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事例分析:キャノン

 キヤノンは製造業では極めて珍しく、2000年代に地価の高い首都圏の土地を積極的に取得した。我が国製造業の勝ち組企業と評される同社だが、所有土地の資産規模(単体ベース簿価)は、1990年代前半まで大半の大手電機メーカーに比べ小さかった(図表1)。しかし90年代後半以降、大幅な収益向上により群を抜く強固な財務体質を構築し、2000年前後より積極的な土地取得に動き、足下では電機大手を大幅に上回る土地資産を確保している。
 特に2002年以降、研究開発拠点の整備・集約化のために、本社(東京都大田区下丸子)の隣地や周辺(川崎市)など、これまで不足していた首都圏の土地を取得した。単体ベースの土地取得累計額は、94年から2001年までの8年間では325億円(年平均40億円)であるのに対し、2002年から2009年までの8年間では932億円(年平均117億円)にも達する(図表2)。
 このうち、東芝から取得した柳町(川崎市幸区)の用地が最大の物件であり、当該用地には生産装置・金型の研究開発および生産を行う川崎事業所を2007年に開設した(図表2)。川崎事業所の土地勘定は簿価が約243億円、敷地面積が約11.5万㎡であるため、坪単価は約70万円に上る。矢向(川崎市幸区)の取得用地には、インクジェットプリンタ関連の開発を担う矢向事業所を2004年に開所した。矢向事業所の土地勘定は簿価が約127億円、敷地面積が約4.2万㎡であるため、坪単価は約99万円に達する。隣地が買い増された本社では、土地の簿価が約370億円に達し敷地面積が約11.5万㎡であるため、坪単価は約106万円にも上る。本社敷地の拡張部分には、新規事業開拓に向けた基礎研究機能を集約するため、121億円を投じて2005年に先端技術研究棟を開設した。
 一方、同社の株主資本比率(連結ベース)は、2001年末以降一貫して50%を超えており、直近の2015年末では67%に達している(図表2)。このように強固な財務体力を有するため、地価の高い首都圏の土地を取得・所有するリスクを取れると考えられる。同社は財務戦略とのバランスを取りながら、本社周辺の用地を相次いで取得し、2004年から2007年にかけて研究開発拠点の整備・集約化を一挙に進めた。
 基礎研究機能を集約した先端技術研究棟に加え、インクジェットプリンタの開発部門を集結させた矢向事業所、生産技術の研究開発部門を集結させた川崎事業所は、いずれも本社に近接して立地させている。企業の将来成長を左右する研究開発機能にとって、本社との近接性は重要であり、経営トップの目が届きやすいところに立地する意義は大きい。研究開発機能の集約が図られていることと併せ、定石通りの戦略が打たれている。
 また、技術者・エンジニアが都市圏での勤務を好む傾向が強まっていることや、都市圏の自治体が高度先端産業の集積に向けて研究所の誘致に注力していることから、産業界で研究開発拠点の都心回帰が起こっている面もあると考えられる。同社の事例は、CRE戦略が財務戦略に加え、立地戦略と人材戦略にもかなっていると評価できる。
 なお、研究開発拠点の集約化が一段落した2008年以降の土地取得は、地方圏での工場建設プロジェクトなどのための土地の先行取得に限定した動きとなっており、土地取得がほとんど行われない年も散見される(図表2)。

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