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企業価値を高めるCRE戦略の一環としてのワークプレイス改革

改革に欠かせない部門を越えたプロジェクト型の推進組織

──ワークスタイルやワークプレイスの変革という課題について、個々の企業間、あるいは経営層と現場の社員の間には意識のギャップのようなものをお感じになることはありますか。

 私たちはワークスタイル変革のためのワークショップをお客さま企業で開かせてもらうことが多いのですが、そういう場で議論すると、経営層、ミドル、若手とそれぞれの感じている課題が違うのがわかります。経営層は熱意をもって会社を変えようとしていますが、現場のことがよくおわかりにならない。ミドル層は数十年来の習性で、自分たちの働き方を容易に変えられません。むしろ危機感をもっているのは若手層です。企業活動がグローバルに展開されるいま、中途採用が少ない、外国人社員が少ない、管理職の女性が少ないといった多様性を欠落したままでは、これからの国際競争に勝てないという危機意識が強いのだと思います。
 業界によっても温度差があるように思います。例えば食品業界などは、今後、世界にさまざまな商品を売っていかなければいけないので、海外現地の消費者の生活習慣やライフスタイル、その変化に敏感です。それぞれの地域の商習慣を学び、外国人社員も積極的に受け入れています。ダイバーシティ&インクルージョンという言葉が数年前からいわれるようになりましたが、その取り組みでは業界間、企業間でかなりの差があるように感じます。

──経営トップのコミットメントと同時に、働き方やオフィス改革の原動力になるプロジェクトの存在も重要になりますね。

 単に流行りだからといって、在宅勤務やテレワークの制度を導入したり、固定席を廃したフリーアドレスのオフィスを導入しただけでは、働き方は変わりません。まず考えるべきなのは、働く人たちがどういう働き方やワークプレイスならより効率的・効果的に仕事を進められて、より豊かにコミュニケーションができるのかということ。それを経営トップから一般社員まで全員で、かつ部門横断的に議論することが重要です。そのうえで、自社の業務にふさわしいスタイルを選択すべきなのです。こうした議論を通して、自社の組織文化はどうあるべきなのかという哲学が生まれてくるはずです。
 現実には、人事制度を考えるのは人事部、ITインフラやセキュリティを考えるのは情報システム部門、オフィスを移転したり設計したりするのは総務部や不動産管理部の仕事、というように担当部署がバラバラに別れてしまっています。それでは、せっかく制度や設備を導入したのに誰も使わないということになりかねません。やはり、ワークスタイル・ワークプレイスの改革には、部門を越えたプロジェクト型の推進組織が不可欠だと思います。

感性豊かな「ワークスタイル」「ワークプレイス」とは

──より創造性のある働き方の実現のためには、社員の意識変革と同時に、強力なリーダーシップをもって進められるワークプレイスづくりが必要だということがよくわかりました。ここでいう創造性のある働き方とは、感性を豊かにする働き方という言葉でも言い替えることができると思います。

 人間はみな生まれながらにして優れた感性をもっているのに、それが大人になると失われてしまうというのはよくあることです。もともとは持っている豊かな感性を仕事にどう生かすか。そのためにはたえず感性を刺激する組織文化やワークプレイス、そして社員の感性を常に駆り立てるような経営トップの存在が重要になります。
 ワークプレイスでいえば、組織のヒエラルキーをそのまま反映したような「島型対向型オフィス」や、部門ごとに収納庫や壁で仕切られたオフィスは、けっしてクリエティブ・オフィスとはいえません。そもそも環境心理学的にいえば、扉や壁など、そこから先は入ってはいけないという遮蔽物があると、人の行動は萎縮してしまうものです。扉が常に開いている、壁はあるが半透明でその先の様子が見えるというのであれば、逆に人の感性は開放的になります。
 例えば管理職がオフィスの真ん中にいて、その周りに立ち机を設置し、そこで従業員が自由に議論できるようなオフィスであれば、自然に人が集まり、コミュニケーションを取りやすい雰囲気が醸し出され、管理職にも多くの気づきが生まれ、適切なアドバイスができるようになります。管理職や経営者と、一般社員の間の壁を取り払うことで、全員が経営に対する関心をもち、意志決定に参加できるようになります。
 日本でフリーアドレスが広がったのは1990年代半ばです。社員がどこでも自在に仕事ができるという触れ込みで、その後の数年間は一種の流行りのように導入する企業が増えました。それから20年経ち、従業員の創意工夫を引き出し、働き方を進化させ、企業価値を向上させている企業がある一方、新しいツールは次々に導入するのに、働き方や組織文化は昔のままという企業もあります。この差は大きく、さらにこれからの20年にはもっと開いていくでしょう。

ワークプレイス改革を支える総合不動産サービス企業の役割

──あくまでも、重要なのはツールだけではなく、その根底にある考え方だということですね。

 これからは職場にAIやロボットが当たり前のように存在し、人間はそれと共存していく時代になりますね。だからこそ、いま改めて、「人は何のために働くのか」を考えざるをえません。「AIやロボットにはできない、自分の仕事は何なのか」と。いま各企業が取り組む働き方改革は、その意味で人々の働き方をいったん棚卸しして考えるよい機会だと思います。
 私たちコクヨは、渋谷や二子玉川でも、オープンイノベーションの場の仕掛けづくりに関わってきました。不動産デベロッパー、テナント企業、街の人びとなどが協業しながら、新しい街づくりとオフィスづくりを連動させた試みです。三菱地所グループにも新丸ビルのスタートアップ拠点「EGG JAPAN」などの試みがありますね。このように、オフィスづくりを通して日本社会にイノベーションをもたらすためには、今後、不動産デベロッパーの役割はますます重要になると思います。
 例えば、子育てや介護をしながら働きつづける人が増えてくると、地域と連携した託児所のようなサービスがついているオフィスビルに関心が高まるのではないでしょうか。そういうサービス一体型のオフィスを提案できるのも、不動産総合サービス企業ならでは。そういうお仕事にこれからも期待したいです。

──たしかにそうしたニーズは日増しに高まっています。企業はいまあらためてCRE戦略の一環としてワークプレイス改革を位置づけようとしています。また、新しい働き方の実現のためにも、物理空間としてのオフィスができることはまだまだあります。こうした課題を解決するソリューションをこれからも提供していければとあらためて思いました。本日は貴重な示唆をいただきありがとうございました。

写真提供:コクヨ株式会社

Profile

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 主幹研究員
(一般社団法人)Future Center Alliance Japan 理事

齋藤 敦子

コクヨ株式会社に入社後、設計部でワークスタイルコンサルティングからコンセプト作り、空間設計などに従事。その後、同社の研究/事業開発部門に異動し、働き方や企業経営の視点でワークプレイスの研究やコンセプト開発を行っている。また、次世代のワークプレイスモデルの企画や、フューチャーセンターなどの構築支援にも携わる。未来の働き方をコミュニティーやメディアで共創しながら研究・実践するなど、多方面で活動中。

今回の取材記事は、当社ビル営業部スタッフがアドバイザーとして参加し、
企画内容に反映しています。

三菱地所リアルエステートサービス株式会社
ビル営業一部 一課長

濱岡 修

2006年入社。数多くのビル移転プロジェクトに関わり、豊富な知識で顧客へのコンサルティングを行うスペシャリスト。

バックナンバー

  1. vol.14
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  3. vol.12
    企業価値を高める
    CRE戦略の一環としての
    ワークプレイス改革
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  4. vol.11
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  5. vol.10
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  6. vol.09
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    CREカンファレンス・レポート
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  7. vol.08
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  9. vol.06
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  10. vol.05
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  11. vol.04
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    リスクマネジメントとCRE戦略
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  12. vol.03
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  13. vol.02
    未来に向けたCRE戦略
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  14. vol.01
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