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先進的なオフィスづくりの4つの視点

 先進的なオフィスづくりにおいては、①戦略投資の視点、②組織を円滑に機能させる従業員間の信頼感や人的ネットワーク、すなわち「企業内ソーシャル・キャピタル」を育む視点、③経営トップの戦略意図や経営理念を象徴的に示す視点、④省エネの推進など環境配慮型不動産の視点、が重視される。

① 戦略投資の視点

 海外企業では、潤沢なキャッシュを事業に活かし切れずに株価が低迷すれば、敵対的買収の対象となりかねないとの意識が非常に強く、余剰資金は企業価値向上に資するべく、戦略投資への充当の可能性が絶えず考慮されているとみられる。
 先進事例では、HRMを強化しイノベーション創出の起点となる先進的オフィスの構築が、戦略投資の選択肢の1つとして考えられている。

② 企業内ソーシャル・キャピタルを育む視点

 従業員間の信頼感や人的ネットワークは、社内のコミュニケーションやコラボレーションの活性化を通じて、イノベーション創出につながり得ると考えられる。このイノベーションの源となる企業内ソーシャル・キャピタルを育むための有効なツールとして、オフィス空間を積極的に活用すべきである。従業員のつながりを促進するための先進的なオフィスづくりの共通点は、オフィス全体を街や都市など一種のコミュニティととらえる設計コンセプトの下で、従業員間のインフォーマルなコミュニケーションを喚起する休憩・共用スペースを効果的に設置している点だ。
 従業員の交流を促すための空間として、必ずしも大掛かりな仕掛けやオフィスビルの新設が必要であるわけではなく、動線に合わせた適切な場所、例えば階段の踊り場にコーヒーサーバーとベンチを置くだけでも効果を発揮することもあるだろう。
 特に日本の大手電機メーカーや大手化学メーカーのように、複数の事業群を幅広く兼営する総合型(コングロマリット型)企業において、製品・サービスの開発戦略上、コラボレーションすべき複数の事業部門を見極め、それらの事業部門を同一のオフィスに入居させ近接するフロアに配置することにより、従業員間のインフォーマルなコミュニケーションを促進し事業部門間の壁を低くすることが極めて重要になっている。これは、「範囲の経済性」により事業ポートフォリオのシナジー(相乗効果)を追求することに他ならない。
 在宅勤務やテレワークなどITを駆使した個人ベースの働き方のみでは、ワーカー間の関係が希薄となり、イノベーションを生み出す基盤の構築が難しくなってしまう。従業員の創造性を引き出すためには、柔軟で多様な働き方を許容する裁量的な人事管理制度の構築が不可欠ではあるが、画期的なイノベーション創出は、感情が見えにくく参加意識も希薄となりがちなバーチャルなコミュニケーションではなく、フェースツーフェースの濃密なコミュニケーションが起点となることが多いように思われる。
  製品・サービスのライフサイクルが短縮化する中、顧客ニーズの多様化や産業技術の高度化・複雑化に伴い、異分野の技術・知見の融合なしには、イノベーションのスピードアップが難しくなってきている。このような環境変化の下で、企業は社内の知識結集だけでなく、大学・研究機関や他社などとの連携によって、外部の叡智や技術も積極的に取り入れる「オープンイノベーション」の必要性が高まっている。
 筆者は、オープンイノベーションを成功に導く要因の1つとして、各々の組織内がオープンイノベーション志向を醸成する風土を持っていることが重要であると考えている。組織内部にオープン志向の考え方が根付いていなければ、外部との連携を受け入れることはできないと考えられるためだ。社内の事業部門間の壁を越えた「内なるオープンイノベーション」とも言える、企業内ソーシャル・キャピタルを創造的なオフィス空間で育むことは、外部とのオープンイノベーションを推進する上での必要条件であると言えよう。

③ 経営トップの戦略意図や経営理念を象徴的に示す視点

 知識創造型の先進的オフィスでは、カフェ、広間、開放的な階段やエスカレーターなど、インフォーマルなコミュニケーションを促進するための空間がフロアの中心にレイアウトされることで、そのような空間が企業経営にとって中心的な意義を持っているということを明確に示している。このようにオフィスは、経営トップの戦略意図や経営理念を象徴的に示すものであると言える。
 例えば、役員のための専用フロア・食堂や高価なオフィス家具を排し、役員は一般社員と同じ広さの執務スペースで業務を行い、会議室はガラス張りのものしか設けないオフィス空間は、経営トップが従業員に高い信頼感を寄せ、上下関係を排し透明性の高い開放的な組織を志向しているとのメッセージとなる。このメッセージを受けて、従業員のモチベーションや参画意識は高まるだろう。
 また例えば、オフィスを建て替える敷地内に当該企業にとって創業時の歴史的・象徴的建造物がある場合、それを撤去せずにモニュメントとして保存しつつ新オフィスとの調和を図れば、モニュメントを拠り所として全社一丸となって、これまでの良き企業文化を守り続けるとともに、新オフィスの下で新たな歴史を刻んでいこうとの経営トップのメッセージが従業員に伝わるだろう。

④ 環境配慮型不動産の視点

 持続可能な社会の構築に向けて、企業による環境問題への取組が強く求められる中、改正省エネ法(2010年および2013年施行)や東京都の環境確保条例改正による温室効果ガス排出総量削減義務(2010年度より開始)など地球温暖化防止に向けた規制強化、東日本大震災を契機とした電力不足に備えた節電要請などへの対応が、企業にとって喫緊の課題となっていた。足下では原油価格が大幅に下落したものの、省エネ・温暖化ガス削減に向けた抜本的な施策に引続き取り組むべきだ。省エネ・温暖化ガス削減に向けた取り組みは、CSRを果たすことに他ならない。
 我が国のCO2 排出量(2014年度約12.7億トン(速報値))のうち、オフィスビル等の業務部門(他に商業施設等も含まれる)が2割超を占め、しかも90年度対比でほぼ倍増となっている(2005年度対比では11%増)。また、東京都のCO2 総量削減義務の対象範囲の事業所(約1,300の大規模事業所)のうち、約8割を業務部門が占めている。従って、オフィスビルでの省エネ対策の重要性が一段と高まっている。
 オフィスビルでの省エネ対策として、例えば、吹き抜けによる自然採光・自然換気などの施策を講じると、コスト削減に直接つながるとともに、室内環境改善により従業員の快適性・健康が向上し、また環境貢献への満足度が高まれば、業務の生産性・品質の向上や優秀な人材の確保につながるだろう(図1)。優秀な若手人材の中には環境意識・社会貢献意識の高い人材が増えていると思われ、このようなポジティブな効果が大いに見込めると思われる。
 我が国でも、従来のオフィスビルに比べ光熱費の大幅な削減を図るグリーンビルディングが構築され、環境配慮の取り組みが積極的に進められている。ただし、必ずしも空調や照明などの最新鋭の省エネ機器の導入や、それらを備えたオフィスの新設が必要であるわけではなく、既存の機器の効率運転や省エネに向けた従業員の意識付け・働き方の変革など、運用面の見直し・工夫も極めて重要である。

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