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環境保全しながら経済合理性のある土地活用を 土壌汚染対策における認証制度と企業価値向上

「掘削除去」よりコストが安い原位置浄化法

──土壌汚染の対策にはどんな方法がありますか。

 土壌汚染対策には、暴露経路の遮断と土壌汚染の除去と呼ばれる二つの方法があります。暴露経路の遮断とは、特定有害物質をコンクリートやアスファルトで覆い、人が直接触れたり、地下水に漏出したりしないようにすることです。行政からの指示は暴露経路の遮断で済むことが多いのですが、実際には不動産を売る場合の経済的リスクを避けるために、土壌汚染を除去することが多いです。
 土壌汚染を除去する方法にも二つあります。一つは先に述べた「掘削除去」。汚染土壌を全部掘り返して、新しい土に入れ替えるもので、日本では8割方この方法が使われています。たしかに見た目はわかりやすいのですが、土地が広ければそれだけコストもかかります。深いところまで掘削すれば、技術的にも難度が高まります。
 もう一つは、土地を掘り返さず、微生物の活性化や化学薬品を注入して特定有害物質を分解したり、分解できない重金属の場合はその場で不溶化する方法で、「オンサイト浄化」や「原位置浄化」と呼ばれています。コスト的に安価で、環境負荷も小さくて済むということで、欧米ではこちらのほうが主流になっています。広い土地でスケールメリットが出れば、コスト的には原位置浄化は掘削除去の半分以下で済む場合もあります。微生物による浄化はかつては時間がかかっていたのですが、近年はそれも短縮化されつつあります。
 原位置浄化は米国にはたくさんの事例がありますが、残念ながら日本ではまだ認知度が不足しており、これから広がる方法だと思います。掘削しても十分開発費用が回収できる土地であれば、掘削でもよいのですが、不動産市場に登場するのはそういう土地ばかりとは限りません。今後、第三者機関が土壌汚染の状態を適切に評価するようになれば、原位置浄化という方法がもっと普及していくだろうと考えています。

第三者機関による認証制度始まる

一般社団法人土地再生推進協会(APR)が昨年設立され、さっそく第一号の認証を発行したそうですね。

 土壌汚染対策が行われるのは土地の売買が一つのタイミングですが、ほとんどが民間同士の自主的な対応となっています。しかも、汚染があるかないかを「白」か「黒」かだけで判断する例が多いように思います。このままでは、経済合理性のある土地活用という観点からみたときに、課題が多すぎます。
 老朽化した工場や施設を解体し、地域の再生や防災対策に役立てる動きは今後ますます強まるでしょう。ただ、その前に立ちはだかるのが土壌汚染問題です。土壌汚染は、環境だけでなく、土地取引や会計処理にあたっての土地の価値にも深く影響する問題ですから、環境技術はもとより、不動産、法務、財務、会計、リスク管理などの専門家のアドバイスが必須になります。APRはこうした専門家の知見やノウハウをもとに適切な環境保全を行いながら、過度なコストをかけずに土地を有効利用していく動きを支援しています。
 土壌汚染の状況について、土対法に準拠しつつ、健康被害のおそれがなく、土地利用において安全な状態であることを第三者の専門家が確認し、汚染が確認されないプラチナから管理された状態のブロンズまで4段階の認証を提供しています。(※3)土対法で特定有害物質に指定されていないものの、実際の土地取引で問題となる油やダイオキシン汚染についてもその対象にしています。
 つまりAPR認証制度は土地取引時に必要な、土壌汚染についての共通の指標になりうるものです。建物の環境性能を評価するシステムに「CASBEE」がありますが、APR認証はその土地版といってもよいかと思います。認証制度を利用することで、土地を資産としてもっている企業は、その価値を売り手に説明しやすくなります。将来土壌汚染が発見されるかもしれないという不安が払拭されるというメリットもあります。

早め早めの対策が、経営リスクを低減する

──土壌汚染についてこれからの企業経営者はどう考えるべきでしょうか。

 土壌汚染は時間とともに拡散する恐れがあり、拡散すると対策費用も膨らむことから、把握するタイミングは早ければ早いほうがよいのは明らかです。土地売買、特に売却を決断したときではむしろ遅く、操業中から調査・分析を始めるべきです。工場を稼働したまま、土壌汚染を調べる方法はいくらでもあります。将来いざというときに、どの程度の費用がかかるかを見積もることもできます。つまり経営的なリスクを減らすことができるというわけです。
 また、行政への届出などの手続きも早めにやっておくべきです。土対法には自主的に申請することで、行政主導の手続きに比べて、その後の手続きが企業のペースで迅速に進む条項も用意されています。
 かつては土壌汚染が発覚したらもうおしまいと考える経営者も多かったのですが、今は土壌汚染に関する解決策の知見も蓄積され、新たな認証制度も始まり、汚染とうまくつきあうことができるようになりました。ただ、専門の担当者を置くことができる大企業と違って、中小企業にはまだまだノウハウがたまっていません。
 中小の事業会社が土壌汚染問題に直面するのは、数十年に一回あるかないかでしょう。むしろ不動産仲介企業のほうがこの問題に取り組む機会が多いと思います。そうであるからこそ、土壌汚染で悩んでいる企業には、不動産ソリューションをもつ専門企業が正しく道案内をしていただくことが重要だと思います。そのアドバイス次第で、企業が虎の子のように大事にしていた土地を有効に活用する道が開けるのですから、その意義は大きいのです。

Profile

株式会社エンバイオ・ホールディングス
代表取締役社長

西村 実

 1981年大阪大学工学部卒業、大手化学会社研究員を経て、90年日本総合研究所に入所、創発戦略センター上席主任研究員を務める。このとき、土壌汚染問題に目覚め、00年に、土壌汚染改良、機器・薬剤提供、土地活用提案などを行うエンバイオ・ホールディングスに参画。2008年同社代表取締役に就任。グループ子会社、アイ・エス・ソリューションの代表取締役や、東京農工大学工学部非常勤講師も兼任。

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