食品業界の利益減少に、不動産売却でキャッシュフローの改善を!

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2023年5月、新型コロナウイルス感染症が感染症法上の「5類」に引き下げられました。
訪日外国人観光客も増加し、 製造業における景気判断も徐々に改善しつつあります。
既存製品の増産や新製品生産を目的とした設備投資、不動産の購入などに動く企業がある一方で、原材料やエネルギー価格が高騰し、収益が圧迫されている企業もあります。
本記事では、製造コストの高騰で足元の資金調達に苦心している食品会社の「不動産売却によるキャッシュフロー改善策」について解説します。

食品業界の動向

食品業界では、原材料を輸入している会社が少なくありません。輸入原材料は、小麦や大麦、コーン等の穀物だけでなく、パーム油やオリーブ油、ココナッツオイル等の油脂類、スパイスやソース等の調味料、チーズやバター等の乳製品、コーヒー豆や紅茶、甘味料、冷凍魚介類など、多岐に渡ります。 特に製パンや製菓、製麺、製粉、水産加工等を行っている会社では、原材料を輸入品が占めている割合が高く、輸入原材料費の高騰は経営に大きな影響を与えます。農作物が生産できる地域は地球上で偏在しており、例えばロシアのウクライナ侵攻のようなことが生じると、農作物の供給量は不安定になります。直近では円安も加わり、輸入原材料価格の高騰に拍車がかかって利益を生み出しにくい経営環境になりつつあります。さらに、世界人口の増加や新興国の所得増などの背景も考えると、低価格による調達は益々難しく、長期的な観点から考えても原材料費は今後も高騰していくことが予想されます。

利益減少への対応策

こうした状況は、食品を扱う企業の経営に大きく影響を及ぼします。原材料価格の高騰は、企業が製造原価として支払う金額を押し上げていき、利益が減少していきます。もともと内部留保しているキャッシュが手薄だと、この利益減少による影響は深刻です。キャッシュストックへの圧迫がつづくと、いずれは運転資金の調達が必要になります。一般的に、原材料価格の高騰に対し、現時点で設定している販売価格で吸収できない場合は、「販売価格を上げる」または「経費を削減する」といった対策が考えられます。実際に、帝国データバンクの調査によると、昨年以降、調査対象の食品主要195社のうち、9割超の企業で1回以上の値上げが行われたという結果があります。

※出典:株式会社帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2023年6月(2023年5月31日)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230509.html

値上げ理由は99%以上が原材料高である一方、電気・ガス代上昇に伴う値上げの割合は7%に拡大し、エネルギー価格高騰による影響も広がっています。そうした物価上昇とは逆に、家計の食費支出は勢いを欠いており、度重なる値上げについていけない消費者の「値上げ疲れ」「生活防衛」志向が鮮明となっていると調査結果で記載されています。そのため、食品会社は原材料値上げの対策に対し、単に販売単価を上げ続けるという訳にはいかず、消費者の購買意欲を考慮しながら調整を進めていく必要があります。

では、経費削減はどうでしょうか。
ここでいう経費削減とは、人件費や家賃、水道光熱費、広告宣伝費等をはじめとする販売費および一般管理費の削減を指します。しかし、こちらに関しても日頃の企業活動において改善を行っている企業にとっては、既に削減の余地はごくわずかです。仮に削減できたとしても、金額が小さくてインパクトが出てこないこともあり得ます。こうした「値上げ」や「経費削減」で利益減少を解決できない場合、運転資金を確保するために行いたいのが、保有不動産売却によるキャッシュフローの改善です。

キャッシュフローを改善するために

キャッシュフローとは、企業活動を行う上で発生するお金の流れのことです。キャッシュフローを健全な状態にし、一定額の手元資金を蓄えておくことで、不測の事態が生じた際に安定した経営が可能となります。キャッシュを確保しておかないと、いざという時に手元資金が行き詰まり、最悪の場合は黒字倒産という事態も生じます。こうした事態を避けるために意識したいのが、手元のキャッシュを確保するための「キャッシュフロー経営」です。

キャッシュフローの種類

キャッシュフロー経営を意識し改善していくには、まず3つの区分を理解する必要があります。

営業キャッシュフロー

企業のキャッシュフローのうち、「営業取引」から生じた現金収支です。
具体的には商品の仕入れ・販売などが挙げられます。

投資キャッシュフロー

設備投資や余剰資金の運用などの「投資活動」から生じた現金収支です。
具体的には固定資産の購入・売却や有価証券の取得・売却が挙げられます。

財務キャッシュフロー

「資金調達・財務活動」などで増減した現金収支です。
具体的には、金融機関などからの融資の借り入れや返済、株式や社債の発行、配当金の支払いなどが挙げられます。

各キャッシュフローはそれぞれ重要な役割を担っており、業種の特徴を踏まえバランスよく配分されていることで健全な企業経営につながりますが、今回は投資キャッシュフローにおける保有資産売却をすることで全体のキャッシュフローを改善させる方法をご紹介します。

保有資産の見直しと考え方

保有資産の見直しのためにまず行うのが「スクリーニング」という作業です。スクリーニングは、複数の不動産を所有している場合に行う、資産の選定作業です。主なスクリーニング方法は下記の通りです。

スクリーニング方法

1マーケットリサーチ売却予定の不動産が存在する市場や地域の不動産市場を調査し、需要と供給の状況、競合物件の存在、市場の動向や見込まれる売却価格を把握します。
2収益性の分析各不動産の現在の収益性(賃料収入、費用、空室率、賃貸借契約の残存期間、修繕や改装費用などの要素)を考慮し、将来のキャッシュフローを予測しながら、将来の収益性の見通しを分析し、各物件と比較検討します。
3リスク評価各不動産のリスク要因(法的な制約、環境問題、市場変動のリスク、テナントの信用力など)を分析し、売却に関連する潜在的なリスクを特定し、それらの影響を各物件と比較検討します。
4不動産の物理的な状態の評価売却対象の建物の使用状況、構造や設備の状況、修繕やメンテナンスの必要性などを確認し、売却に際して必要な投資(修繕等)やリスクを分析します。
5契約関連売却対象の不動産に関連する法的な要件や問題を調査します。土地所有権や賃借権、建物の賃貸借契約、法的な制約や規制などに関する調査を実施し、売却における法的なリスクや制約を分析します。
6税務上の評価不動産売却に関連する税務上の影響を評価します。時価と簿価との差額に対する税金、固定資産税の評価、特定の税制優遇措置の適用可能性などを検討し、売却による税務上のメリットやデメリットを把握し、分析します。

これらは複数の不動産を所有している企業が不動産を売却するためのスクリーニング方法の一例です。売却の目的や特定の要件に応じて、さらに具体的なスクリーニング手法が適用される場合もあります。スクリーニングを行うことで、保有している資産の時価評価と簿価、管理の状況、売却の可否等を判断することが可能になります。

国土交通省発表の令和5年地価公示においては、コロナ前への回復傾向が顕著となったとの見解が示されています。新型コロナの影響で弱含んでいた景気が緩やかに持ち直し、地域や用途などにより差があるものの、地価においても同様です。都市部を中心に上昇が継続、地方部においても上昇範囲の広がりが見られています。

※国土交通省出典 https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_008971.html

個別のアセットに目を向けてみると、新型コロナウイルスの影響を受けた2022年、住宅地や商業地の地価公示は一旦下落傾向を示していました。しかし、工業地は同年の地価公示でも上昇しています。高速道路ICや幹線道路等へのアクセスが良く、画地規模の大きな工場は、物流施設に変わりやすく、インターネット通販市場が拡大している近年は、特に高値で売却しやすい傾向にあります。実際に、毎年国が評価を行っている地価公示でも、工業地は2023年まで6年連続で上昇しています。近年の物流施設の需要は非常に強くなっており、用途変更が可能な立地の不動産は、高額で取引される可能性があります。

まとめ

以上、輸入原材料高騰による利益減少のためのキャッシュフロー改善策について紹介しました。保有する不動産の売却は、事業活動で生じたコスト増に対するキャッシュフローを改善し、運転資金を確保する手段として有効です。景気の変化はいつやってくるかわかりません。複数の不動産を持っているのであれば、今すぐ売却する計画はなくても、まずはスクリーニングだけでも始めておくと良いでしょう。

執筆者情報

竹内 英二 たけうち えいじ

保有資格:中小企業診断士・不動産鑑定士
中小企業診断士と不動産鑑定士の2つの専門的な視点から、企業不動産が経営に及ぼす影響について企業や金融機関に対し助言を行っている。

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