IBM、アップル、インテル、オラクル、グーグル、シスコシステムズ、ヒューレット・パッカード(HP)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、マイクロソフトなどの米国大企業、英国のグラクソ・スミスクライン、フィンランドのノキアなど先進的なグローバル企業のCRE戦略には、3つの共通点が見られる。筆者は、これらを先進的なCRE戦略を実践するための「三種の神器」と呼んでいる。今回のコラムでは、この三種の神器の概要を紹介し、その中から戦略的アウトソーシングの視点について、詳細に解説したい。

CRE戦略実践のための「三種の神器」

 CRE戦略を実践するための三種の神器は、グローバル企業に限らず、あらゆる企業がCRE戦略に取り組む際の重要なポイントになるものだ。
 1点目は、CRE戦略を担う専門部署の設置による意思決定の一元化とIT活用による不動産情報の一元管理により、CREマネジメントの一元化を図っていることである。一元管理された不動産情報は、世界の拠点間のベンチマークに活かされている。
 2点目は、CRE戦略の重点が単なるハードの不動産管理にとどまらず、先進的・創造的なワークプレイスやワークスタイルを活用した人的資源管理(HRM)に移行させていることである。海外企業では、CREの担当役員が人事部門を同時に所管しているケースもある。
 そして3点目が、外部の不動産サービスベンダーを効果的に活用することにより、戦略的業務への社内の人的資源の集中を進めていることだ。施設運営など日々のサービス提供業務は、外部ベンダーに包括的に委託する一方、CRE専門部署では社内スタッフの少数精鋭化を進め、戦略の策定・意思決定やベンダーマネジメントに特化する傾向を強めている。社内スタッフと外部ベンダーが異なる組織にいながら実質的には一つのチームを形成し、社内スタッフはこのチームをフル活用することで、戦略的業務に注力することができるのである。
 1番目の視点に関連してCRE専門部署が果たすべき役割については本コラムの第1回、2番目の視点に関連してオフィス戦略の在り方については第2回・第3回で既に触れたため、今回は3番目の戦略的アウトソーシングの視点を取り上げることとする。

戦略的アウトソーシングのメリットと留意点

 一般的に企業にとって外部のサービスベンダーを活用するメリットは、ノンコア業務を外部委託することによって、ノンコア業務に関わる高品質かつ効率的なサービスを受給できることに加え、コア業務である戦略の策定や意思決定に専念できることである。これはCRE戦略に限らず、IT、経理、物流など他のシェアードサービス業務についても言えることだ。
 アウトソーシングを戦略的に活用できる前提条件として、高度な横断的専門知識を有し、戦略的パートナーとして信頼に足る外部ベンダーの存在が欠かせない。米国では、ジョーンズ ラング ラサール(以下、JLL)やCBREグループなど、グローバル企業のCREマネジメントを全世界的にサポートできる大手不動産サービスベンダーが台頭している。
 さらに、外部ベンダーを効果的に活用する上での留意点が3つ挙げられる。
 1点目は、外部ベンダーに委託するものとしないものを明確に分けることである。
 2点目は、外部ベンダーからの提案を検討・評価し、社内ニーズに応じたサービスをコーディネートできるベンダーマネジメント能力を身につけることである。この点は、本コラムの第1回で述べたように、CRE専門部署が社内顧客のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐリエゾン(橋渡し)機能を果たすことに他ならない。
 3点目は、外部委託したことで外部ベンダー側に蓄積される実務知見やノウハウを共有できるよう努めることである。
 重要なことは、外部ベンダーに任せきり・丸投げにするのではなく、外部ベンダーは自社と共に切磋琢磨するコラボレーションパートナーと捉えることだ。
 CRE部門のスタッフが専門的知見とベンダーマネジメント能力を十分に身につけていなければ、外部ベンダーを効果的に活用することはできない。外部ベンダーとWin-Winの関係が築けるよう、企業側も専門的能力を磨く努力を怠ってはいけない。

海外先進企業と日本企業のアウトソーシングに対する取組姿勢の格差

 我が国企業では、ITや物流などのシェアードサービス業務においてアウトソーシングが進展している一方、CRE戦略の遂行において外部ベンダーを効果的に活用している事例はまだ少ない。我が国企業は元々自前主義に陥りがちであり、未だCRE戦略に取り組む企業も少ないため、CRE業務でアウトソーシングを戦略活用するとの発想がなかなか拡がらないと考えられる。
 一方、海外先進企業では、P&Gは、シェアードサービスを進化させるためには、戦略策定や経営管理など戦略的業務を自社内にとどめ、契約プロセスやファシリティサービスなど一般化されたサービスを安く外注することが重要であると考えている。同社は工場、倉庫、オフィスなどの施設管理業務をJLLに世界規模で包括委託している(注1)。
 海外先進事例の中でも、マイクロソフトは、極めてチャレンジングなアウトソーシングモデルに取り組んでいる。それは「インテグレーターモデル(Integrator Model)」と呼ばれる、外部ベンダーとの新しいパートナーシップモデルの導入だ(注2)。このモデルでは、元来1アウトソーサーであった企業(CBREグループ)に、取りまとめ役(インテグレーター)として社内のCRE部門と一体の存在となってもらい、知見やネットワークをフルに発揮してもらうのだという。さらに、ビジネスシーンでは競合関係にあるインテグレーターと他のベンダーの間でも、マイクロソフトの目指す目標を共通のゴールとすることで、パートナー関係を構築してもらうのだという。マイクロソフト、インテグレーター、他のベンダーの間には、会社対会社という概念はなく、イメージするのは一つの組織体、運命共同体であるという。まさに究極のアウトソーシングモデルと言えよう。
 各々の役割としては、CRE部門の役割は、より戦略的に社内顧客と密接に連携し、ビジネス戦略に即したオフィス戦略を立て実行に移すことであり、インテグレーターの役割は、サービスを提供するベンダーの管理監督、不動産のポートフォリオマネジメント、ソリューションプランの提示をCRE部門と連携しながら推進していくことであるという。

(注1)P&Gは08年に、全世界80か国において1,394万m2に及ぶ工場、倉庫、オフィスなどの施設に関わるポートフォリオマネジメント、トランザクションマネジメント、不動産仲介業務、リースアドミニストレーション、戦略的ポートフォリオプランニングなどの業務をJLLに委託した。加えて、148万m2に及ぶオフィスとテクニカルセンターのファシリティマネジメント及びプロジェクトマネジメントに関わる従来からの契約も継続した。

(注2)マイクロソフトに関わる以下の記述は、山本泉(日本マイクロソフト株式会社)「FM・CRE部門の新しい組織づくりとパートナーシップ」『JFMA JOURNAL』2014 SUMMER №175に拠っている。

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