はじめに

みなさんは「横浜」にどのようなイメージをお持ちだろう。やはりはじめに思い浮かぶのは “みなとまち” だろうか。日本が開国する上で重要な役割を果たした歴史の町、中華街をはじめ世界中の人々が行き交う国際都市、国内はもちろん海外からの人々も受け入れる観光都市、都市の機能と人々の暮らしが融合した理想的な街…、実に多彩な顔を持つのが横浜の魅力と言えるだろう。

そうした中でこのところ、横浜に『アートの街』というイメージを重ねる方が少なからず増えてきている。あえて説明することもないとは思うが、やはり、そこには『横浜トリエンナーレ』、そして『横浜美術館』が欠かせない存在として、人々にインパクトを与えている。

第二回目となる『Weekend Museum』は、アートが大好きで、横浜とは学生時代から縁が深かったという、歌手・ヴォーカリストの茂木ミユキさんと、アートの街としての横浜の魅力を探しに横浜美術館を訪ねる。


シンメトリーな外観が印象深い横浜美術館

横浜博で誕生した横浜初の美術館

“みなとみらい”には横浜ランドマークタワーをはじめ、横浜のイメージを作り出しているさまざまな施設があるが、文化施設として、横浜市民のみならず、横浜を訪れる多くの人々に親しまれているのは、やはり横浜美術館と言えるだろう。

ところで横浜美術館は一体いつからあの “みなとみらい” に立っているのだろう。横浜美術館がお目見えしたのは、1989年(平成元年)に「みなとみらい21」地区において、横浜市制100周年、横浜港開港130周年を記念して開催された「横浜博覧会」(会期:1989年3月25日~10月1日)のパビリオンのひとつとしてだった。


美術館へのアプローチとなる「美術の広場」

博覧会期間中は中世から近代までの美術を展観する「メトロポリタン美術館名品展 ーフランス美術500年ー」、世界中のチェース・マンハッタン銀行のオフィスの壁に飾っている作品を一堂に集めた「ニューヨーク・ニューアート チェース マンハッタン銀行コレクション展」が開催され、好評を博した。

博覧会が終了し、各パビリオンが撤去される中、横浜美術館は開発当初からの予定通り「みなとみらい21」地区の最初の恒久施設として、そして横浜市の文化的シンボルとして、1989年11月3日に正式に開館した。それまで横浜市には “ギャラリー“ はあったが “美術館” はなく、市民から美術館開館を望む声はあった。そうしたことから1980年代はじめから美術館建設にむけてコレクション収集をはじめ、開館に至ったという。

横浜美術館は「みなとみらい」に建ったのではなく、横浜美術館を起点に「みなとみらい」へと発展していったと言って差し支えないだろう。そして、横浜美術館は2019年に開館30周年を迎える。

1万1,000点を超えるコレクション

学生時代は、大学のアカペラサークルで横浜や桜木町の駅前でストリートライブをやっていた事もあり、横浜には頻繁に訪れ、横浜美術館にも何度も足を運んだという茂木さん。「横浜美術館の印象はやはり現代美術ですね。館内がとても広く、ひとつひとつの作品の迫力がよりスケール大きく感じられます。現代美術の作品がより映える美術館だと思います」と語る。

現在、横浜美術館では原則として年間4回の企画展を開いているがこれまで奈良美智や森村泰昌、李禹煥、蔡國強といった世界的に人気の高い現代美術作家の展覧会を精力的に開催しており、横浜美術館が現代美術の印象が強いことは確かだ。しかし、同時にロバート・キャパのように写真にフォーカスした企画展や、横山大観、下村観山といった日本画家の個展、ゴッホやターナー、ドガといった西洋絵画の展覧会なども行っており、現代美術にのみ偏ることのないバランスの取れた展開がなされているとも言える。

こうした企画展内容に影響しているのが、横浜美術館の所蔵作品の構成にありそうだ。横浜美術館では所蔵作品の中から、年間3期にわけて展示する「コレクション展」を開催している。「横浜美術館コレクション」には、ダリやマグリット、セザンヌ、ピカソなどの近代の作家や幕末明治以降の横浜にゆかりの深い作家の作品など、19世紀後半から現代にかけて、1万1,000点を超える国内外の作品を所蔵している。

幅広い構成の横浜美術館コレクションだが、このコレクション全体の実に30~40%にあたる4,200点が写真コレクションとなっている事は意外にしられていない。横浜では1862年(文久二年)に商業写真館が開かれており、日本における写真発祥の地のひとつであることにちなみ、写真コレクションにはダゲレオタイプの写真や函館でサムライを撮った写真、第一次世界大戦を撮ったものなど、写真の初期の頃から荒木経惟や石内都などの現代写真家まで幅広く作品を収集しており、写真史を語れるほどのコレクションと言える。この事からコレクション展では写真に関連した展示が充実している。

横浜美術館は日本画にも力を入れている。横浜は日本美術院を興すなど、美術史家として近代日本の美術を牽引した岡倉天心(本名は覚三)の生誕地であり、下村観山をはじめとした日本美術院の作家や数々の日本画家の作品を収蔵している。また、横浜・本牧に三溪園を設立した実業家・原三溪(本名は富太郎、三溪は号)が支援した今村紫紅をはじめとした作家の作品も収蔵している。

このようにコレクション展が充実しているのも、横浜美術館の美術館としての実力のなせる技といえるだろう。


「2016年度 コレクション展 第2期」。手前には熊井恭子《叢生’99》、中央奥には下村観山《小倉山》が。充実したコレクションならではのドラマテックな展示だ


コレクション展では新たに収蔵した作品の展示も。作品は福田美蘭《風神雷神図》