(2022年竣工)」に福岡オフィスを開設した[20]。今後、半導体関連の設備投資や企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。

福岡オフィス市場の
供給見通し

2022年の福岡の新規供給面積は約1.5万坪となり、過去最高となった2021年(約3.1万坪)の約5割の水準に留まった(図表-15)。
しかし、2023年以降、「天神ビックバン」や「博多コネクティッド」による大規模開発が進行中で、年間2万坪を超える新規供給が見込まれる。総ストック量に対する今後3 年間(2023 年~2025 年)の供給割合は7.8%と、主要地方都市の中で最も高くなる見通しである(図表-16)。

図表-15 福岡オフィスビル新規供給見通し

(出所)三幸エステート

図表-16 今後3年間の新規供給予定
(2022 年ストック対比)

(出所)三幸エステートのデータをもとにニッセイ基礎研究所作成

福岡のオフィス賃料見通し

前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2027年までの福岡のオフィス賃料を予測した(図表-17)。
福岡県の就業者数が横ばいで推移するなか、産業別にみるとオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」で大幅に増加している。また、「企業の経営環境」および「雇用環境」は、コロナ禍が与えたダメージから順調に回復している。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。
一方、福岡市では、「天神ビックバン」や「博多コネクティッド」を背景に、複数の大規模開発が進行中である。今後3 年間(2023 年~2025年)の総ストック量に対する供給割合は主要地方都市の中で最も高くなる。以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇傾向で推移すると予測する。
福岡のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2022年の賃料を100 とした場合、2023 年は「98」、2027年は「86」への下落を予測する。ただし、ピーク(2021 年)対比で▲16%下落するものの、2017年の賃料水準「76」を上回る水準であり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。

図表-17 福岡のオフィス成約賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などをもとにニッセイ基礎研究所作成

[15] 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
[16] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[17] 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
[18] 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
[19] 経済産業省九州経済産業局「九州経済の現状(2022年度)」
[20] ソニーセミコンダクタソリューションズグループHP

福岡の賃貸マンション市場

福岡市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、福岡市の転入超過数(日本人)は、安定してプラスで推移しており、2022年は+9,712人となり、前年から+13%増加した(図表-18)。
転入超過数を区別にみると、「東区」、「博多区」、「中央区」は、一貫して高水準のプラスを維持している。また、2022年は全ての区で転入超過となり、特に、「早良区」は、2010年以降の最高値に迫る水準となった(図表-19)。

図表-18 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-19 福岡市 区別転入超過数
(2010年~2022年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

福岡市の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、福岡市の住宅着工戸数は、2019年以降、概ね8千戸の水準で推移している。2022年は前年比+11%の8.6千戸となり、2011年以降の平均(約8.5千戸)と同水準であった(図表-20)。
規模別に住宅着工戸数をみると、福岡市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が一貫して最も多く供給されている。2022年は、コンパクトタイプが前年比▲11%減少した一方、シングルタイプ(~30㎡)が同+109%、ファミリータイプ(61㎡~)が同+27%と大幅に増加した(図表-21)。
また、区別では、「博多区」が長期的に高水準の供給量となっている(2011年~2022年の平均:約2.6千戸)。2022年は、「東区」が2010年以降で最高値となり、「博多区」に次いで供給量が多くなる一方、「中央区」は2010年以降で最低値となった(図表-22)。

図表-20 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-21 福岡市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-22 福岡市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2011年~2022年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

福岡市の賃貸マンション
稼働率・賃料の動向

福岡市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2012年以降96%前後を安定的に推移している。2022年は97.6%に上昇し、過去最高水準となった(図表-23)。
福岡市のマンション賃料は、良好な需給環境に支えられ、上昇基調で推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第2四半期は前年比でシングルタイプが+1.1%、コンパクトタイプが+0.4%、ファミリータイプが+10.4%となり、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。(図表-24)。

図表-23 J-REIT物件の平均稼働率
(福岡市・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値

図表-24 福岡市のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

福岡市では、人口の転入超過が継続する一方、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は一定水準で安定して推移している。良好な需給環境のもと、マンション賃料は引き続き上昇基調で推移することが予想される。

福岡の不動産投資市場

福岡の地価動向

福岡の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第2四半期)」によると、博多駅周辺(商業地)は前年比「0~3%」の上昇、大濠(住宅地)は前年比「6%超」上昇、となった(図表-25)。同レポートでは、「商業地では、オフィスビルの新規供給が続くため空室率の上昇が予想されるものの、金融機関の融資姿勢は前向きで、取引利回りは低下傾向にある。住宅地では、マンション分譲価格の上昇が続くなか販売実績も堅調で、開発素地も高値で取引されている」としている。

図表-25 福岡の地価動向
(地価LOOKレポートより)

博多駅周辺(商業)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区ではオフィスビルの新規供給が増加しており、博多コネクティッドによる規制緩和等によって今後も更なるオフィス等の開発が予想される。当期においても、オフィスビルが新規に供給されるなか、リーシングに苦戦する物件もあったが、空室率は概ね横ばい傾向にある。今後もオフィスビルの新規供給が続くため、空室率は上昇するとの予想も市場で聞かれる。しかし、当地区の投資適格物件については売主の売希望価格に当期も下落傾向は見られず、金融機関の融資姿勢も依然として前向きであることから、取得に当たっては物件の選別等を行い、慎重な姿勢を保ちながらも、適正な価格であれば取得意向を示す意欲あるプレイヤーが多い。当期において、オフィスビルの取得や土地の取引が散見され、博多駅周辺地区以外の福岡ビジネス地区においても同様の動きがある。また、当地区において土地の高値取引も見られた。オフィスビルの取得の動きは続いており、依然としてオフィスビルに対する需要は旺盛で、あわせてオフィス用地についても旺盛な需要が認められる。これらを背景にオフィスビルの取引利回りは低下傾向となっており、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

博多コネクティッドや天神ビックバンをはじめとする建替促進等によって、今後もオフィスの供給が続くと予想されるため、空室率の上昇や賃料水準の低下等のオフィス賃貸市況における先行きに不透明感が残るほか、金利の動向には注視を要する。しかし、当面は金融機関の融資姿勢等に大きな変化が予想されないため、急激な市況悪化は見込まれない。また、オフィス賃料は横ばい傾向であるものの上限に近く、取引利回りは下限に迫りつつあるとの見方が市場で認められるものの、投資適格物件については需給が逼迫する状況が当面続くと見込まれることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR博多駅周辺。博多駅博多口(西側)を中心として高層事務所ビルが建ち並ぶ商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省 「地価 LOOKレポート2023年2Q」

大濠(住宅)

総合評価 6%〜上昇(前期6%〜上昇)
鑑定評価員コメント 福岡市内のマンション分譲価格は依然として上昇傾向が続いており、分譲されたマンションの販売率も高水準を維持している。マンション分譲価格に土地価格や建設資材価格等の高騰による建築費の上昇分を転嫁してもマンション販売実績は依然として堅調な状態を維持している。また、良好な資金調達環境も続いているため、当期も福岡市内で優良マンションの開発が可能なエリアではマンション開発素地の需給逼迫が続いており、中央区で行われたマンション開発素地の取引もこれまでの水準を上回る高値取引となっている。以上から、福岡市内でも有数の優良マンション供給エリアに位置付けられる当地区では、取引価格の上昇傾向は顕著で、当期の地価動向は上昇で推移した。

今後は、金利上昇のほか、マンション分譲価格の動向による販売状況の変化を注視する必要があるものの、マンション開発素地に対する旺盛な需要は当面続くと見込まれ、資金調達等の事業を取り巻く環境に大きな変化は予想されないため、当期の市況が当面継続し、将来の地価動向は上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 福岡市営地下鉄空港線の唐人町駅(天神駅まで約6分)からの徒歩圏。大規模一般住宅の中にマンションが混在する地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省 「地価 LOOKレポート2023年2Q」

J-REITによる物件取得額
(九州・沖縄)

J-REITによる2023年上期(1-6月)の物件取得額(九州・沖縄)は511億円と大幅に増加し、2022年の年間取得額(336億円)を既に上回った(図表-26)。アセットタイプ別では、物流施設(62%)・商業施設(17%)・オフィスビル(15%)・住宅(6%)となり、物流施設を中心に大型物件の取得がみられた。

図表-26 J-REITによる物件取得額
(九州・沖縄)

 (出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成
(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定

福岡のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、福岡においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、福岡市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は3.6%となり前年比▲0.2%低下した(図表-27)。同様に、住宅のキャップレートは4.1%(前年比▲0.1%)、商業は3.8%(同▲0.1%)、ホテルは4.4%(同±0.0%)、物流施設は4.3%(同▲0.3%)となり、ホテルを除く全てのアセットで利回りが低下した。
2007年~2008年の「不動産ファンドバブル」時の水準と比較した場合、住宅の低下幅(▲1.6%:5.7%⇒4.1%)が最も大きい。福岡ではコロナ禍における住宅需要の高まりなどを背景に、住宅への高い投資意欲を確認することができる。

ところで、ニッセイ基礎研究所の「不動産市況アンケート」(2023年1月実施)において、「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア」について質問したところ、「東京都心5 区」(53%)に次いで「福岡市」(16%)の回答が多かった。福岡は、容積緩和等の施策を背景に複数の大規模開発が進行中であり、投資家からの成長期待も大きいエリアである。
一方、上記アンケートにおいて、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内金利」が67%と前年の32%から約2倍に増加した。日本銀行は、今年7月に長短金利操作(YCC)の運用柔軟化を決定し、10年国債利回りは足もとで0.7%台に上昇している。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後はベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

図表-27 福岡のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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