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明治の顔、明治古都館

平成知新館の完成と入れ替わるように、老朽化し、耐震化の必要に迫られている明治古都館は現在、休館している。建て替えも含め、さまざまな検討がなされた結果、「京博」の顔として長らく親しまれてきた同館をこのまま免震化し、復原することが決まっている。しかし、レンガ造りの建物の免震化には技術も時間も必要となり、さらに作業を行えばなんらかの遺構が見つかることは想像に難くなく、発掘調査が行われればさらに工期は長引く。


京博のシンボルと言える明治古都館(旧 帝国京都博物館 本館)。設計は宮内省内匠寮技師の片山東熊博士


明治古都館内部(非公開)。白い漆喰が高い天井部分まで塗り上げられた広々とした空間。復原により、往時の優雅な展示室が再び息をふきかえす


明治古都館との東西軸線上にある正門(表門)。現在は利用客の出口として使われている

京博では向こう10年前後は開館することはかなわないだろう、としている。ただし、時間をかけて復原作業を行えば、建設当時の輝きを蘇らせ、明治の名建築を現代に復活させることができる。建築も立派な美術作品であることを考えれば、復原工事は絵の修復作業と同義と言える。京博を訪れる楽しみがひとつ増えたと思えば、10年もあっという間かもしれない。

揺れ続けた文化財保護

京都国立博物館をはじめ、国立を冠した博物館には、東京国立博物館や国立科学博物館、国立民族学博物館、国立歴史民俗博物館、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館などがあるが、これらはそれぞれ別の法人として運営されている。東京・奈良・京都・九州の4つの国立博物館は独立行政法人国立文化財機構が運営している。ここに至るまで京博には紆余曲折の120年の歴史があった。

京博が設立された明治という時代は新しい息吹と活気に満ちていたものの、伝統的文化財にとっては受難の時代となった。尊皇運動と共に国家神道の形成をはかる中、神仏分離、廃仏毀釈が進められ、寺院や所有する文化財を軽んじる風潮が行き過ぎ、果ては寺院の文化財毀損、上知令による寺社の所領没収によって寺院の経済的基盤が損失し、文化財の維持も困難となる深刻な状況に陥った。その後、文明開化から落ち着きを取り戻すと、単なる西洋崇拝から和魂洋才といった日本固有の文化を見直す気風が取り戻され、日本文化の象徴的な存在として文化財の価値を再認識することとなった。

1897年、現在の文化財保護法の基本となった古社寺保存法の制定と前後して文化財の宝庫である奈良と京都に帝室博物館が設置された。これによって周辺の寺社から文化財の寄託を受ける体制が確立され、以降は所蔵者の身近な文化財相談窓口として、文化財保護行政の一旦を担うこととなった。ところが京博には他の国立博物館とは異なる運命が待っていた。1924年(大正13年)に宮内省改革として、宮内省から京都市に移管され、恩賜京都博物館として再出発を余儀なくされる。

1952年(昭和27年)には再び京都市から国に移管され、現館名となる京都国立博物館となった。その後、2001年に文化庁所管の独立行政法人国立博物館、2007年に現体制へと移行している。


広々とした展示室でさまざまな作品と出会う。なんと贅沢な空間だろう

京都市民に寄り添った120年

京都市に移管された恩賜京都博物館時代に起こった大きな変化は、目の前にいる京都市民のために、より利用者の目線に立ったサービスに努めようという姿勢が培われたことだ。これにより特別展覧会が活性化し、豪華な図録の刊行が盛んになり、特別展に関連した講演会の開催、さらに現在も続く夏期講座もこの時よりはじまり、列品講座は土曜講座として現在も行われている。こうした市民に寄り添った努力は市民からの支援として、1953年(昭和28年)に支援団体「清風会」の設立へと繋がることとなった。

戦後、国際観光都市として京都が発展する中で、海外からの来場者に向けて、いち早く英文の作品タイトルをすべての解説に併記するようになった。こうした姿勢は平成知新館の開館にあたり、日本語に加えて英語・中国語・韓国語の音声ガイドの導入にも繋がることとなり、昨今のインバウンド対応に追われる他の美術館・博物館に先んじての顧客サービス対応を可能にしている。この利用者に寄り添う姿勢は同館の研究活動にも見られる。

1980年(昭和55年)より京都の寺社を調査して社寺調査報告書を作成しているが、この調査では蔵の中の作品をすべて拝見するのが基本となっており、この成果を所蔵者の協力により展覧会に活かし、京都の新たな魅力を発見する機会としている。と同時に、所蔵者にとっても所蔵作品の価値を認識する機会となり、文化財保護の観点から重要な活動となっている。


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時岡碧(ライター)。日本女子大学卒業後、写真IT企業に勤務。趣味の写真は趣味というものの、玄人も認めるカメラが愛機という ”カメラ女子 ”。今回の取材を通じて、「本物」であることに触れるとともに、「まがい物は淘汰される」という厳しさも知ったという