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企業価値向上のカギとなるクラウド導入で進めるシステム改革 顧客のビジネス価値を高める企業姿勢

省エネ、BCP、バリューアップ──変化するリノベーション・ニーズ

──リノベーション案件全体を通して、近年のニーズの変化をお感じになることはありますか。

 以前はビルの省エネ対策強化が重要な関心でしたが、2011年の東日本大震災以降は、BCP(事業継続計画)対策が焦眉の課題とされるようになりました。地震で停電が発生した場合の対策として非常用発電装置を備え付けたり、津波や集中豪雨対策のために止水板を取り付けるといった対策、さらに超高層ビルでは長周期地震動への備えも関心を呼んでいます。
 省エネ対策については建物の運用でずいぶん改善されてきたとはいうものの、世界的に気候変動対策への要求は厳しくなる一方で、日本のオフィスビルにももう一段の努力が求められるようになりました。例えば、投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設など複数の不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配するREIT(リート)物件では、特に海外投資家の間で、ライフサイクルを通して建築物の総合的な環境評価を測る指標への関心が高まっています。ここでは「GRESB」(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)が主要な指標になっており、J-REITでもGRESB取得の気運が高まっています。
 既存ビルについての環境認証基準としては、国内では国交省の「BELS」(建築物省エネルギー性能表示制度)が有効です。ビルオーナーはまずは、館内照明をLEDに切り替えるなど、できることから着手し、BELSのランクを上げる努力をされています。

──三菱地所設計というと、三菱地所が保有する高層ビルの大規模リノベーションがすぐに思い浮かぶのですが、それだけでなく、中小ビルのリノベーションにも取り組んでいるようですね。

 築年数が経過した中小規模のビルを、現在のニーズに合わせ再構築するために、三菱地所グループはビルの再生事業※を進めています。築年数の経過等により競争力が低下し運営が難しくなっている中小規模のビルを一定期間賃借し、リノベーションや耐震補強を実現し、ビル再生、価値の維持を図ろうとするものです。こうした事業スキームの中で当社は、調査や設計監理をサポートしています。

※ビルの再生事業のスキームについてはこちらからご覧いただけます。 >

リノベーションを阻む「旧38条」「保育所コンバージョン」問題

──リノベーションを進める際に、法律上、問題になっていることはありますか。

 最近よく話題に上るのが「旧38条問題」というものです。以前の建築基準法では、建築基準法に適合しない建築物を建てる場合、同法38条の規定により大臣認定を受ければ建設が可能とされていました。ところが、2000年に当時の38条そのものが削除され、大臣認定を受けていた建築物が「既存不適格」(建設当初は適法に建てられた建築物が、その後の法改正等により、 現行規定に適合しなくなっているもの)とされるケースが多発するようになりました。増改築を行う場合は、同時にこの問題を是正する必要があります。そのままでは、それらの建物の増改築やリノベーションが進みません。こうした状況が、既存ストックの活用や災害に強い建物の整備を阻害していると指摘する声も強まっています。
 現在、国交省などでこの問題にどう対応するか議論が進んでいると聞いていますが、早急の改善を望みたいところです。
 また「保育所問題」といわれる問題もあります。待機児童問題や保育園不足に対応するために、既存の古いビルを保育所にリノベーションしたり、建物の一部を保育施設にコンバージョン(用途変更)するという動きがあります。ところが保育所は特殊建築物扱いになるので、一部変更でも改修対象外の部分まで遡及されるため、改修が進まなかったり、改修コストが膨大になるという問題が指摘されています。私どもはこうした規制を緩和して、既存建築物の改修や用途変更による有効活用が進むことを期待しています。

多様化するニーズに対応したリノベーション計画でCRE価値の向上を

──リノベーションすることでビルの価値、ひいては企業不動産や企業そのものの価値はどう向上するかをあらためて考えたいと思います。例えば、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資をすることで株主の価値が上がる。CSR(社会的企業責任)を果たせて、企業価値も向上する。社員のリクルーティングにも好影響を与える──ということがよく言われますが、オフィスビルのリノベーションにも似たような効果があると思います。リノベーションによって企業不動産の価値を高めるために、気をつけるべきポイントは何でしょうか。

 どこに投資をすると効果的かということで言えば、トイレ等の水回りの改修を行うことでビル全体のバリューが上がるという考えのお客様は多いと思います。水回りを改修しているビルとそうでないビルは、テナントを集客する際にも差が出てきます。
 こうした機械設備の更新だけでなく、それ以外の方法でも効果が上がるという事例を一つご紹介しましょう。東京・品川地区に建つとある古いビル。もともと電算センターとして使われていたもので、外装が地味でした。ところが最近の品川地区は新しいビルがどんどん建つようになって、デザイン的に見劣りするようになってしまった。テナントも他所のビルに移ってしまう。そこで、外装デザインを一新するリノベーションを実施したところ、賃料も少し高く設定でき、かつ新しいテナントも獲得できるようになりました。
 リノベーションというよりも、これはコンバージョンの例ですが、ある産婦人科の病院オーナーが事務所ビル一棟をまるごと購入し、それを用途変更して全面的に改修し、複数の診療科がテナントとして入る総合クリニックビルへ改修を進めている事例があります。水回り、救急車対応など病院ならでは改修ポイントはありますが、大胆なコンバージョンを通して不動産価値を高めつつある好例です。
 最近は、テナントがITベンチャー企業などの場合、内装は自分たちの用途や好みに応じて自由にやりたいので、むしろスケルトンの状態で受け渡ししてもらったほうが好都合とおっしゃるケースも増えています。
 以前は設備改修をメインに実施しておけばよかったのですが、立地やテナントのニーズによっては、ビルのデザインを変えたほうがいい、簡単な改修によって中小の新しい顧客を開拓したほうがいいというように、リノベーションのバリエーションが増えていることはたしかです。

──こうした市場の変化を敏感にキャッチしながらリノベーション計画を立てることが、オフィスビルの不動産価値を高める上では重要なポイントになるということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

Profile

三菱地所設計
執行役員 リノベーション設計部長

河向 昭

東北大学機械工学部卒業。1987年三菱地所入社。建築設備の設計業務に従事。1999年より三菱地所リニューアル建築部所属。建物のリニューアル設計、建物調査・長中期修繕計画立案業務を経て、2014年より現職。リノベーション設計・建物調査・修繕計画立案・修繕工事費の見積調査等の業務実績は1,000件を超える。

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