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ROS向上に資するCRE戦略例

 前節で述べた一つ目の経営視点に対応した、ROS向上に資する中期経営戦略をサポートするCRE戦略について、以下に考えうる主要な戦略例を挙げてみたい。
 一つ目の戦略例として、イノベーション促進に向けたR&D拠点や本社などでの創造的なオフィスづくり、すなわちクリエイティブオフィスの構築が挙げられる。海外の先進企業では、全く新しい価値を創出して競争のパラダイム転換を起こし、既存の製品・サービスの価値を破壊してしまう画期的なイノベーション、いわゆる「破壊的イノベーション」を起こすような製品・サービスの企画開発には、外部組織の叡智・技術も積極的に取り入れる「オープンイノベーション」の推進とともに、クリエイティブなオフィス環境の整備が必要条件になっていると言っても過言ではない。CRE部門は、クリエイティブオフィスの構築・運用において主導的な役割を果たすことが求められる(注8)。
 二つ目の戦略例として、フロア面積の広いメガプレートを備えた大規模ビルへ、分散していた本社機能などを戦略的に移転・集約することが挙げられる。賃料などの本社費用を抑えることも、ROSを高める方法の一つだ。ただ、大規模ビルへの移転・集約に際しては、単純なスペースの見直しや賃料削減などコスト削減だけに終わらせるのではなく、第3回のコラムで述べた通り、関連性のある複数の部署やグループ会社をワンフロアに集めることにより、社内のインフォーマルなコミュニケーションやコラボレーションの活性化を図り、グループのシナジー創出につなげることも欠かせない。この戦略は、コーポレート費用削減と前述のクリエイティブオフィス構築の合わせ技とも言える。
 CRE部門は、自社活用しているオフィス群の賃料等不動産コストやスペース効率などのポートフォリオデータや不動産市況の俯瞰分析に基づいた、賃借・取得・既存ビルの有効活用の選択を含めた、移転先オフィス物件の選定、移転のプロジェクトマネジメントなど移転集約プロジェクトの主要な業務について、外部の不動産サービスベンダーの力も借りながら、主導的な役割を果たすことが求められる。
 三つ目の戦略例として、ROSの高い事業へ集中する事業ポートフォリオ転換や効率性の高い最新鋭設備への更新集約による設備年齢(ビンテージ)構成の若返りに資する不動産サービスの提供が挙げられる。特に日本の製造業が低収益構造から脱却するためには、生産性とエネルギー効率が高い最新鋭設備への更新投資の促進が欠かせないと筆者は考えている(注9)。いずれの施策においても、事業拠点の移転集約・再編成を伴うケースが多く、CRE部門による迅速なサービス提供が欠かせない。例えば、ノンコア事業に関わる拠点を縮小・閉鎖する一方、コア事業に関わる工場やR&D拠点を新設するケースや、設備の老朽化が進んだ事業拠点を縮小・閉鎖する一方、最新鋭設備への更新投資を新規立地で行うケースがこれに当たる。
 事業拠点の縮小・閉鎖により遊休化した不動産をタイムリーかつ高値で売却し投資資金を捻出する一方、新規拠点に関わる複数の立地候補地の不動産情報を経営層や事業部門に迅速に提供し、そして立地地域が絞り込まれた際には、地権者との交渉を迅速にまとめることを含めて、適地に事業用地を迅速に確保することが、CRE部門の重要な役割となる。
 また、経営トップがコア事業を強化するための戦略投資としてM&Aを行うケースでも、CRE部門のサポートが欠かせない。例えば、買収対象の企業や事業に所属する従業員が入居しているオフィスと自社のオフィスを統合・集約する際に、CRE部門は不動産の専門的知見を活かして主導的な役割を果たすことが求められる。
 以上述べてきた戦略例をCRE部門が十分に遂行するためには、社内の経営層や事業部門、社外の不動産ベンダーや自治体などとのコミュニケーションを深めて信頼関係を十分に醸成し、普段から質の高い情報を収集しておくことが欠かせない。
 ROS向上に資するCRE戦略は、勿論ここに挙げた戦略例にとどまるものではない。経営トップが打ち出す中期経営戦略は各社各様であるため、それに伴って取るべきマネジメント・レイヤーのCRE戦略も当然各社で異なるはずだ。マネジメント・レイヤーのCRE戦略には、教科書的に決まったものがあるわけではなく、「中期経営戦略の遂行を不動産の視点からサポートする」という原理原則しかなく、具体戦略は各社のCRE部門が考え出さなければならない。従って、経営トップが打ち出すROS向上に向けた中期経営戦略に対して、不動産の視点からどのような貢献ができるのか、CRE部門のスタッフは徹底的に考え抜くことが求められる。

(注8)クリエイティブオフィスの考え方や先進事例については、本コラムの第2回・第3回を参照されたい。

(注9)老朽設備を廃棄し、生産性とエネルギー効率が高い最新鋭設備に入れ替えれば、経済性と環境性の両面で効率化を生むことが期待できる。

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