ESG投資・ESG経営に取り組むメリット・デメリット

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財務情報をベースに投資先を選ぶ投資に対して、財務情報に加え、環境や社会、ガバナンスなどの要素を考慮して投資先を選定するESG投資が注目されています。ESG投資のはじまりは、1920年代までさかのぼりますが、現在のように注目されるようになったのは1990年代に入ってからです。30年以上前から注目されはじめたとはいえ、ESG投資が今また注目されている理由や、ESG投資を行うメリットについて解説します。

ESG投資の概要について

企業投資における判断基準として、近年注目されているのがESGです。ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」といった3つの観点の頭文字をとった言葉で、これらの要素を元に投資先を選ぶことをESG投資と言います。

具体的には、「E」の環境は、地球温暖化対策や水質汚染の改善といった環境問題に関する動きを指します。「S」の社会は、働きやすさや女性従業員の活躍度合い、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティなどが該当し、「G」の企業統治は、取締役構成やコンプライアンスの遵守などを指します。

従来の投資においては、業績や財務状況を材料として企業価値を判断するのが主流でした。しかし昨今では、特に長期投資を行う投資家の間で、企業が利益を上げ、将来的にも持続可能な運営ができるかどうかといった「企業のサステナビリティ」を判断基準に設ける概念が広まってきています。こうした判断基準の変化に伴い、ESGが世界的に重要視されるようになりました。

実際、日本では、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資のプラットフォームである国連責任投資原則(PRI)に署名しており、これを機に日本の投資家の間でもESG投資が主流となりつつあります。

より重要性が高まるこれからのESG投資

そして近年、各企業や自治体、個人の間で広く注目されているのがSDGsです。SDGsとは、持続可能な開発目標の略称であり、2015年に国連総会で採択されました。SDGsでは、17のゴール(目標)と169の具体的なターゲットが設けられており、2030年を目処に持続可能で誰もが暮らしやすい社会を目指しています。ESG投資でも、企業が実施するSDGsに対する取組みや成果を判断基準の1つとして重要視されるようになりました。

また、2020年10月には、日本政府から「カーボンニュートラル」が宣言されています。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、トータルでゼロにすることです。2050年までに実現するように国を挙げて動き出しており、企業でも長期的な視点で地球環境に配慮した行動が求められています。

このように、日本を含む世界中がESGを重要視する中で、ESGを度外視して経営を行う企業は、世界の流れから遅れをとってしまいます。地球環境が悪化すると、法改正や規制が増える可能性も否めません。そうなればESGとは無縁に経営していた企業にとって持続経営が難しくなる可能性もあり、こうしたリスクを避けるためにも、ESGはこれからより重要性が高まっていく基準といえます。

投資残高でみるESG投資の注目度

ESG投資は、2014年から2018年の間で70%も拡大しています。世界のESG投資残高をまとめるGSIAでは、全運用資産の30%がESG投資にあてられているという結果を2021年7月に発表しました。このように、投資残高だけをみても、ESG投資への注目度の高さが分かります。続いては、各国のESG投資残高の推移をみていきましょう。

各国のESG投資残高の推移

下記のグラフは、ヨーロッパ・アメリカ・カナダ・日本における、2016・2018・2020年のESG投資残高の推移です。サステナブル投資の定義が厳格化されたヨーロッパ以外の国は、軒並み右肩上がりであることが分かります。

上記グラフは「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」を元に作成

企業サイドがESG経営を行うメリット

ここからは、企業サイドのESG経営について見ていきましょう。企業投資の判断基準としてESGが注目されてきたことにより、企業にもESGを考慮した経営が求められてきています。
また、ESG投資に対応することによって、企業側が得られるメリットは多くあります。以下では、企業がESG投資に対応するメリットをご紹介します。

経営リスクの軽減

近年、企業経営はESGの観点から思わぬ影響を受ける可能性が増えています。例えば環境変化のリスクや法改正、規制のリスクはどの企業にも該当する課題でしょう。利益のみを求めESGを度外視していると、こうしたリスクは避けられません。しかし、ESGの視点を経営に導入することでこのようなリスクの軽減にもつながります。利益に直結しづらい点ではありますが、長期的な視点でみれば、企業価値の向上にもなるでしょう。

ブランド力の向上

ESGを配慮した経営を行う企業は、ブランド力が向上するといったメリットも得られます。ただ利益を上げるのではなく、社会に対する貢献度が高い企業とみなされ、社会的信用につながるためです。例えば店舗や商品自体に環境を意識したアイディアを導入したり、素材を見直したりしている企業は、事業自体がブランドイメージを上げ、ユーザーからポジティブな印象を得やすくなります。結果的に、購買意欲が上がり、利益にもつながるといったよい循環が生まれるでしょう。

優秀な人材の確保

経済社会システム総合研究所のレポート「社会的課題への取組みが企業の人材確保力に及ぼす影響の分析」によると、ESGスコアが高い企業ほど従業員の定着率が高くなる結果が出ています。ESGへの取組みは、環境問題だけではなく、働きやすい環境づくりも挙げられます。例えば女性が活躍できる職場や人材育成に対する意識が高くやりがいを感じられる企業は、従業員にとってもメリットが大きく、優秀な人材の確保にもつながると言えるでしょう。

投資家からの評価向上

投資家にとって企業がESGに対して行う取組みは、重要な評価ポイントの1つです。環境の変化や未曾有の感染症などに伴い、投資家は、より一層サステナビリティを重視する傾向にあります。そこで活用されるのがESGスコアです。ESGの達成度合いや注力度が一目で分かる指数であり、ESGスコアが高いほど投資家からの評価が上がります。

一方で気になる企業サイドのESG経営のデメリット

社会におけるメリットだけではなく企業自体にも利点の多いESGの取組みですが、考慮すべき注意点もあります。デメリットを把握せずに進めてしまうと、損失を被る可能性もあります。続いては、企業サイドにおけるESG経営のデメリットとして2つのポイントを解説します。

初期投資、費用の増加

ESGを考慮すると、新たなコストが必要になるケースが少なくありません。例えば環境に配慮した設備を導入するケースや労働環境を整えるために福利厚生を改善するケースなどが挙げられます。従来の経営であれば発生することのないコストです。加えて、ESGの効果は長期的に考えていくものであり、すぐに効果につながる費用ではないため、コストだけで判断すると負担ばかりがかかるように感じることもあるでしょう。

短期間では効果が出ない

一般的に、ESGへの取組みの効果はすぐに出るものではありません。長い目でみてコツコツと取り組む必要があります。中には、数年単位の期間をかけて効果を感じられる企業もあるでしょう。そのため、短期間で費用対効果を得ようとすると釣り合わなくなるケースもあります。こうしたデメリットも踏まえて、資金管理にも注力しながら慎重にESGに取り組むことが大切です。

つまり、ESG経営を行う場合は、長期スパンで採算性を考え、定量的な価値(売上、原価等のPL)と定性的な価値(ステークホルダーの評価、社会的地位)を見据えて経営していくことが重要と言えます。

中小企業もESG経営に取り組むべきか?

ESGへの対応は、企業ブランドを高める上でも取組みたい経営方法です。しかし、短期的にコスト面や費用対効果を考えると、資金力のない中小企業にとってはハードルが高く感じることもあるでしょう。企業規模に関わらずESG経営に取り組むべきなのでしょうか。以下では、ESGに対応した経営を行った場合の短期的、中長期的な影響をまとめました。

短期、中長期で捉えたESGによる取組みの影響

ESGに対応した経営を行った場合に考えうる影響は、以下が考えられます。

短期的な取組みで発生するコスト

  • 福利厚生改善のコストの増加
  • 設備投資コストの増加
  • ESG関連製品の研究開発コストの増加
  • ESGに関わる業務増加による人件費の増加

中長期的に見込めるベネフィット

  • 採用コストの削減
  • 災害への対応コストの削減
  • 規制の変更による対応コストの削減
  • 株式市場からの資金調達
  • ESG関連製品の売上増加
  • 設備稼働コストの削減

中小企業に対するESG経営の流れ

コストがかかる一面もあり、比較的資金力のある上場企業が取り組むケースが多かったESGですが、2020年に日本政府からカーボンニュートラルが宣言され、中小企業も無視できない状況になりつつあります。

また、2018年にはApple社が、事業全体やサプライチェーン、製品ライフサイクルの全体を通して、2030年を目処に温室効果ガスゼロを達成すると発表しました。この目標を達成するために、取引先に対しても再生可能エネルギー100%を求めています。このように、大企業によるESGへの取組みが進む状況は、中小企業にも大いに関係があるといえるでしょう。

ESG投資・ESG経営はこれからのスタンダード!?

今回は投資家目線だけではなく、企業目線でのESGへの対応についてもご紹介しました。AIやビッグデータ処理等のIT技術が加速化する一方で、それを抑えるかのように叫ばれているSDGs。そんな昨今において、今後の環境問題も含めESG投資に目を向け、一度多角的に検討してみてください。また、ESG投資の注目に伴い、企業にもESGに対応した経営が求められています。短期的にはコスト増加の負担はありますが、一方でブランド力向上や人材確保、投資家からの評価向上など、中長期的なメリットも多く、企業の安定経営に大きく貢献することでしょう。

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