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リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で企業価値の向上 求められる多様なニーズに対応したオフィスビルのリノベーション

顧客の経営課題に寄り添いながら数年後のニーズを顕在化させる

──信頼できる外部パートナー企業と連携することで、企業に大きな効用が生まれている事例があればぜひ教えてください。

 外部パートナー企業と連携による企業にとっての大きな効用とは、例えば不動産仲介業者が、単発的な不動産仲介に終わることなく、企業経営者の悩みや要望に応え、CREに関する中長期的な経営課題を明確にしながら、最適なソリューションを提供していくことによって受ける満足感であると思います。
 私は若い頃に信託銀行で法人向けの業務用不動産仲介に従事していたのですが、そこに彼こそが不動産仲介のプロだという先輩が一人いました。当時はCREという言葉こそありませんでしたが、その先輩は、目の前にある売買情報のマッチングにより取引を成約させるだけではなく、一度取引したこれぞという顧客企業の役員などのキーパーソンに継続的に接触しながら、顧客の属する業界の動向、同業他社の動き、税務、法務問題なども含めて、CREに関する長期的な相談に応じていました。
 例えば3、4年後に検討しているある設備機器メーカーの支店の移転ニーズに対して、移転先立地の考え方、移転後の現支店の売却、資金繰りなどの相談サービスを継続的に提供していました。文字通り顧客にとってパートナーと呼べるような営業、マーケティングを展開して多くの顧客の信頼を得て、結果的に顧客から「あなたにすべてお任せします」と言われてコンスタントに大きな取引をまとめていました。誰にも簡単に真似することはできませんが、CRE戦略におけるサービス提供側のプロのあり方を考えるとき、私は真っ先のこの先輩のことを思い出します。この企業にとってもこの先輩との長期的な関係構築により受けた効用は大きかったのではないかと思います。サービス提供企業としてはこのような人材を育てる必要があります。

納得感のある企業価値への影響度評価によって経営トップのCREへのコミットメントを促す

──企業価値向上のためのCRE戦略では、経営トップのコミットメントが不可欠です。経営者がCREに関して持つべき視点にはどのようなものがありますか。

 経営者は、企業価値向上に資する行動をCRE部門に期待するものですが、そこでCRE担当者は企業価値が向上するとはどういうことなのかが明確に示さなくてはなりません。まずCRE戦略の達成度を測る定量的な視点についてお答えします。
 企業価値、事業価値や不動産価値の評価方法には大きく、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの3つの手法があります。何より不動産に関連して重要なのは、不動産から生み出される将来キャッシュフローの現在価値で価値を表すインカムアプローチ()です。簡単な式で書けば、収益価格=(収益-費用)/還元利回り、となり、この式において、収益を最大化しつつ、費用を適切に効率化して削減し、還元利回りを低くすることで、価値の上昇が得られます。
 収益の向上のためには、企業の全体戦略に沿った不動産の有効活用が一つのポイントになります。近年重視されているテーマでいえば、従業員が働きやすい職場環境や利用者満足度が高いファシリティを通して生産性を向上させることは収益増につながります。働きやすいファシリティは結果的には企業ブランドの向上にもつながり、それにより優秀な従業員が集まることで優れた新製品開発や業績向上が期待されます。
 費用の効率化・削減では、ICTの活用がまず重要なポイントになります。先ほども述べたように、ICTシステムがオーバースペックにならないように注意しながら、すべてのCREを、ICTを使ったデータベースで把握し、管理する体制整備に努めるべきです。そのうえで得られたデータによるベンチマークを用いて、日々の運営管理を見直すことで、費用を削減することが可能になります。例えばオフィスを1日3回清掃していた場合、明らかに過剰なコストが発生しています。逆に3カ月に1回しか清掃しないと明らかに手を抜きすぎです。場所に応じた適切な回数を含む掃除の品質を決めるとともに、その品質と適正なコストとのバランスが求められます。そのベストの組み合わせを求めるときに、データベースによって得られた社内外のベンチマークが役立ちます。
 還元利回りはキャップレートと呼ばれる、価格を求めるための利回りですが、簡単にいえば、他の資産の収益性とリスクとの比較で対象不動産から期待される収益率とも言えます。還元利回りは上の収益価格の式に当てはめると、小さければ小さいほど価格は上がりますので、他の資産との比較でより多くの投資家に選ばれるような資産にしていく必要があります。企業評価、事業評価の場合は、WACC(加重平均資本コスト)といわれるその企業独自の割引率が用いられます。
 CRE部門の人のみならず経営トップの人も、企業価値や不動産の評価手法に基づいて、CRE戦略を実施することによって不動産価値や企業価値にどう影響するのかということを実際に数字で検討する必要があります。例えば、ある資産の売却によって貸借対照表がどう変動するのか、それによりROA、ROE、ROICなどの経営指標はどう動くのか。そしてそれが株価にどう影響し、最終的に企業価値にどう影響するのかを検討するのです。

──CRE戦略が具体的にどれだけ達成されているかについて、他に経営者が強く関心を持つべき視点はありますか?

 私は、CRE戦略の達成度を測るためには、大きく7つの重要な視点があると考えています。まず、第1は、経営者がCREに対していかに関心が高く重要視しているか、コミットしているかという視点です。これが一番重要で、これがなければ、CRE担当者の努力は報われません。経営全体で考えるべき、CREに関する財務やコンプライアンス等の問題もこれに含まれます。第2は、組織の視点です。改善運動や物品の大量購買のためには、組織を一つにまとめる必要があります。そのため、経営をコントロールできる関連会社を含む全社のCRE情報を一括して扱う組織、部署が必要です。第3と第4は、上記で述べたCRE関連情報を集約し、実際に利用するための情報システムとCRE人材の育成の視点です。この第2から第4の視点は、まとめてCRE戦略を推進するための基礎環境課題と言えます。次の第5から第7は、CRE戦略の実務段階の視点です。第5は、経営の全体戦略と現状のCREの状況との整合性を検討し、不要な不動産の売却・賃貸や必要な不動産の購入・賃借などの計画を立てる段階の視点です。これにはプロのコンサルティングが必要な会社も多いと思われます。また、第6は、第5で計画されたプロジェクトについて、実際に売買、賃貸借、建築工事などを実行するトランズアクションマネジメントの視点であり、最後の第7は、第6で実際に利用することが決まったCREに関するファシリティマネジメントの段階の視点です。これには、主に施設を物理的、機能的に維持するコストの課題と、その施設を使っていかに生産性を上げるかという課題があります。企業はこれらの視点について、それぞれのあるべき姿について小項目を設定し、詳細にチェックして理想に近づけていく必要があると思われます。

──企業は中長期的な経営戦略の中軸の一つにCREに関する戦略をすえていくべきであり、そのためには経営トップのコミットメントや、外部パートナー企業と連携した専門組織の拡充が不可欠だというお話は、多くの読者にとって参考になるものです。ありがとうございました。

※将来獲得される利益、キャッシュフロー、配当を現在の価値に還元評価し、企業価値・事業価値を算定する方法。

Profile

明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科特任教授
大 和不動産鑑定株式会社 エグゼクティブフェロー

村木 信爾

1981年京都大学法学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。不動産部門各部、シンガポール支店、住信基礎研究所出向などを経て、2008年から大和不動産鑑定㈱にて不動産鑑定、不動産コンサルティング業務に携わる。また、明治大学ビジネススクール特任教授として、CREマネジメント、プロパティマネジメント、不動産プロフェッショナルサービス論、不動産価値分析論などを講じる。米国ワシントン大学ビジネススクールMBA、不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS。著書に『ヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価』(共編著、同文舘出版)、『ホテル・商業施設・物流施設の鑑定評価』(編著、住宅新報社)などがある。

バックナンバー

  1. vol.14
    変革の時代に日本企業の強みを生かす
    CRE戦略を通した「稼ぐ力」の向上
    今後10年の企業ビジョンとCRE戦略の重要性
    (冨山 和彦氏)
  2. vol.13
    企業価値向上のカギを握る
    CREプロフェッショナルの社内育成
    社内外の専門家のネットワークを最大限に活用する
    (村木 信爾氏)
  3. vol.12
    企業価値を高める
    CRE戦略の一環としての
    ワークプレイス改革
    (齋藤 敦子氏)
  4. vol.11
    中堅中小企業が今取り組むべきCRE戦略とは
    不動産の棚卸しから、
    事業継続、相続・承継問題まで
    (平川 茂氏)
  5. vol.10
    リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で
    企業価値の向上
    求められる多様なニーズに対応した
    オフィスビルのリノベーション
    (河向 昭氏)
  6. vol.09
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス・レポート
    クラウド化がもたらした加速する社会基盤。
    今の企業価値を考える。
  7. vol.08
    企業価値向上のカギとなる
    クラウド導入で進めるシステム改革
    顧客のビジネス価値を高める企業姿勢
    (保科 実氏)
  8. vol.07
    クラウドを利用した動産管理と企業価値の向上
    「e-Leasing」と「CRE@M」が目指すもの
    (長谷川 善貴氏)
  9. vol.06
    環境保全しながら
    経済合理性のある土地活用を
    (西村 実氏)
  10. vol.05
    不動産を流動化させて経営の劇的な改善を
    バイアウト投資市場からみた企業のCRE戦略
    (南黒沢 晃氏)
  11. vol.04
    現在において考えるべき
    リスクマネジメントとCRE戦略
    (渡部 弘之氏)
  12. vol.03
    企業の成長に欠かせないM&A戦略。
    CRE(企業不動産)の位置づけが重要に
    (大山 敬義氏)
  13. vol.02
    未来に向けたCRE戦略
    外部の専門企業との連携が鍵に
    (百嶋 徹氏)
  14. vol.01
    不動産市況が好転した今年こそ
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    (土岐 好隆氏)