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組織スラックとしての創造的オフィス環境の重要性

 筆者は、我が国企業は東日本大震災を契機に、効率性のみを追求し、経営資源をぎりぎり必要な分しか持たない「リーン(lean)型」の経営への過度な傾斜から、経営資源にある程度の余裕、いわゆる「組織スラック(slack)」を備えておく、サステナビリティ重視の発想へ転換するべきであると考えている(注3)。
 創造的なオフィス空間にも、グーグルのオフィスのように、組織スラックの要素が必要だ。例えば、従業員が気軽に集まってインフォーマルなコミュニケーションを交わせる共用スペースは、イノベーション創出のために確保しておくべき組織スラックであるのに、リーン型の経営を徹底すれば、仕事に関係のない無駄なものととらえられ撤去されてしまうだろう。これまで多くの日本企業がそうであったように、効率性のみを追求したオフィス空間は、個性のない均質なものになってしまう。そうすると、短期的にはコスト削減に貢献しても、社内の活気や創造性が失われ、企業内ソーシャル・キャピタルは破壊され、イノベーションが生まれない悪循環に陥ることになるだろう。組織スラックの要素がイノベーションの源であると考えられる。
 オフィスづくりに組織スラックの要素を取り入れるには、経営トップ自身の感性や創造性が重要だ。従業員の創造性を引き出すことが経営者の重要な責務であることを感性で理解していないと、創造的なオフィスづくりは難しいのではないだろうか。金銭的メリットの裏付けがなければ着手できないなら、本末転倒だろう。自らの感性に基づいて、先進的なオフィスづくりを進め、その重要性を組織に根付かせるべきだ。
 「Good Design is Good Business」とは、米IBMの2代目社長であるトーマス・ワトソン・ジュニアが1956年に語った言葉だ。「快適なオフィス環境は社員の士気と生産性に貢献する」という意味であり、IBMのグローバル共通の経営ポリシーとして受け継がれている。
 創造的なオフィス空間は、従業員の意識やワークスタイルの変革につながることで効果を発揮する。創造的なオフィス空間を用意しても、従業員が定時退社を強いられたり、インフォーマルなコミュニケーションのためのスペースを利用するのは怠惰をむさぼっているとみなされる社内の雰囲気があるなど、働き方に制約が多ければ、折角のオフィス空間も宝の持ち腐れとなるだろう。創造的なオフィス空間を活かすためには、柔軟で裁量的なワークスタイルが許容されることが不可欠であり、働き方にも組織スラックの要素を取り入れる必要がある。
 グーグルでは、勤務時間の20%を自由に使って好きなことに取り組める「20%ルール」を制度化しており、従業員は自分でプロジェクトを立ち上げたり、他のプロジェクトチームに参加したりすることができるという。働き方に組織スラックの要素を制度的に取り入れた好例である。
 創造性豊かで能力の高い人材は、仕事を通じて社会に貢献することに喜びを見い出し、仕事をライフワークととらえる傾向がある。仕事と生活を切り分けるのではなく、融合一体化させる働き方だ。このようなワークスタイルには、創造的で自由なオフィス空間と柔軟で裁量的な働き方が不可欠である。
 創造的なオフィスづくりは、従業員の意識やワークスタイルの変革とセットで推進し、組織スラックに投資するという発想を持つことが極めて重要だ。

(注3)組織スラックの考え方については、
拙稿「震災復興で問われるCSR(企業の社会的責任)」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』
2011 年5月13 日
http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2011/eye110513.html
同「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011 年8 月号
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2011/08/repo1108-3.html
同「アップルの成長神話は終焉したのか」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』
2013年10月24日
http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2013/report131024.html
を参照されたい。

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