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特別インタビュー 当社社員が語る
東京における、不動産のトレンドと今後の市況について

2017.10.24

2020年の東京オリンピック開催を控えた開発ラッシュ、J-REITの利回り低下、マイナス金利を追い風に、日本の不動産マーケットは高水準を保っていると言われている。そんな中、企業の不動産に対する考え方・扱い方はどのように変化しているのか。
三菱地所リアルエステートサービスの売買・賃貸・鑑定部門の専門家が、現在の不動産トレンドを解説する。

(座談会参加者)
企業不動産一部長(企業不動産売買・CRE戦略) 前田 茂充
ビル営業二部二課長(オフィス賃借仲介) 蓮山 正志
鑑定部一課 参事 熊谷 光正
聞き手:The Watch編集部

(左から)熊谷、前田、蓮山

1%前後ながら長期の経済成長を続ける日本経済。これに伴い現在の企業が向き合う不動産に対するスタンスとは。

前田
私が管轄する部署は、大企業・公的セクターに対して、資産売却の支援や不動産コンサルティングを中心に行っています。現場で感じている大きな流れとして、バブル崩壊後に大手企業は相当な資産を処分して、非常に筋肉質な体制になりました。残ったコア不動産の多くは1950〜60年頃に建築されたもので、戦後の日本の成長を支えてきた企業の重要な事業拠点です。しかし現在それらが老朽化してきているというのが、大企業の共通した課題となっています。
その課題解決の方法として、老朽化した事業所を一カ所に集約して効率化する動きがあります。合わせて移転後に残った不動産をどうするかを考える時、すぐに売却という判断をするのではなく、ホテルや賃貸オフィスへの転用など有効活用の道を検討して、どうしても活用できなければ売却するという、二段構えの考え方を始めているように思います。
特に流通・小売業の一例では本業とは別の収益の柱として、不動産を活用する動きが出てきているように感じます。
このような機会に、当社は事業主と共に不動産の最適化を考え、修繕を行うのか、有効活用が必要なのか、売却する事がベターなのか、あらゆる要素を提案するというわけです。

企業不動産一部長 前田 茂充

熊谷
流通・小売業の動きは私も感じます。百貨店などはいい例ですよね。インバウンド需要により売上は伸びてきているという話もありますが、いずれにしても、百貨店が不動産業として「床貸し」という業態になってきていることは事実で、不動産の有効活用の一つのあり方だと思います。
銀座の松坂屋がGINZA SIXとして生まれ変わり、自らは百貨店事業を行わず、高級ブランドや名店を誘致し、建物の上層階は銀座エリアでは珍しい大規模オフィスとして貸したりしているのは象徴的な事例でしょう。不動産市況が活発になっている一つの側面でもあるのではないかと思います。

鑑定部一課 熊谷 光正

蓮山
賃貸オフィスの移転仲介を行うビル営業部の視点からも、都心のオフィス移転は活発だといえます。リーマンショック以降、2010~2013年上期くらいまでは空室率が7%台半ばだったのですが、東京オリンピック決定後から現在まで3%台前半にまでなっています。これだけ空室率が低いということが数字上でも明らかです。移転はしないまでも同じビルの中で増床したり、新部署設置に伴いオフィスを新設したりする企業も増えています。
また、不動産の活用に対する企業のスタンスの変化はオフィス移転にも当てはまります。
複数の所有している不動産から集約移転を行うケースや、自社の事務所をより利便性の高い賃貸ビルやフロア面積の大きなビルに移るケースも散見されます。
その中で、これまでレイアウトの効率化はあまり考えてこられなかった企業も、フリーアドレスの導入や収納スペースの削減、会議スペースの取り方を工夫する事で、30%程度面積を削減したケースがあります。
こうしたオフィス環境を構築する企業にとっては、生産性の向上やリクルーティングの強化・またレイアウトを工夫する事での社内コミュニケーションの活性化にもつながります。
移転ありきで当社に業務を依頼頂くのではなく、そういった企業の不動産やオフィスの有り方から相談を頂くケースがここ数年、非常に増えました。いかに不動産とオフィスを上手く使うかという企業のスタンスが感じられます。

ビル営業二部二課長 蓮山 正志

前田
売買・賃貸に関わらず、企業の内部で不動産についての優位性が高まっている事は間違いないでしょうね。
熊谷
鑑定部として感じる現在のトレンドは、まさにこれまでデベロッパーが主体となって行っていた業務に、不動産業を本業としていない企業も取り組み始めるようになってきたことです。一般事業法人がデベロッパーと共同で再開発を行っているのがいい例です。それに伴い鑑定部の仕事も少しずつ変わってきています。例えば、再開発プロジェクトの準備組合との折衝に際して、われわれがクライアントである地権者のアドバイザーとして関わるようになりました。
例えば、準備組合からの提案が妥当であるか否かを検討するに当たり、まず土地・建物の従前資産の評価を行い、その評価結果を基に、再開発ビルのどの場所であればどれだけの床面積を確保できるであろうかについて、ビルの階層や位置、用途はオフィスなのか店舗なのかによっても賃料水準が異なるため、そのような要素を考慮してシミュレーションしアドバイスを行っています。
また、鑑定士は物件の経済価値を判定するのが主な仕事ですが、立退費用などの査定も行っております。再開発プロジェクトの場合では、工事期間中の移転費用や各種の補償額などの査定も行います。以上のように、クライアントに寄り添ってアドバイスを行う案件が増えており、三菱地所グループ唯一の鑑定機能をもつ部署として、このようなプロジェクトに携わるメンバーも待機しています。
筋肉質となった企業が現在も所有する不動産はある程度の規模で、いい立地に存することが多く、再開発のケースでは不動産単体の価値を上げるのみならず、街全体の魅力を考えて事業を行うことがトレンドになっているように感じます。

今後の再開発と、多様性に備える不動産の価値観。

蓮山
たしかに、東京では現在再開発が非常に活発に行われています。
過去30年の新築オフィスビル供給データによれば、供給面積は年約33万坪が平均です。それに対して今年、2017年の供給は22万坪で少ないのですが。これには、ここ数年建築費が高くなった影響で、いくつかの建築計画が後ろ倒しされたという背景があります。
ただ、この先2020年までの計画を見ると、2018年が42万坪、19年が30万坪、20年は51万坪の供給があります。2018〜2020年の3年で123万坪ということを考えると、相当な供給量です。現時点で、オフィスのニーズに対する供給の不足感はありますが、この先数年で状況は変わってくると思います。

(左から)前田、蓮山、熊谷

前田
産業界、自治体、行政とそれぞれの目的意識は異なるはずですが、老朽化したものの機能更新が共通の課題であり、再開発プロジェクトの起点になっているのでしょう。オリンピックに向けてというのももちろんあると思いますが、高度経済成長からバブル期までの大企業を支えた不動産がちょうど老朽化しているタイミングというのもあるのでしょうね。
蓮山
現在の再開発のキーワードのひとつとして、地域社会まで俯瞰する大規模化はありますが、三菱地所で最近、その大規模化の逆を行く決定をした事例がありました。大手町ビルです。大手町ビルは再開発・大規模化せず、リノベーションすることにしたのです。
大手町ビルには、これまでFinTechをキーワードとして、ベンチャー企業を集めてきました。それらの企業に入居してもらうことで、大手町をFinTechの拠点としていく。そのような、大規模化一辺倒ではない新しい発想が、最近話題を呼びました。

熊谷
東京の不動産マーケットの今後の見通しを述べると、現在の経済状況や日銀の金融政策、銀行の融資状況などを見るに、少なくともオリンピックまでは、国としては好況感が保たれるように手を打ってくると思いますので、不動産マーケットも現在の市況が続くとみています。リスク要因を挙げれば、2019年に予定されている消費税増税が市況に影響を与える可能性はありますが、国内的な要因だけで大きく下がる可能性は低いのではないかと思います。
次に、少しミクロ的な視点で不動産マーケットをみると、再開発プロジェクトが進み、その先に見えてくる不動産マーケットではこれまで以上に不動産の選別化・差別化が進んでいくのではないかと思います。いい物件は高い値が付き、そうでない物件は、なかなか値が付かなくなる。

蓮山
オフィス市況に関しては、近年さかんに叫ばれている働き方改革に背中を押される部分もありますし、これまでオフィスはコストに過ぎないと考えられてきたわけですが、オフィスに“投資”するという考え方に変わりつつあると思います。そこで働く従業員の働き方を変え、生産性を高めることで、会社を成長させようという考え方ですね。今後、このような目的のオフィス移転は活発になると考えています。
前田
働き方改革の話が出ましたが、このベースになっているのは、1週間で1万人の生産年齢人口が減っているという事実。その少子化の流れとICTの発展、この2つがこの先5〜10年の不動産市場にもインパクトを与えるだろうと予測しています。集約化、効率化、省力化、そんな切り口を受け止める不動産戦略で企業がさまざまな動きをしてくるのだと思います。
これまでお話したように、複数の拠点を集約化・大規模化して、そこへ移転したり、残った不動産も売却せずに有効活用したりする流れがあります。その先は、所有している不動産の収益効率をいかに上げるかというところに目が向くはずです。
例えば、集約した大規模な物流倉庫で一気に機械化を進める。中国から日本へ回帰する工場も、従来の労働集約型ではなく、ICTを最大限活用してフルオートメーションの工場をつくる。そのような考えに基づく不動産の有効活用が、日本の生産年齢人口の減少、働き方改革という命題に対する大きな答えになるのではないか――。そのように考えています。
われわれとしても、売買・賃貸・鑑定の垣根を越えて、不動産を大切に考えるお客様に対し、いかに有益な提案をできるかが、さらに重要になってくるはずです。

バブル崩壊やリーマンショックなど経済に於ける負のインパクトを経て、企業は自己資産の見直しの中で不動産の在り方についても時流に沿って対策を立ててきている。コストとして見るだけでなく、不動産の価値自体に多様な可能性を見出してきているのだろう。また、安定した景況感とともに活性化している再開発計画も多機能になってきている今、労働人口の減少やより細部にまで発展するICTの流れなどが、企業の事業計画や就労環境の変化にまで現れてきている。その中で不動産も財務評価以上に生産性や働き方などに影響する物理スペースとして、新たな価値観の創造や機能性を求められていくだろう。言い換えれば、今後50年先を見越した長期的な企業戦略と不動産戦略を融合していくべきだろう。それには、不動産のプロを含めた人材の編成も重要となる。