「事業承継とM&A」第1回 後継者不足をデータから読み解く

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目次

現在中小企業の抱える大きな問題として事業承継問題があります。本記事では後継者不足という課題に焦点を当て、中小企業の現状と事業承継問題を解決する一つの策である「M&A」について、二つの記事にわけて解説していきます。
第2回はこちら

中小企業の今

国内企業に占める中小企業の割合と推移

日本の中小企業は約358万者あり、全企業数の99.7%を占めています。また、従業者数では大企業が全体の3割を占めるものの他7割の中小企業が雇用を生み出しており、日本社会・経済を支える重要な存在となっています。
しかし、国内企業全体の数は年々減少傾向にあり、特に小規模企業の減少率が高く、1999年には約422万者あった企業数が直近の2016年では約304万者まで減少しています。
中小企業数が減少している背景として、今回テーマに掲げている事業承継問題が考えられます。
中小企業では、経営者の強力なリーダーシップで組織を成長させた後に、高齢により引退を考える際、自身の経験やノウハウを後継者候補に引き継ぐことができず、事業の存続を断念することも多いと考えられます。

※出典:中小企業白書2022年版より、総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査」再編加工。

事業承継問題の一因である後継者不足の現状

日本社会・経済において重要な存在である中小企業では、近年後継者不足が大きな問題となっていますが、帝国データバンクが実施した調査(全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)(2022年11月16日))では全国・全業種約27万者における後継者動向において、後継者不在率は57.2%と調査開始の2011年以来60%超を推移していた値が初めて60%を切りました。

※出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」(2022年11月16日)

2021年は新型コロナウイルスの影響もあり、自社事業の将来性や経営環境に改めて向き合った企業が多いと思われます。国や自治体の働きかけにより、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関の支援など、様々な支援策が整備され始めたことが、事業承継問題の解消に向けて一定の役割を果たしていると考えられます。

しかし、改善の兆しが見えているとはいえ、依然として後継者不在率は6割近くを占めています。
2022年の後継者難による倒産は1~10月で408件発生しており、通年で過去最多の見込みとなっています。理由として、経営者の病気や、コロナ禍により事業の先行きを見据えて当代でたたむ決断を下した「あきらめ」、また当代社長が後継者の経営手腕・資質を認めないなどが挙げられました。

※出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」(2022年11月16日)

また、日本政策金融公庫総合研究所が実施した調査(中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)(2020年1月28日))では、将来的な廃業を検討していると回答した割合が50%を超え、このうち後継者難を理由とした廃業が約30%を占めました。
これらの調査結果より、中小企業の後継者不足に起因する事業承継問題の解消は途上であり、国や自治体としては引き続き対策をとっていくことが重要になります。

中小企業の後継者不足の背景

一般的な承継手段として親族内承継・親族外承継(社内承継)・M&Aが挙げられます。
後継者不足の背景を考える上で、ここでは親族内・外承継の二つの承継手段がうまく機能しない原因としてどのようなものがあるかを簡単に解説していきます。

親族内承継

改めて説明するまでもありませんが、日本では長年少子化が問題視されており、中小企業の世代交代へも影響を与えています。
後継者不在率は改善の兆しがあるものの、依然として全企業の6割近くの企業が後継者がいないと答えています。

これまで中小企業の後継ぎは、多くがメインプレイヤーである子供への事業承継で成り立っており、経営者に子供がいる場合は、親族内承継が事業承継の中で最もスムーズな選択肢と考えられていました。しかし、少子化により後継ぎとなる子供がいない・少ないこと、また子供に継ぐ意思がないことなどを原因に、親族内承継の件数は減少傾向にあります。
2022年の調査では、経営者の就任経緯は同族承継が全体の34%と最も高かったものの、前年より-4.7ptとなり、減少傾向が続いています。一方、内部昇格やM&Aほかの割合が増加しており、M&Aほかは調査開始以降初めて20%を超えました。
また、後継候補としては非同族が初のトップとなり、対照的に子供の割合が前年より-4.8ptと大きく低下、脱ファミリー化が加速していることも調査から明らかになりました。

※出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」(2022年11月16日)

親族外承継(社内承継)

非同族への事業承継が増える中で、同調査では内部昇格は33.9%と前年より2.5pt増加しており、親族以外の自社社員への承継が増えていることが見受けられます。少子化が進む現代において、子供がいない場合の選択肢として有力な親族外承継ですが、いくつか課題も抱えています。
例として、後継候補の選定に時間がかかる、後継候補自身に継ぐ意思がない、承継できるほどの有望な人材でない、などが挙げられます。また、株の買取りや贈与税などのハードルが高く、実務面でのハードルが高いという実情もあり進める上で確認が必要となります。

経営者本人

また、そもそも経営者自身が継いでもらいたいという意思をもっていない場合もあります。
日本政策金融公庫総合研究所が実施した調査(経営者の引退と廃業に関するアンケート(2019年12月12日))では、全体の約9割は後継者を探すことなく廃業したという結果があります。その中では「誰かに継いでもらいたいと思っていなかった」という回答が57.2%を占め、理由として「高度な技術・技能が求められる事業だから」「経営者個人の感性・個性が欠かせないから」といった回答が上位にあがり、経営者のノウハウが承継されていない現状が見受けられます。

※出典:日本政策金融公庫総合研究所「経営者の引退と廃業に関するアンケート結果」(2019年12月12日)
※「後継者を探すことなく廃業した理由」は「後継者を探すことなく事業をやめた」と回答した人に尋ねたものである。
※「誰かに継いでもらいたいと思っていなかった理由」は「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていなかった」と回答した人に尋ねたものである。

経営者年齢が若い企業ほど試行錯誤を許容する組織風土のある企業の割合が高く、長期的な視野に立って経営を行い、事業を拡大しようとする意向が高くなる可能性も指摘されており、現在経営者の割合が最も高い60代のマインドの変革も必要となってくるのではないでしょうか。

進む経営者の高齢化と休廃業という選択

経営者の高齢化

後継者難により世代交代が進まないことを背景に、経営者の高齢化が進んでいます。
全国の経営者の平均年齢は54.0歳だった1990年から上昇し続け、2020年には初めて60歳を超えました。また、1990年には約4.5%あった経営者交代率は、直近2021年では約3.9%と低下しており、近年は低水準の状況が続いています。

※出典:中小企業白書2022年版より、㈱東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工。
※「2020年」については、2020年9月時点のデータを集計している。

※出典:帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2021)」(2022年3月4日)

長年低下傾向である交代率と右肩上がりに増えている全国の経営者における平均年齢は反比例しており、それだけ経営者の交代が行われていないことを示しています。
団塊の世代が75歳以上となり、医療・介護といった社会福祉に大きな影響を与えるといわれている2025年も間近に迫る中、バトンタッチできる後継者がいないことで廃業が増え続けると、地域における産業の衰退がさらに加速することとなってしまいます。

後継者不足による休廃業という選択

後継者不足により、休業、廃業する企業も少なくありません。
倒産や休廃業という言葉は明確な法律用語ではありませんが、一般的に自ら事業をたたむことを決定した場合を廃業、債務支払不能となり経済的に事業継続が困難となった場合を倒産といいます。休業は一時的に事業を休止することを指し、そのまま廃業となるケースも少なくありません。

ここで休廃業・解散件数と経営者平均年齢の推移をみてみます。
東京商工リサーチが実施した調査(2022年「休廃業・解散企業」動向調査(2023年1月16日))によると直近2022年の休廃業・解散件数は4万9,625件と2年ぶりに増加し、最多であった2020年の4万9,698件とほぼ並ぶ過去2番目の水準となり、2013年より10年の間で右肩上がりに増えています。先に述べたように経営者の平均年齢も年々上昇しており、後継者が不在で世代交代が進まないことによる経営者の高齢化が休廃業・解散件数の増加の一因になっていると考えられます。

※出典:東京商工リサーチ2022年「休廃業・解散企業」動向調査(2023年1月16日)

また、ここで注目しなければならないのが、休廃業・解散企業の内54.9%が黒字(当期損益)であることです。2001年には73.0%だった値はゆるやかな下降が続き、2022年は、調査以来初めて6割を切った2021年の56.6%を下回る結果となりました。減少傾向であるものの依然として全体の過半数を占める背景には、後継者不足が企業の事業継続に影響を与え、やむを得ず黒字であっても廃業を選択するケースが存在することが推測されます。
また、2021年から2022年にかけては、コロナ禍による経営環境の変化や原材料の高騰、コロナ関連の支援策が順次縮小していることなども影響していると思われ、今後も引き続き注視する必要があると考えられます。

事業承継に取り組まないことにより生じる影響

日本社会への影響

事業承継に取り組まないことにより生じる影響として、日本社会への影響があります。冒頭に述べたように日本における中小企業は全企業数の約99%を占めており、従業員各々のもつ熟練の技能やノウハウが詰まっています。今後、多くの中小企業が倒産や休廃業を重ねていくと、これらの技術やノウハウが引き継がれず、世界全体における日本の競争力低下につながり日本社会に衰退の一途をもたらす可能性があります。

従業員・取引先への影響

多くの中小企業が倒産・休廃業した場合、その企業に勤める従業員の雇用が失われてしまう可能性があります。また、企業と取引をしていた取引先は、新たな取引先を探さないといけません。中小企業は独自の技術をもった職人がいる場合も多く、取引先の替えがきかない場合も考えられます。従業員の雇用を守るということは、先に述べたノウハウや技術を守ることにもつながるため、事業承継に取り組まないことは様々な方面に影響を与えるのです。

次回「第2回」では、事業承継の後継者問題の解決策の一つである「M&A」について、詳しく解説していきます。

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