新たな体験価値を共創する、仮想都市型オフィス
株式会社東急エージェンシー 様
https://www.tokyu-agc.co.jp/
2021年の創業60周年を機に発表したパーパスは、「人と社会の希望を彩り、前進するチカラをもたらす。」
社員一人ひとりの思考、価値観、才能を響き合わせることで、新たなアイデアと体験価値を生み出し、ビジョンとして掲げる「お客さまの事業成長のために並走する、体験価値共創企業ヘ。」を目指す。
株式会社 東急エージェンシー様は、旧オフィスのあった赤坂を50年間拠点としてきたが16フロアに分散するオフィスは業務に必要なコミュニケーションが取りにくいなどの課題を抱えていた。2021年11月1日、創業60周年の節目にオフィス移転を行いコミュニケーションやクリエイティビティを発揮できる新拠点で業務を開始した。
目次
株式会社東急エージェンシー
戦略事業本部
商空間クリエイション局
第2開発部
入江 貴之 氏
60周年の節目新本社オフィスでスタート
株式会社 東急エージェンシーは、2021年11月1日に新本社オフィスでの業務を開始、創業60周年の節目を新拠点で迎えた。
同社は旧オフィスのあった赤坂を50年間の拠点としてきた。従業員約1,000名が2棟・16フロアに分散していたため、業務に必要なコミュニケーションがとりにくいという課題を抱えていた。
また、2018年に従業員アンケートでクリエイティビティを発揮するためにはどうすればいいかを問うたところ「今のワーク環境ではクリエイティビティを発揮できない」などと、当時のオフィスに対する不満の声が挙がっていたという。
オフィス環境の改善で満足度が7割に
2019年、同社はオフィス環境を改善する取り組みとして本部ごとのグループアドレスを試験的に導入し、コミュニケーション用スペースを増設した。導入は営業2部門で、当初は反発する声も一部聞こえたが、いざ運用してみると賛成派に変わっていった。その様子を見た他部門の社員から「うらやましい」「自分もやってみたい」といった感想が寄せられた。
グループアドレス実施者にアンケートを3回行った結果、満足度が実施前に比べて4割から7割へ大幅アップ。オフィス環境の改善で従業員満足度がここまで上がるとは想定外の驚きだったという。
その後、経営層の方針により創業60周年にあたってビジネスの変革について議論され、新たなパーパス・ビジョン・バリューの策定とVI(ビジュアルアイデンティティ)の刷新とともに、オフィス移転とオフィス戦略の構築が重要課題に決まった。
コミュニケーションを促すオフィスを
移転先の検討にあたって、分散したオフィスフロアの集約、コミュニケーションを促す空間といった課題を整理した。
集約移転のために1棟借り上げるか、ワンフロア面積が広いビルを選ぶか。エリアは旧拠点であった赤坂や東急グループが集まる渋谷のほかに銀座、虎ノ門なども検討した。
十分な検討期間を経て、移転の2年前に決定。入居時期・エリア・面積・賃料・新築等の条件を満たし、「ワンフロアで様々な部署どうしが交わるほうがよい」との役員の意見もあって、日比谷フォートタワーを選んだ。
オフィス面積は約3,000坪から約2,100坪となるためペーパーレスに取り組み、書類の8割削減を達成して、共有スペースの充実を図りつつオフィス面積の適正化を進めた。
席数は旧オフィスの1,000席から座席600席+ワークポイント※1600席の計1,200席に増やした。役員個室は2室、上長席はフリーにし、エグゼクティブゾーンで交流する形にしている。
※1 ワークポイント:座席以外に仕事ができる場所。
複数の仲介業者から、同社はオフィス移転のパートナーに三菱地所リアルを選んだ。「三菱地所リアルの営業担当の方がとても熱心にフットワークよく対応してくださったそうです。他社さんよりも提案内容が充実していて、見学した回数も多かったと聞いています。」
そう話すのは新オフィス計画を担当したメンバーの一人、戦略事業本部 商空間クリエイション局 第2開発部の入江 貴之氏だ。
コロナ禍による環境の変化
オフィスで解決へ
入江氏は商空間プロデュースなどデザインワークの経験が豊富である。
「当社は東急グループの一員として東急線沿線を中心に地域や生活に密着した事業を展開してきました。これまでグループをはじめ様々な空間開発に携わってきましたが、オフィスに関わるのは今回が初めてです。」
渋谷駅周辺の再開発などを担当してきた入江氏は、空間はあくまで受け皿、大切なのはどのような空気感をその場に創出したいかであり、その手法を同社のオフィス計画にも取り入れたという。
「オフィス環境を創造するにあたって、まず、当社ならではの働き方とは何かを徹底的に追求し、それを踏まえてそのための弊社ならではの空間とはどうあるべきかをクリエイションしました。」
その最中にコロナ禍。クリエイティブワークもリモート対応を余儀なくされ、業務で必須となるコミュニケーションがとりづらい状況になった。そのなかで同社におけるオフィスの今後のあり方は、「執務」のための場ではなく、より「共創」のために特化した場であるべきとして、オフィス戦略のフレームに設定した。
オフィスのコンセプトは「仮想都市」
オフィスの全体コンセプトを「City-Verse(仮想都市)」とし、“東急エージェンシーの多様な個性が集い暮らし、様々なコミュニケーションスタイルから見たこともないような新たな体験価値を世の中に創出する場”を目指した。
「例えば渋谷という街からカルチャーが生まれ続けるのは、セレンディピティ※2→集いアソブように共創→発信といった、すべてのフェーズに応えられる、本質的な都市環境連関があったからです。我々のオフィスもこの構造を目指しました。」
3フロアの役割を分け、17階「Seeding」、18階「Sprouting」、19階「Blooming」と設定。17階は日常的に集いセレンディピティからアイデアの芽が生まれるカオティックなフロア、そこで生まれたアイデアの“芽”を成長させ芽吹かせるための、様々なクリエイティブアプローチに特化した18階。芽吹いたアイデアを外部パートナー・クライアントとのコミュニケーションで開花させ、また発信していく19階。3階層の連関で、同社らしく効果的な「共創」環境を実現している。
※2 セレンディピティ(Serendipity):「偶然の産物」「幸運な偶然を手に入れる力」を意味する言葉。予想していなかったものが発見できたり、ひらめきによって新たなアイデアが浮かんだりすること。
TBWで共創を生み出す
個人が働く場所や時間を選ぶABW(Activity Based Working)は近年のオフィストレンドで、フリーアドレスとともに導入する企業が増えている。同社ではこれに加えて「TBW(Team Based Working)」と呼ぶ「チーム」の一体感を高めるオフィス環境にした。
17階では個人の執務席のほか、エリアごとにカフェのようなコミュニティスペースを設けた。18階は、個人から「チーム」への広がり、部門の個性を出したスペースでチームワークを発揮し、社内コラボレーションの促進を図る。600席と大幅に増やしたワークポイントで部門を越えたコミュニケーションが取りやすい形に変えている。
「フロア集積と共有スペース増加の効果はすぐに現れました。移転から1カ月後、想定出社率60%を超える70%近い出社率になりました。特に若手社員の出社率が上がり、コミュニケーションをとることで刺激を受け、クリエイティビティが磨き上げられることを実感したようです。」
クリエイターが分析するオフィスの可能性
入江氏はこれからのオフィスについて、クリエイター視点の分析を語る。
「オフィスのあり方は拡がっていると感じています。ライフスタイルの多様化に伴い、オフィス+商空間、オフィス+住居など、他の用途と絡めたオフィスの複合化がもたらす可能性について考え始めています。当社のオフィスもこれで完成ではなく、時代にあわせて進化し続けられると良いと思います。」
同社の新オフィス戦略は、広々とした空間と社員同士の思いがけない交流がクリエイティビティの向上や、新しいコラボレーションの誕生をもたらし、事業に好影響を与え始めている。
このオフィスから創造された新しい価値やクリエイティビティが社会へ循環されていくことで、私たちの暮らしをより良くしていくことだろう。
日比谷フォートタワー
- 所在地:
- 東京都港区西新橋1丁目1-1
- 構造:
- 鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造
- 規模:
- 地上27階/地下2階
- 延床面積:
- 約105,609.21㎡(約31,946.78坪)
- 竣工:
- 2021年6月
- 交通:
- 都営三田線「内幸町」駅 徒歩2分
東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ケ関」駅 徒歩2分
東京メトロ銀座線「虎ノ門」駅 徒歩3分
東京メトロ丸ノ内線「霞ケ関」駅 徒歩5分
JR線、東京メトロ銀座線、都営浅草線、
新交通ゆりかもめ「新橋」駅 徒歩7分
デザイン設計:ゲンスラー
※本事例の内容は公開当時のものです