『企業再生』とはなにか? 倒産との違い、そのポイントを解説!
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『企業再生』は、経営状況が芳しくない企業にとって、倒産を避けるためには、欠かせない取り組みになる。今回は、『企業再生』と『事業再生』の違い、また、再生の手法とそのポイントについて解説する。東京商工リサーチの調査によれば、企業の平均寿命は23.9年だという。もちろん、それ以上の間活躍する企業は数多いが、経済環境・社会情勢の変化に対応することが、企業長寿の秘訣だと言える。
そもそも『企業再生』と『事業再生』はどう違うのか?
業績不振に陥り、そこから回復できずに最終的に倒産に至るというシナリオは、どの企業にとっても起こりうることだ。経済環境や社会情勢の変化など、業績不振に陥る理由は枚挙にいとまがない。経営者にとって業績不振への対応は、雇用の維持、取引先企業などへのサプライチェーンの維持もあり、必須の取り組みだと言える。
その取り組みこそが、『企業再生』であるが、似た言葉に『事業再生』がある。厳密に定義されていないが、言葉通り、『企業再生』の対象は企業であり、『事業再生』は事業が対象となる。一つの事業で活動している企業にとっては、ほぼ同義だ。複数の事業を営む企業の場合は、事業単位での再生が『事業再生』だと捉えることができる。再生計画では、B/SやP/Lを指標として課題を抽出し再生に取り組む等行っていくが、『企業再生』では会社全体の、『事業再生』では事業単位での数字を見ることになる。
次項以降では、法的な再生の手段を含めて解説するが、『企業再生』『事業再生』においては、法的な手段に至らないことが最も重要なポイントになる。法的な手続きが必要になる前に、自助努力で不振に陥った企業・事業を再生できるように、常に自社の経営状況、社会・経済環境の変化、市場動向に注意をはらい、早期に『企業再生』に取り組むことが求められる。
企業の「清算」を選ばず、『企業再生』に取り組むべき理由とは?
企業の業績が悪化していくと、いわゆる「倒産」の危険が出てくる。倒産とは、法律用語ではなく、「会社が維持できない状態に陥ること」を広く意味する。そうなる前に「会社の再生」に取り組むか、「会社を清算するか」を選ばなければならない。
そもそも社会環境の変化に対応できず業績が悪化している場合などは、わざわざ困難な『企業再生』に取り組むことなく「清算」型の手続きを選択するケースも珍しくない。
「清算」型の手続きには2種類あり、一つは破産法に基づき破産管財人が主体となって進める「破産」手続き。もう一つは会社法に基づいて裁判所が介在するものの、企業がある程度主体性をもち比較的簡易な手続きで会社を破産させる「特別清算」がある。
特に経営者が高齢である、また事業そのものの需要が低迷している場合には再生を選ばず、あえて「破産」を選ぶことも多いようだ。また、自力で会社をたたむ「廃業」を選ぶケースもある。
しかし、会社の清算にはデメリットも多い。まず「従業員、経営者ともに、収入を失う」ということ。借り入れがあった場合、経営者が個人保証していると、「経営者自身が負債を抱える」こと、「破産手続きにも費用がかかる」こと、そして経営者が再起しようとした場合、「銀行の取引などに制限が出る場合がある」ことなどが、主なデメリットとして挙げられる。
『企業再生』を選んだ場合、これらのデメリットは発生しない。もちろん、状況によっては、再生を行うことができず、破産等を免れないケースもありえるが、そうなる前に『企業再生』に取り組んで、従業員の雇用、取引先との関係などを維持していくべきだと言える。
『企業再生』の2つの方法とは?
ここで、一般的な『企業再生』について、整理しておきたい。企業の経営状態が思わしくない場合の対応としては、前項でも触れたが図のように「清算する」「再生する」の2つに分けることができる。そしてそれぞれが「私的」「法的」な対応に分類される。
清算型法的整理がいわゆる「破産・特別清算」であり、清算型の私的整理が「廃業」にあたる。そして、再生型でも法的な手法は「民事再生手続」「会社更生手続」がある。よくメディアでも「会社更生法が適用された」「民事再生手続きに入った」などと報道されるが、これがその企業が「法的再生の手段を採った」ことを意味する。
最後が「私的整理」と「事業再建」だ。この二つは法律が介入することなく、企業と株主、従業員、取引先と話し合い、自助努力で『企業再生』を目指すことになる。
今回は『企業再生』について解説しているので、図の右側について補足していく。
『企業再生』において、裁判所、法律の力を借りる「民事再生手続」・「会社更生手続」には、法に則った公正な再生計画を実行できる反面、企業の状態が公になるというデメリットもある。会社更生、民事再生手続を採った企業との取引を避ける企業も珍しくない。また、法的再生後の経営について、株主や金融機関、監査機関などの目が厳しくなることも多い。もちろん、企業を再生していく上で、大きく会社経営の様相が変わることは重要なことではあるのだが、マイナス部分が大きく感じられてしまう。
一方、私的な整理である「私的整理」・「事業再建」は、あくまでも企業内、そして株主や主要な取引先、金融機関との個別の交渉で行われる。場合によっては社内だけ、社内と株主、金融機関だけで話し合い、取引先には知らせずに再生を行うこともありえる。経営者にとっては「私的整理」が望ましいが、社外に影響が及ぶ前、業績が悪化し始めた段階で、事業の再建に手を付けることがベストだ。経営状態が悪ければ悪いほど、法的再生や清算型を選ばざるを得なくなる可能性が高い。選択肢が多い、つまり「私的整理」ができる状態、あるいはその前から『企業再生』に取り組むことが重要になる。
『企業再生』の鍵を握る、4つのポイントとは?
『企業再生』、ここでは私的整理を指すことにするが、これを実現するには次の4つのポイントがある。
- 「経営者にやる気、エネルギーがある」
- 「事業そのものにニーズがある」
- 「ステークホルダー(債権者、株主など)の協力が得られる」
- 「債務整理、資産の活用によって、資金繰りが正常化できる」
まず1だが、なによりも経営者自身に「企業を再生する気力がある」ことが重要だ。『企業再生』には、労力もかかれば精神的な負担も大きい。それだけの気力、やる気がなければ『企業再生』はできない。
次に2では事業そのものにニーズがあることだ。長年業態を変えていない企業の場合、すでにその事業が時代に即していないケースもある。また強力なライバル企業が出現しているということもありえる。そういった場合は、ライバルと戦えるだけの付加価値があるか、それを作り出すことができるかがポイントだ。場合によっては、業態変換を検討する必要もある。
さらに、3は再生計画について、債権者である金融機関、株主や従業員が賛同し協力が得られるかも重要だ。債権者からの賛同が得られなければ財政状況の改善は難しく、また経営者単独では再生計画の実行は難しい。
そして4では、再生にかかる費用を捻出できること、債務の整理や資産の活用で資金繰りを正常化できるかどうかが、最後のポイントになる。いくら素晴らしい再生計画で、関係者の賛同が得られており債務の額を減らすことができても、事業の収益性が低くければその後も債務超過の懸念は残り、再生計画は絵に描いた餅になる。
『企業再生』では、再生の計画を立案するために企業が持っている資産を正確に把握し、それを活用する必要がある。まずは、手持ちの資産を把握し、評価しなければならない。有効な資産があれば、それを活用することで再生の資産とすることができる。
企業が持つ資産の中で、わかりやすいものの一つが「不動産」だ。不動産は売却することでまとまった資金を調達できる。また、賃貸することで将来の資金繰りの計画を立てやすくすることも可能だ。事業のために使用する不動産でもリースバック※で「売却して一時的な資金を得て、その後は賃料を払ってその物件を利用し続ける」という方法を取ることもできる。不動産を活用することで劇的に資金繰りが変化するケースも珍しくない。
『企業再生』には、さまざまな専門家の力が不可欠だ。事業や経営の専門家、金融の専門家、財務・法務の専門家はもちろん、大きな資産である不動産を最大限に活用するために、不動産の専門家も欠かすことができない。