経営トップが企業価値を最大化させるためには、個々の戦略の部分最適ではなく、CSR(企業の社会的責任)の視点を踏まえた上で、あらゆる経営資源の全体最適化を図る必要があり、CRE戦略もこの全体最適化のなかで決定されるべきであると第1回のコラムで指摘した。CRE戦略の実践においてもCSRの視点が不可欠であり、今回のコラムでは「CSRとは何か」を考察した上で、CSRを踏まえたCRE戦略の在り方について考えてみたい。

CSRはあらゆる経営戦略に対する上位概念

 2003年が「CSR元年」と言われ、CSRという言葉はここ10数年で急速に広まったが、企業不祥事は依然として後を絶たず、日本企業はCSRの在り方を問われ続けている。
 筆者はCSRの実践とは「企業の利益追求のプロセスに環境や社会への配慮を組み込む誠実な経営を継続的に行うことである」(注1)と考えるが、これは「事業プロセスを通じて社会的課題の解決という社会的ミッションに誠実かつ継続的に取り組み、その結果として利益追求を行うことである」と読み替えてよい。
 ここでの「事業プロセス」には、R&D・生産・販売などの事業戦略を担う企業活動にとどまらず、CRE、経理・財務、人事、ITなどの「シェアードサービス型」(注2)の企業活動、寄付行為などの社会貢献活動(メセナ)、省エネ・植林などの環境保全活動など、あらゆる企業活動が含まれると考えるべきだ。
 つまりCSRの実践においては、企業活動の一挙手一投足を「環境や社会への配慮」という「フィルター」にかけることが不可欠であると考える。あらゆる企業行動がCSRにより規定されるべきであり、これを経済学的に言えば、企業のとるべき利益最大化行動は、CSRという制約条件の下で利益最大化を図るための、あらゆる経営資源の全体最適解を求めることである。CSR活動と社会的ミッションそのものは、常にあらゆる経営戦略に対する「上位概念」と位置付けるべきだ。
 「マネジメントの父」と称されるピーター・F・ドラッカーは、1974年に刊行された名著『マネジメント』の中で「企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである」「社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、企業以外の組織の機能である」と指摘し、「自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割」の重要性を説いた。
 すなわち、事業活動を通じた社会問題解決による社会変革(ソーシャルイノベーション)は、営利企業、非営利組織、行政など営利・非営利を問わず、あらゆる組織の社会的責任(SR:Social Responsibility)であると言えるのだ。社会的企業(ソーシャルベンチャー)を創業する社会起業家が、ソーシャルイノベーションの旗手として脚光を浴びるようになってきたが、社会的企業やNPO・NGOだけが「社会的」であるのでなく、あらゆる組織が「社会的事業体」であるべきなのだ。

企業の存在意義は社会的価値の創出にこそあるべき

 営利企業の存在意義も、単なる財サービスの提供ではなく、それを通じた社会的課題の解決、すなわち「社会的価値(social value)の創出」にこそあるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。
 社会的価値の創出と経済的リターンの獲得を二分法的に別々のレイヤー(階層)としてとらえるのではなく、企業が社会的価値の創出(図表中の①)と引き換えに経済的リターン(図表中の③)を受け取るということがあるべき姿ととらえるべきだ。両者は密接不可分の関係にあり、かつ社会的価値が経済的リターンに対する「上位概念」であると考えるべきだ。社会的価値と経済的リターンを二層構造でとらえる限り、CSR活動と利益追求が別個の遊離した活動となりかねず、また無理やり両者を接合するための概念として「戦略的CSR」という造語を持ち出さなければならなくなるのではないかと思われる。
 また、企業が受け取るリターンには、経済的リターンに加え、非金銭的なモチベーションがあると考えられる(図表中の②)。具体的には高い志を達成したことによる満足感ややりがい、さらには社会からの企業に対する評価向上が挙げられる。このような非金銭的な社会的評価が従業員のモチベーション向上ひいては生産性向上、人材確保、顧客拡大、行政からの協力獲得などにつながり、経済的リターンとの好循環が起きることが期待される。
 経営トップの役割としては、志の高い社会的ミッションを企業理念として掲げ、それを全社に浸透・共有させ、組織風土として醸成し根付かせるとともに、社外のステークホルダーからも共感を得て、多様なステークホルダーと一致結束する関係を構築することが極めて重要だ。
 CSRは、従業員、株主、取引先、顧客、地域社会、行政など多様なステークホルダーとの高い志の共有、言わば「共鳴の連鎖」(注3)があってこそ実践できる。高い志への共鳴の連鎖を通じて醸成される、企業とステークホルダーとの信頼関係は、いわゆる「ソーシャル・キャピタル」(注4)と呼ばれるものであり、CSRを実践するための土壌となる。
 営利企業の行動を社会的ミッションの実現に仕向けるためには、多様なステークホルダーが企業の社会的ミッションに共鳴し、企業がそれを実現すれば社会が高く評価することにより、企業にミッション達成のやりがいを感じさせることが必要だ。企業とステークホルダーの間にこのようなコンセンサスが醸成されているなら、仮に経済的リターンが短期的に見込めなくとも、企業はやりがいや社会からの評価などの非金銭的リターンを糧に社会課題の解決に乗り出すことができるだろう。
 企業を取り巻く多様なステークホルダーの社会的価値創出への共感が、社会変革に向けた企業のCSRの取組を円滑に促進し、結果としてCSRの実践と引き換えに企業に経済的リターンをもたらすと考えられる。
 社会変革の旗手として、社会的企業・社会起業家への期待が高まっているが、本来は営利企業も高い社会性を有するべきであって、その社会性が社会的企業やNPO・NGOを常に下回ると考えるべきではない。営利企業も「社会的企業」と呼ばれるべく、高い志を持って社会変革に邁進しなければならない。そうすれば、「社会的企業」「社会起業家」という呼称は必要なくなる。社会的企業・社会起業家の台頭は、志の低い営利企業へのアンチテーゼととらえることもできよう。

図表 持続可能な社会

(注1)筆者が拙稿「環境効率を応用した環境格付けの試行」化学工業日報社『化学経済』2002年9月号、および同「電機にみる産業復権の条件⑤」日経産業新聞『ビズテク塾』2003年12月25日にて提示した考え方である。

(注2)「シェアードサービス型」の経営戦略については、第1回 CRE戦略の企業経営における位置付けと役割を参照されたい。
http://www.mecyes.co.jp/library/specialist/lecture001

(注3)注1と同様。

(注4)組織間のコラボレーション活動を円滑に機能させる、組織間の信頼感や人的ネットワークを指す。

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