社員の会話が自然と生まれる
ハイブリッドワーク型オフィス
株式会社ソラスト 様
https://www.solasto.co.jp/
1965年に創業し、日本初の医療事務教育機関をスタートさせた、まさに医療事務のパイオニアだ。介護・保育領域へ事業展開し、医療業界に新しいビジネスモデルを提供している。
株式会社ソラスト様は、2022年に企業理念を改定し、新たなスタートを切った。コロナ禍を契機に社員の柔軟な働き方を取り入れ、ハイブリッドワークを推進。新たな方向へとオフィス戦略の舵を切った、同社のオフィス戦略を見ていく。
目次
株式会社ソラスト
人事部総務本部 総務部
施設管理課 課長
冨山 卓 氏
「出社が前提」から新たな働き方への検討
移転前の旧本社オフィスは、紙を保管するキャビネットや複合機がスペースを圧迫しており、かねてよりオフィス活用に問題意識を持っていた。そこで、継続的なDX化やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)で変革を進め、コロナ禍によるリモートワークの浸透もあり、新たな働き方が社内に定着していった。
当時の状況を人事部総務本部総務部施設管理課の冨山卓氏は次のように振り返る。
「当時のオフィスレイアウトは出社が前提でしたが、コロナ禍で空席率が高くなり、オフィスレイアウトと社員の新たな働き方にミスマッチが生じるようになりました。そこで、新たなオフィスへの移転を検討し始めました。」
当初、重視していた移転先のポイントは、大きく4つ。雨天時に傘をささずに会社にたどり着けるなど、駅から直結していること。交通拠点となり、至便である品川駅周辺であること。勤務場所を遠くに変えないこと。最後に、ボリュームチェックをクリアしていることだった。社員のモチベーションが維持されるよう、「来たくなるオフィス」も念頭に置いていた。
2022年4月には、企業理念を“私たちは、人とテクノロジーの融合により、「安心して暮らせる地域社会」を支え続けます。”に刷新した。「移転が、この新たな理念に含まれる『人とテクノロジーの融合』の体現につながればと期待もありました。」と冨山氏は回顧する。
そして、コロナ禍の影響でオフィスに空きが出てきたため、相場賃料が想定範囲に近づいてきたことが好機となり、本社移転の動きが本格化していった。
綿密な社内調査とデータ分析で目指すオフィス像の確立へ
オフィス移転が決定した後ソラストでは、ネットワーク系の調整を情報システム本部が、社内調査を総務部が担当した。目指すべきオフィス像や現在のオフィスの問題点を洗い出すべく、総務部が主体となり各部署を対象にした綿密な社内調査を実施した。移転の基本的なコンセプトや方向性について、冨山氏は次のように考えていた。
「席がないから出社しないと社員に思われないことを前提にしました。そう思われると、会社としては一番つらいですし、そもそもオフィスの存在意義がなくなってしまうと考えたからです。ですので、総席数には非常に気を付けました。」
上記に加えて、社員からの要望もバランス良く吸収しつつも、経営層が目指すオフィス像に近づけていくことにした。
そして、品川本社と三田オフィスのブロック長・部長職に対して、勤務体制についてヒアリングを実施したところ、主に3つのことが判明した。まず、オフィスにおける執務スペースの空き状況を出社人数と座席数で割り出したところ、座席の使用率はわずか3割程度しかなかったということだ。これにより、席数を確保するうえで必要となるオフィス面積がより明確になった。
次に、出社する主な目的は、対面での対応が必要となる郵便物などの紙媒体の確認などだったということ。さらに、オフィススペースを圧迫していた複合機の使用目的は、スキャナ利用が大半を占めていたことも判明。ポータブルスキャナで代用することで、複合機の設置スペースを省略できる。オフィス面積の縮小を実現させる要因をピックアップし、必要なオフィス面積を算出した後に、新たなオフィスレイアウトの考案や移転のコストを試算した。
こうして情報システム本部と総務部を中心にした移転体制のもとで、各部署の代表者と必要な情報を共有しあい、オフィス事情を取りまとめ、それを新オフィスにどのようにして落とし込むのか調整しながら移転計画は進行していった。
社員が出社したくなるオフィスレイアウトを実現
社内の調査結果や移転目的に基づき、品川インターシティへの入居が決定した。その要因の一つが、同ビル内に貸会議室があったことだ。大きな会議室のスペースが不要となり、オフィス面積の縮小を実現できた。設備面では、BCP(事業継続計画)電源の導入やセキュリティゲート設置などがリニューアルされており、ビル全体のセキュリティが担保されていた。エントランススペースの受付はゆったりとした広いスペースを確保でき、和やかな雰囲気でクライアント様を迎えられると考えた。こうした建物のハード面だけでなく、ソフト面でも求める条件に一致していたことも大きかった。
「一般的に築年数が経過しているビルは、設備が老朽化していくもの。こちらのビルのオーナーは入居者のメリットを汲み、物件の価値を維持し続けるだけでなく、高めていきたいという考え方をもっていることに共感しました。」移転先選びでテナント側として長期的にこの場所に居続けたいという要素をこのビルが満たしていたと冨山氏は語る。
オフィスデザインの核は、ハイブリッドワークでもコミュニケーションの取りやすい環境。このコンセプトを軸にデザインは進行していった。まずは、オフィス内のパーテーションを極力少なくし、見通しの良いレイアウトを心掛けた。出社だからこそできるリアルなコミュニケーションを実現し、気軽に話せる環境を作るためだ。次に、カフェテリアスペースを設けて、仕事も休憩もできる空間を創出した。執務スペース内にはインテリアとして緑がたくさん使用され、優しい印象を与え、社員がリラックスして仕事に打ち込める。こうして「社員が出社したくなるオフィス」を実現していった。
オフィスコンセプトが実現された背景をみると、デザイン会社との信頼関係も重要だったようだ。冨山氏は、次のように振り返る。「打ち合わせ時に、デザイン会社に弊社のカルチャー、これから会社として目指していきたいことなどを、しっかりとヒアリングしていただきました。だから、信頼してお任せできましたし、うまくデザインに落とし込めたのだと考えています。デザインの方向性が決まったあとは、オフィスの機能性を除き、色味などに意見することなく、全体の整合性が取れるようにしていただきました。」
働く場所を自分で選ぶ 主体性を育てるABWの採用
新オフィスでは、社員が働き方を自由に選べるように方針が組まれ、仕事をする環境を社員自ら選べるABW(Activity Based Working)を採用した。これにはある狙いがあった。
「リモートワークにするのか、それとも出社勤務にするのか、もし出社するなら自分が仕事を行う場所はオフィスのどこが最適なのかまで、社員に主体的に判断してもらえたらと考えています。そうすることで、社員が業務でもいろいろな視点を持つ一助になればと。社員の働きやすさにつながりますし、働く環境への納得感にもつながります。」
社員同士の交流が活性化し、時代に柔軟なオフィスへ
今回の移転にあたって、最初の社員へのアナウンスの時点で「ハイブリッドワークを基本形として、移転後も継続していきます」と明言していた。
「移転前の段階で働き方の変化を事前にアナウンスしていたため、社員たちにとってあまりネックにはならず、スムーズに受け入れられたと感じています。ワークライフバランスも含めた生産性の向上という好循環を生み出せば、今回の移転した意義が大きくなるでしょう。」
その想定を裏付けるかのように、社員からは「移転前は不安な事が多かったが、想像していたような不便さはなく快適さ・仕事のしやすさは上がった。今までより多くの人と気軽に会話ができる機会が増えた」などの声が届いたという。移転後の環境に、新しい働き方が浸透した形だ。他方で、社外の関係者からは、「見通しが良くスッキリとした印象。キャビネットが少ないことで働くための空間ということが伝わる。」との反響があった。
冨山氏は今回の移転を総括しつつ、今後の展望を次のように語った。
「コミュニケーションの向上という意味で、パーテーションをなくす、壁を取り払うなどの物理的なオフィスレイアウトが実現できました。今後、コミュニケーションの向上という基軸が変わる事はないと思いますが、時代の流れでこれに付随するものや仕組みは変化していくと想定しています。トレンドと社内ニーズを融合させて、オフィス環境に反映させたいですね。」
移転によりオフィス戦略を大胆に変更し、ハイブリッドワークとコミュニケーションの活性化を実現したソラスト。パイオニア精神として攻めの姿勢を保ちつつ、新たな環境下で生まれたアイデアをもとに、今後も時代を切り拓くサービスを展開していくだろう。
設計:Gensler
品川インターシティ C棟
- 所在地:
- 東京都港区港南2丁目15-3 品川インターシティ C棟
- 規模:
- 地下3階 地上31階 塔屋1階
- 構造:
- 地下部:鉄骨鉄筋コンクリート造
地上部:鉄骨造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造 - 延床面積:
- 337,126㎡ (A・B・C棟計)
- 竣工:
- 1998年11月
- 交通:
- JR「品川」駅(港南口)徒歩5分
京浜急行線「品川」駅 徒歩8分
※本事例の内容は公開当時のものです。