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 我が国企業は、2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に、大規模な自然災害や事故など想定外の緊急事態においても重要業務を継続または迅速に復旧させるための「BCP(事業継続計画)」の重要性を改めて痛感することとなった。その後も日本企業は、同年10月にタイ大洪水、16年4月に熊本地震など大規模災害に相次いで見舞われており、BCPの重要性はますます高まっている。今回のコラムでは、工場を例にとって、BCPの在り方をCRE戦略と関連付けて考えてみたい。次回のコラムでは、オフィスについて概略的に触れるとともに、全体のまとめを行うこととする。

工場構内における対策

 企業が災害により被災した場合、災害後にまず真っ先に行うべきことは、記憶が明確なうちに、災害対応における意思決定や行動のプロセスを迅速に振り返り、問題点・課題を抽出し、それを反映してBCPの改善・見直しを図ることである。さらに打つべき具体的施策の最適解は勿論企業によって異なるが、今回のコラムでは工場を例にとって施策メニューを整理したい。ここでは、コア事業を担う国内の中核工場について、震災を想定した施策を考える。
 まず最初に考えられるのが、工場構内におけるハード面の対策であり、建物の耐震性能や省エネ性能の強化、自家発電機能の新増設、機械装置の揺れを抑制する免震台の敷設などが挙げられる。
 さらに、製品・仕掛品・原材料など棚卸資産を積み増す方針をとれば、その保管倉庫を新増設する必要があるかもしれない。この場合、BCPで設定している目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)に相当する分の製品在庫を確保することが求められる。被災による棚卸資産損傷の回避に万全を期すならば、棚卸資産の保管場所は製造ラインが設置されている建屋以外とするとともに、保管倉庫にも耐震化を施すことが望ましい。さらに、リスク分散に一層の重点を置くならば、保管倉庫の工場構外での新増設も想定しうるだろう。
 これらの既存工場におけるハード面の施策は、不動産に関わるものが多く含まれ、CRE部門が不動産の専門的知見を活かして、経営層、事業部門、工場部門などの「社内顧客」によるBCP施策の意思決定・実行をしっかりとサポートしなければならない。

代替生産機能を整備する施策

 工場構内での施策は、基本的に既存の主力工場での事業継続を前提としているが、必ずしもそれを前提とせず、むしろリスク分散を重視して主力拠点の代替機能(バックアップ)を整備する施策、すなわち生産拠点の分散化について次に考えてみたい。
 拠点分散化の施策オプションとして、主力工場と同様の機能を持つ拠点を実際にデュアル(二重)に国内または海外に構築・配置するほかに、自社の他工場にバーチャルに主力拠点の代替機能を持たせ、緊急時にそれを速やかに稼働させるための訓練を重ねるという、いわばソフト面の施策も考えられる。この場合、原材料の手配や生産ラインの調整など緊急時の代替生産の手順をBCPで定めた上で、訓練の繰り返しにより、従業員間で緊急時の迅速な対応への意識付けを徹底することが重要となる。
 この手法は、不動産の取得を含む設備投資を新たに行い、リアルに拠点配置の二重化を図るのに比べ、コスト負担が極めて少ないというメリットがある一方、性質の全く異なる製品を生産する製造ライン間で代替生産機能を持たせることは難しく、主力工場の製品とある程度同種の製品を生産するラインを予め異なる拠点に保有していることが前提となる。
 例えば、車種の異なる自動車組立ライン間やデスクトップパソコン(PC)とノートPCの生産ライン間では、比較的容易に代替機能を持たせることができるとみられるが、クリーンルーム環境下で化学反応を精密制御する工程を伴う半導体や液晶パネルの生産ラインとPCの組立ラインの間では、同じエレクトロニクス製品と言えども代替機能を持たすことは不可能だろう。
 さらに拠点分散化を広義にとらえるならば、自社グループ内にとどまらず、外部企業への委託生産を確保・拡大し、アウトソーシングを戦略的に活用することも施策オプションの一つとなる。この場合、設備投資負担が要らない一方、自社生産に比べ収益性が低下するデメリットがある。

サプライチェーン全体での対策

 これまで述べてきた施策メニューは自社の供給体制の事業継続性に力点を置いたものだが、さらに自社が属するサプライチェーン全体の継続性確保に配慮した施策も必要となる。
 例えば、川上に位置するサプライヤー、調達から販売までの物流を担う物流ベンダー、さらにはサプライチェーンマネジメント(SCM)のITソリューションを提供するITベンダーに対して、緊急時の代替機能の整備などBCPの強化を要請することが挙げられる。

複数条件を総合評価する立地最適化が重要

 一方、合理的な企業による工場の立地選択では、内外の立地候補地について複数の条件を総合評価し、グローバルな視点から立地最適化が追求されると考えられる。これを筆者は「最適立地の戦略」と呼んでいる。
 比較検討すべき主要な立地条件として、①産業集積度(サプライヤーの集積や電力・工業用水・交通などインフラの整備状況)、②自社の既存事業所との近接性、③良質な労働力、④顧客(市場)との近接性、⑤土地利用の自由度、⑥税制優遇や補助金など立地に関わる国・自治体の政策、⑦知財保護の確実性、⑧為替・賃金、などが挙げられる。
 震災後には、事業継続性が重要な条件の1つとして加わったと考えられるものの、工場立地は必ずしもその要因だけでは決められず、やはり基本的には複数の立地条件を総合評価して意思決定されるとみられ、企業によって最適解は異なってくる。
 リスク分散や事業継続性のみを重視すれば、拠点配置の分散・二重化が最適解となるが、そのためには相対的に大きな設備投資が必要となり、さらに1か所で集中生産することによる規模の経済性や技術のブラックボックス化のメリットを失いかねない。企業が最適立地の戦略の中で社内拠点間の近接性を重視するのは、人的資源や技術を一定の距離的範囲内に集中するためだ。
 このため、拠点配置の二重化は、顧客からの強い要請がない限り、または高成長製品でない限り、実施されることは考えにくい。高成長製品であれば、新規立地での増産投資として拠点の分散化を図りやすく、それによって稼働率が低下することもない。

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