• スペシャリストの智
  • リアルな現場
  • The Watch
  • OFFICE JOURNAL
  • 不動産の税金ガイドブック
  • APPRAISAL NEWS
  • 空室率レポート

ROE(株主資本利益率)向上のための企業不動産戦略 後編 未来に向けたCRE戦略外部の専門企業との連携が鍵

日本でも求められる専門家の育成。外部ベンダーとの人材交流も課題

──そこには、外部のCRE戦略の専門企業はどうかかわれるのでしょうか。

土岐
 不動産ビジネスは、設計開発、売買、テナント対応、維持修繕まで多岐にわたる仕事。多数の不動産をもっている企業は物件ごとにそれを行わなければならない。CRE部門とはいえすべての業務に精通しているわけではないので、足りない部分は外部のCRE戦略の専門企業のサポートを積極的に仰ぐべきだ。これまでは、CREソリューションというと、どうしても不動産の売却仲介や有効活用に伴う開発に終始していた。しかし、これからはCRE戦略を通してROEなど企業価値を最大化することが求められている。CRE戦略の専門企業もCREサポート自体でしっかりお金が稼げる付加価値が高いサービス提供を行うべきだ。
 日本の場合、大手不動産デベロッパー系のCRE戦略の専門企業には、潜在的に不動産業務をフルスペックで担える力がある。そうした企業が、提供する役務に見合った収益をとることで、より質の高いCRE戦略が可能になると思う。まずは、不動産会社が最初の一歩を踏み出してほしい。
百嶋
 これらからはCRE戦略を担う専門人材の育成も重要な課題になる。前述したCRE専門部署の設置は、人材育成面にも好影響を与える点に着目すべきだ。総務部門の中の管財業務ではなく、財務・経営に直結したCRE専門部署を立ち上げることは、CRE専門人材の職能評価につながり、その人自身のキャリアに価値がつき、モチベーションアップにつながる。
 さらに、専門人材の職能評価が定着すれば、人材流動化を促す。ひとつの企業のCRE戦略で名を上げた人材には、他社からも転職のオファーが舞い込む。つまり、優秀な人材がヘッドハンティングにより企業間を移動することは、業界全体のノウハウ向上に結果的につながるのだ。
 既に米国など海外では、事業会社と外部ベンダー間や事業会社間の人材移動が頻繁に起こっている。日本では、事業会社がCRE専門部署の設置を急ぐとともに、まずはアウトソーシングを契機に外部ベンダーとの人事交流から始めてみてはどうだろうか。例えば、若手スタッフをベンダーに出向させて修業を積ませる。事業会社側の戦略意図とベンダー側に蓄積される現場の実務知見を共有することで、CRE戦略の発展・進化につながっていく。

「宝の山がそこにある」経営トップを動かす決めぜりふ

──CRE戦略の重要性を、経営トップに理解してもらうためにはどうしたらいいのでしょうか。

土岐
 ROEやROAが低い企業をひとくくりにして調べたことがあるが、やはり不要不急の不動産をたくさん自社で抱えている会社が多かった。日本の経営者には不動産が好きという人が多い。それはいいのだが、目に見える企業資産に拘泥するあまり、その活用や株主価値を意識していないのは困る。逆にいえば、不動産活用ができればROE、ROAは確実に向上する。経営者に向けた決めぜりふは、「ほんとうに株主のための企業価値を向上させたいのであれば、いま不動産は宝の山ですよ」ということになるだろう。
百嶋
 CRE戦略を本格化させる上で、CRE部門の責任者は経営トップへのレポートラインを確保し、CRE部門の活動の成果を経営トップに直接理解してもらうことが不可欠だ。必ずしも不動産の専門知識を持たない経営トップから不動産に関わる報告を求められた場合、CRE部門は専門的知見に裏打ちされた説得力のある回答を迅速に返せるかがまず問われる。さらに同業他社とのベンチマーク情報も報告できれば、経営トップの関心を一層引くとともに説得力も増すだろう。このような地道な活動を積み重ねることも、経営トップからの評価・信頼を勝ち得るために重要だ。
 そもそも、不動産はその開発や活用が進むことで、周囲の景観・環境や交通・物流網、さらには地域の雇用や産業構造をも変えてしまう「外部性」を持つ。私有財産とはいえ、その意味で地域に根ざした準公共財的な性格を持つ唯一無二の経営資源といえる。だからこそ、社会性に配慮して活用していかなければならない。CRE戦略は、経済合理性のみを追求するのではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。企業が不動産をどう有効に活用しているかで、企業のブランドイメージも変わる。たとえ短期的な利益は得られなくとも、社会的価値の創出に邁進していれば、いずれは経済的リターンとしてその果実が返ってくる。これからのCREはCSR(企業の社会的責任)を実践するためのプラットフォームの役割を果たすべきだ。

Profile

ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員/
明治大学経営学部 特別招聘教授

百嶋 徹

1985年野村総合研究所入社、証券アナリスト業務および財務・事業戦略提言業務に従事。野村アセットマネジメント出向を経て、1998年ニッセイ基礎研究所入社。2014年から明治大学経営学部特別招聘教授。企業経営を中心に、産業競争力、産業政策、イノベーション、CRE(企業不動産)、環境経営・CSR(企業の社会的責任)などが専門の研究テーマ。日本証券アナリスト協会検定会員。1994年発表の日経金融新聞およびInstitutional Investor誌のアナリストランキングにおいて、素材産業部門で各々第1位。2006年度国土交通省CRE研究会の事務局を担当。国土交通省CRE研究会ワーキンググループ委員として『CRE戦略実践のためのガイドライン』の作成に参画、「事例編」の執筆を担当(2008~10年)。共著書『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』(東洋経済新報社、2006年)で第1回日本ファシリティマネジメント大賞奨励賞受賞(JFMA主催、2007年)。CRE戦略の重要性をいち早く主張し、普及啓発に努めてきた第一人者。

バックナンバー

  1. vol.18
    モノからコトへ
    消費行動が変化するなか
    企業価値と不動産はどうあるべきか
    (ロバート・フェルドマン氏)
  2. vol.17
    新世代型都市開発と
    これからの企業オフィス戦略
    (谷澤 淳一氏)
  3. vol.16
    クリエイティブオフィス戦略で
    新たなイノベーションを
    働き方改革を「場」の視点から再構築
    創造性を促すワークプレイスのススメ
    (百嶋 徹氏)
  4. vol.15
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス2017-2018・レポート
    2018年成長する企業の資質とは。
    企業体力強化に備える不動産戦略のポイント。
  5. vol.14
    変革の時代に日本企業の強みを生かす
    CRE戦略を通した「稼ぐ力」の向上
    今後10年の企業ビジョンとCRE戦略の重要性
    (冨山 和彦氏)
  6. vol.13
    企業価値向上のカギを握る
    CREプロフェッショナルの社内育成
    社内外の専門家のネットワークを最大限に活用する
    (村木 信爾氏)
  7. vol.12
    企業価値を高める
    CRE戦略の一環としての
    ワークプレイス改革
    (齋藤 敦子氏)
  8. vol.11
    中堅中小企業が今取り組むべきCRE戦略とは
    不動産の棚卸しから、
    事業継続、相続・承継問題まで
    (平川 茂氏)
  9. vol.10
    リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で
    企業価値の向上
    求められる多様なニーズに対応した
    オフィスビルのリノベーション
    (河向 昭氏)
  10. vol.09
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス・レポート
    クラウド化がもたらした加速する社会基盤。
    今の企業価値を考える。
  11. vol.08
    企業価値向上のカギとなる
    クラウド導入で進めるシステム改革
    顧客のビジネス価値を高める企業姿勢
    (保科 実氏)
  12. vol.07
    クラウドを利用した動産管理と企業価値の向上
    「e-Leasing」と「CRE@M」が目指すもの
    (長谷川 善貴氏)
  13. vol.06
    環境保全しながら
    経済合理性のある土地活用を
    (西村 実氏)
  14. vol.05
    不動産を流動化させて経営の劇的な改善を
    バイアウト投資市場からみた企業のCRE戦略
    (南黒沢 晃氏)
  15. vol.04
    現在において考えるべき
    リスクマネジメントとCRE戦略
    (渡部 弘之氏)
  16. vol.03
    企業の成長に欠かせないM&A戦略。
    CRE(企業不動産)の位置づけが重要に
    (大山 敬義氏)
  17. vol.02
    未来に向けたCRE戦略
    外部の専門企業との連携が鍵に
    (百嶋 徹氏)
  18. vol.01
    不動産市況が好転した今年こそ
    CRE戦略再スタートの元年に
    (土岐 好隆氏)