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地域コミュニティとの共生の視点

 次にCSRを踏まえたCRE戦略の在り方について考えてみたい。企業がCSRを実践するためには、多様なステークホルダーの応援・協力が欠かせないことを指摘したが、CRE戦略においては、とりわけ各種のワークプレイスやファシリティが立地する地域社会との共生を図り、良き企業市民として地域活性化に貢献する役割が重要だ。
 土地は地域に根ざした公共財的な性格を持ち、再生産することができない経営資源である。企業がそこに研究開発施設や工場、営業店舗、本社などを構築し、土地を開発・使用する段階において、地域社会の自然環境や景観に何らかの影響を与えるため、事業を行う上で地域コミュニティの理解と協力が欠かせない。そこでCRE戦略が果たすべき役割としては、地域社会の信頼を勝ち得るために、環境や景観に配慮した適切な不動産管理が必要条件となる。
 さらに物的な不動産管理にとどまらず、CREの空間としての利用価値を高める事業を行うことにより、CREを起点とした地域活性化や社会的課題の解決を図ることが何よりも重要である。これはCSRを実践することに他ならない。CREはCSRを実践するためのプラットフォームの役割を果たすべきだ。結果として雇用や税収の増加などの経済効果を通じて社会の活力向上、すなわち社会的価値が地域にもたらされる。環境や社会に十分な配慮を行う、高い社会性を有する企業が地域社会に集積することは、地域の中長期のサステナビリティー(持続可能性)向上につながると考えられる。

企業が地域社会で創出しうる社会的価値

 企業が自社の事業所が立地する地域社会で創出しうる社会的価値とは、どのようなものだろうか。

(1)開発・製造拠点等

 最初に製造業のケースを考えてみよう。まず、社会的課題の解決に資する製品を開発・生産する拠点の立地・操業により、地域の雇用創出や税収増といった経済効果を通じて、地域活力や行政サービスの向上をもたらす可能性があるだろう。
 また、地域の大学・高等専門学校(高専)・公設試験研究機関(公設試)や行政関連機関との産学官連携や、地域の中堅・中小企業との企業間連携による共同研究開発の推進を通じた、社会変革につながるイノベーション(新技術・新事業)の創出や地域人材の育成が挙げられる。
 さらに、企業が地元に立地する研究開発施設や試作工場などのファシリティを産学官連携や企業間連携における「オープンイノベーション」の場として活用したり、場合によってはファシリティの新増設を行うことも考えられよう。
 また、自社の工場・福利厚生施設などの跡地・未利用地の活用が考えられる。地元の自治体と協力・連携して、他社の事業所(工場、研究開発施設、営業店舗、本・支社など)を誘致することに加え、太陽光発電事業など再生可能エネルギー事業を展開したり、多様な業界の企業群および地元自治体と協力・連携して叡智を結集し、環境配慮型のまちづくりを目指した「スマートタウン」や「エコタウン」など「スマートコミュニティ」を構築するといったことも挙げられる。
 再生可能エネルギー事業の代表例としては、IHIが1978年に臨海の造船所用地として取得した鹿児島市七ツ島の約127 万㎡(東京ドーム約27個分に相当)に及ぶ広大な所有地に、国内最大級となる発電能力70MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設し、2013年11月に稼働開始した事例が挙げられる(総投資額は270億円)。
 また「スマートコミュニティ」の代表例としては、パナソニックが神奈川県藤沢市の約19万㎡の工場跡地に計画している「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」が挙げられる(総事業費は約600億円)。太陽光発電や蓄電池を備えた約1,000戸の住宅に約3,000人が暮らす計画であり、多様な協力企業との共同出資により2013年3月にタウンマネジメント会社を設立し、14年4月に街開きを迎えた(街全体の完成予定は2018 年)。さらに同社は、横浜市港北区綱島東にある約37,900㎡の事業所跡地でも、同様の次世代都市型スマートシティ「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」の開発を計画している(街開きの予定は2018年)。

(2)ショッピングセンター事業

 次に非製造業の事例として、地域社会と関連性の深い商業施設、例えば大型ショッピングセンター(SC)を開発・運営するケースを考えてみよう。まず、都市構造、土地利用、交通体系、防災などの視点を含む調和の取れたSCの開発計画の提案・実現は、地域社会に社会的価値をもたらすと考えられる。出店地域にふさわしい「まちづくり」のコンセプトを持ってコミュニティとの共生を図り、不動産の空間価値を高める視点が欠かせない。自治体の施策に積極的に協力すべく、まちづくりへの強い参画意識を持って開発計画を提案することが求められる。
 さらに出店後は地域住民にとって利便性の高い集いの場を提供することで、社会的価値が創出される。地域の雇用創出や税収増といった経済効果を通じて、地域活力や行政サービスの向上がもたらせる可能性もあるだろう。また東日本大震災を経て、防災拠点としてのSCの社会的役割にも期待が高まっている。
 これらの社会的価値の創出と引き換えに、SC事業者は店舗の集客力向上による売上高・利益の増加や人材確保といった経済的リターンを受け取り、企業価値向上がもたらされるだろう。さらに次の出店計画に対して、地域住民や自治体からの協力が得やすくなるということも考えられる。

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